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犯則と処遇(連載第32回)

2019-02-18 | 犯則と処遇

26 刑事司法から犯則司法へ

 前章まで、伝統的な「犯罪→刑罰」体系によらず、犯則行為者に対する科学的な処遇を中心に行なう新たな「犯則→処遇」という体系の概要を述べてきたが、本章から先は、そうした新たな体系による司法処理のプロセスに関する諸問題を扱う。

 その点、「犯罪→刑罰」図式の下では、捜査→訴追→裁判の三点セットのプロセスが圧倒的な主流を占めている。これは科刑の権限を裁判所(裁判官)が保持するという前提の下に、通常は警察が犯罪捜査を担当し、その結果をもとに特定された被疑者を裁判所に訴追し、審理・判決するというそれなりに合理性のある明快なプロセスであるがゆえに、近代的刑事司法制度の標準モデルとなったのだろう。

 これに対して、「犯則→処遇」体系における新たな司法処理のプロセスを図式的にまとめれば、捜査→解明→処遇(+修復)というものである。起点が証拠収集のための捜査にあることは同じであるが、捜査終了後、裁判所への訴追・審理という流れの代わりに、真相解明という独自のプロセスが現れる。

 真相解明は、既存の刑事裁判所でも審理の中心課題ではあるが、刑事裁判の最終目的は科刑にあるから、真相解明は科刑のために必要な限りで、しかも訴追を専門官僚としての公訴官(検察官)が行なう標準型では、訴えを起こす原告に相当する公訴官の主張の真否を問う形で実施される。
 それに対して、新モデルにおける真相解明は解明そのものを目的とし、処遇には及ばない。純粋に何が起きたのかという事実認定に焦点を絞って、捜査機関が収集した適法な証拠に基づいて解明するプロセスである。従って、その担当機関は裁判所ではなく、まさに真相解明そのものを任務とする特殊な合議機関―真実委員会―であることがふさわしい。

 この真実委員会による審問と審議の結果、単独または複数の犯行者が確定された場合、その者(たち)に異議がなければ、最終的な処遇審査に付せられる。
 その点、刑罰制度を前提とする刑事裁判では、最終的な科刑も審理に当たった裁判官が量刑という擬似数学的な形態をもって行なうが、「犯則→処遇」体系における処遇は科学的な観点から、より専門的な審査に基づいて行なわねばならないから、真相解明とは全く別個の処遇審査機関―矯正保護委員会―が行なう。

 ここで同時に、被害者のある犯則行為においては、被害者・加害者間で、修復というプロセスも行なわれる。これは比較的被害程度が軽微な犯則行為について、被害者・加害者間でその関係の修復が成立すれば、それ以上の処遇は課さないというある種の免除を導くものである。

 以上のような新たな司法処理モデルは、もはや刑罰の付加を最終目的とする司法制度ではないから、これを「刑事司法」と呼ぶことはふさわしくない。ただ、真実委員会や矯正保護委員会は高度の中立性を要求されるため、行政機関ではなく、司法機関の体系に属するべきである。
 従って、新モデルも司法制度の一環ではあるが、名称としては、犯則行為の処理に関わる司法という含意から、「犯則司法」と命名することにする。標語的に言えば、「刑事司法から犯則司法へ」である。

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