Cafe de Kerm ~毒味ブログ~

物言いにも、珈琲にも、もれなく毒が混入している可能性が無いこともないです。

5ドルのデバイスにできること

2009-05-28 23:59:59 | Thinkings

 たとえば、OLPCが100ドルPCでまいた種によって(必ずしもOLPCのXOではなかったにせよ)発展途上国のたくさんの子供たちにノートPCが届けられる公算がたちました。PCと、それに搭載されているソフトウェア、そして接続できるインターネットは、子供たちに多くの情報とイノベーションをもたらすことでしょう。

 たとえば、Wikipediaはジャンルを問わず、さまざまな知識を無料で提供してくれます。それこそ閲覧するデバイスさえあるならば、情報格差を高いレベルで解消するすばらしいナレッジベースです。

 しかしながら、これらのデジタルデバイスおよびそれに依存したナレッジベースは、電気も回線も来ていないか、とても貧弱な場所で使うには、たとえ手回し式の発電機があるにせよ、いろいろと無理があるでしょう。ことXOについてはこのブログでも幾度となく取り上げていますが、ほとんどの場合がガジェット的なおもしろさ・・・つまり「自分が使ったら」という立場に立って書かれたものであり、子供が現場において実際に使うという場面をあまり想定していませんでした。そのあたりの考察については、今になって思うと非常に甘かったのではないかと考えざるを得ません。

 そう思ったのは、もちろんPCそのものや、インフラに対しての見通しもそうなのですが、以下の記事を読んで思い返した「識字率」の問題があります。

100ドルノートPCの次は――「5ドルデバイス」で世界を救え ITmedia

 「このアイデアは1年ほど前に思いつき、そこから進化した」とシュミット氏は言う。「わたしはOLPC(One Laptop Per Child)に協力し、ノートPCを使った識字向上支援の方法を考えていた。ガーナに行ったときにノートPCを何台か持って行ったが、価格の問題で、ノートPCは解決策にならないと気づいた。ノートPCは特定の問題の解決策であり、長期的には開発途上国にとって戦略的に有効な手段となり得る。だが個人が生活の質を高められるようなデバイスを買えるようにするために、200ドルや100ドルのノートPCの代わりに、5ドルのデバイスを作れるだろうかと思った」

 シュミット氏が考えたのは、100ドルのPCよりも5ドルの識字率を向上させるデバイスを作った方が、生活の質の向上にずっと役に立つと言うことです。確かに、文字が読めなければWikipediaもPCも、それどころか分厚いブリタニカ百科事典だって置物以外にはなれません。彼が考えたデバイスは、「Talking Book」という、いわゆる多機能なポータブルオーディオプレイヤーです。

 このデバイスに本を読み上げさせる事により、一人でも文字学習ができるようになるというもの。また、読み上げ以外にも音声情報の交換や録音など、音声情報を使ったナレッジデータベースプレイヤーとも言える代物です。確かに、文字が読めない人には液晶ディスプレイとか要らないですね。

 これを見ていたときにふと思い出したのは、インドで開発中の20ドルネットデバイス。インド国内の各学校に、学習教材を届けてプリントアウトさせるというものですが、100ドルPCの前段階である「基礎的な学習」をあまねく受けさせるために作られたという点は今回のものと似ています。むしろ、これら二つを組み合わせて使用する事ができたなら、その効果は何倍にも跳ね上がるのではないでしょうか。

 今回のTalking Bookは、はっきり言ってガジェット的にはそんなに面白いものではありません。むしろ、iPodやNWウォークマンを知っている人間からすると「でかくてかっこわるく、スマートでもない」ものです。ただ、本当に広く、安価に普及させるという目的を持つならば、むしろそういう枯れきったデバイスをいかにうまく組み合わせるかという点に注力すべきではないか、と今回の件で思いました。そういう意味では、IntelのClassmatePCやXOよりも前に、まだまだやれることは残っているような気がしますね。