【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

食文化への希求

2008-02-11 00:21:29 | 医療/健康/料理/食文化

高橋哲雄『東西食卓異聞』ミネルヴァ書房、2007年
           東西食卓異聞
 著者はイギリス経済史の研究者で、元大学教授(甲南大学、大阪商業大学)です。「あとがき」で、著者はもともと食や味に興味があったのだが、50歳を過ぎて経済史から社会経済史に関心が移り、そのなかで食の分野が「興味の樹」の一番育てたい枝となったこと、そして乞われて移った大学が東大阪市にあり、そこでの食べ歩き(地元の人はそこの「食」文化に否定的であった)で得た成果がこの本のもとになったエッセイの源泉になっていると語っています。

 食に関する幅広い知識とそれを裏づける経験が開陳されています。また、多くの作家の作品から「食」の場面、記述を引いています。目次が魅力的なので、メニューを示します。

Ⅰ 食のにぎわい
  1 ソーダブレッド異聞
  2 うどん王国の不思議
  3 カレーライスの国籍
  4 そばの花咲くふるさと
  5 たかが卵、されど卵
  6 ホルモン焼知ったかぶり
  7 スープの力
  8 不味も味のうち
Ⅱ 食のさざめき
  9  鴎外のミスマッチ
  10 鮨――国際経済を知るは不幸のはじまりか
  11 鍋びいき鍋ぎらい
  12 一人鍋はせつないか
  13 ワインの秘密
  14 ソースライスと醤油ライス
  15 「皿に向って作る」
Ⅲ 食のときめき
  16 夜の桃
  17 鯉のひげ
  18 野ゆき山ゆき海辺ゆき
  19 瀬戸内・水物語
  20 りんごのこころ
  21 塩釜のさんま――東北幻想
Ⅳ 食のかなしみ
  22  絶望のスパゲッティ
あとがき


 「うどんの不思議」では「讃岐うどん」のことが書かれていますが、昨年香川県高松市で確かに、ここに書かれているように「うどん」を注文し、同時にいくつかの天ぷらモノ、「おいなり」などを自分で選んでまとめて「会計」したことを思い出しました。

 「カレーライスの国籍」では、カレーライスを「日本食」であると断定したうえで、「日本型カレーの祖型」であるイギリス伝来のものと、レストランのフレンチ系を紹介し、それより遅くに入ってきたインド風の「本場カレー」(インド独立運動の志士ボースがその普及に寄与した中村屋のそれ)の説明をしています。(2月4日に紹介した森枝卓史『カレーライスと日本人』講談社新書、1989年、参照)

 「スープの力」ではヨーロッパ風のスープとはもともと野菜、肉、芋、豆など具がたっぷりの汁物であり、だから「スープを食べる」と表現されるのであって、アペリチフ的なそれは後から幅をきかせてきたもの、と解説しています。

 食の映画「バベットの晩餐会」、志賀直哉の「小僧の神様」と鮨、斉藤茂吉の「ひとり鍋」、森鴎外の「饅頭茶漬」など話題豊富で、わたしのうちなる食文化への希求が一気に引きづりだされてきました。奥さんがこの本の出版を楽しみにされていたのに、出版直前にお亡くなりになったとのこと。その経緯は「絶望のスパゲティ」に書かれています。

おしまい。