1972年、札幌の中学に通っていた僕は生物部に所属していた。放任主義の顧問に代わり、あれこれ解決策を提示してくれたのは、同じ部の美少女・棚田美代だった。そんな彼女にほのかな思いを寄せる僕だったが……『夏の雫』、
僕が二十一歳の頃。新宿のロック喫茶でウェイターをしていた。その店の紅一点が、自称十九歳の理沙だった。彼女は、僕以外の男性従業員七人と関係を持っていて……『橋または島々の喪失』、
三歳になった息子の俊平が、庭で卵詰まりで弱っていたメジロを見つけた。
もう三十年前、大学時代に住んでいた場所に小鳥屋があったことを思い出し出かけたが……『失われた鳥たちの夢』、
札幌から東京に進学の為上京、高田馬場の予備校に通っていた僕は、同じ大学を目指す絵美と出会う。孤独から逃げるようにぐるぐると山手線に乗り、円を描き続けた日々。やがて希望通りの大学に進学し、恋人同士となったが勉強に勤しむ彼女をよそに、酒や麻雀に溺れ……『不完全な円』、
今から五年ほど前。三十八を前に会社を退職する決意を固めていた僕。それまでの経験を活かし、編集プロダクションの会社を立ち上げようとと思いたったのだ。
辞表を出す前にひとりで長野に出かけ、北アルプスの山々を見に出かけた僕。泣いていた少年を見かけた僕は、かつて自分が万引き犯として捕まった時のことを思い出す……『もしその歌が、たとえようもなく悲しいのなら』、
大学時代、漠然と小説家になりたいと考えていた僕は、その後将棋道場に通いつめるようになった……『フランスの自由に、どのくらい僕らは、追いつけたのか?』、
一九九四年のある秋の日のこと。
大学六年目だった僕は、早朝の近所の公園で寝そべっている女の子を見つけた。日仏混血らしい不思議な少女・スウィニー。彼女の日本での記憶のはじめの風景は、成田エクスプレスだという……『さようなら、僕のスウィニー』、
高校二年生の僕。十九で死ぬという自分で決めたというクラスメイトの奈美。その一週間ほど前にも、別の十七歳の女の子にもおなじようなことい言われたばかり。なぜ彼女たちは、十九で死ぬことにこだわるのか……『虚無の紐』、
二年前に他界した父の納骨式の帰り、特急カシオペアに乗った僕と妻・麻子と息子の俊平。ワインを飲みながら、父の思い出を語る……『キャラメルの箱』、
二〇〇五年の一月、僕は禁煙を決意した。ヘビースモーカーだった僕は、次々と現れる禁断症状に悩まされつつも……『確かな海と不確かな空』の10編収録の短編集。
鉄道モチーフがちりばめられた短編集(部分的に、登場人物が重複していて連作っぽい)。
以前にちょっとアンソロジーか何かで読んで気になっていたのですが、まとめて読んだのは初めてでした>大崎作品
透明感のある、読み易い文体で好印象。
<10/5/19>