田辺聖子『言い寄る』講談社、2007年
「言い寄る」「私生活」「苺をつぶしながら」の3部作の最初。30年前ほどに刊行された小説の復刊です。復刊の背後には、ハイ・ミス(今では死語に近い)女性たちの圧倒的支持があったからだといわれています。
主人公、玉木乃里子(31歳で未婚のOL)のいきがかりの恋と挫折の物語です。乃里子は保険会社を辞め、デザインの仕事をしています。
彼女には、美々という女友達がいますが、美々は「タアちゃん(甲斐隆之)」とつきあっていて妊娠してしまいました。タアちゃんは、そのことに責任をとらないで、逃げようとしています。美々はこれをお金で解決しようとし(中絶のための)、その金を乃里子がとりにいくところから話がややこしくなっていきます。
というのは、お金の受け取りの待ち合わせの場所にタアちゃんの相棒のゴウ(剛)がきて、プレイボーイのゴウが乃里子をそのまま別荘に連れていってカラダをモノにしてしまったからでした。
乃里子はゴウとは何故か気があいますが、愛してはいません。乃里子はゴウを介して水野という中年の男性に出会います。
水野はおとなの男で、乃里子は彼との関係で初めての性的快楽を得ます。ふたりの男をかけもっていますが、乃里子が本当に好きなのは、まったり系でいつもぼんやりとしている五郎(三浦五郎)でした。彼には恋心が邪魔をして、思うように声がかけられません。「言い寄る」ことができません。彼の前だと舌がまわらないのです。その五郎は乃里子の家にきて飲んでも、必ず何事もなく帰っていきます。
一方、美々は新興宗教の信者である母親に堕胎は許さないと言われ、籍を入れて産むようにさとされます。挙句の果てに美々は五郎の優しさを利用し、彼の籍に臨時に入ることにしてしまいました。乃里子はヤキモキと嫉妬。
美々は結局、流産してしまいます。そして二人の関係は、乃里子の思わぬ展開となり、文字通りの結婚へ。心に穴の開いた乃里子は、自宅で水野との逢瀬。彼が帰った直後に、ゴウが来て、ふたりの関係を知り、・・・・・・・。この結末は読んでのお楽しみです。
面白くて、面白くて、あっという間に読んでしまいました。続編にも期待できます。
おしまい。