kenroのミニコミ

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現代美術の役割とは何か  2011横浜トリエンナーレの感想から

2011-09-17 | 美術
美術で食っているわけでもないのに、横浜トリエンナーレは毎回行っている。今では大御所となった蔡國強や、草間彌生、石内都などその後ヴェネチア・ビエンナーレでイクシビションを飾る大家が、その登竜門として?横浜トリエンナーレのメインを担うのは今や常識である。そして、2003年の横トリでその非凡さを見せつけた束芋は、今や日本を代表するアーティストとして今年のヴェネチア・ビエンナーレの日本館を担当。コンピューター・グラフィックスであるのにその泥臭さ、アナログっぽさが日本的であると受けているのか、束芋の評価は高いし、筆者もなぜか惹かれるところがある。
束芋の魅力については以前紹介した(http://blog.goo.ne.jp/kenro5/e/f6612328ea6416fcb28ab3f3a66c798f)が、今回の横トリで、次代のヴェネチア・ビエンナーレを担う層が出てくるか。
今回はじめて横浜美術館を会場にしたのは、どのような理由かは分からないが、既存の美術館、それも決して大きくはない横浜美術館を会場にしたことで、いくぶん、こじんまりとした感はぬぐえない。現代美術館として開設されていない限り、どうしても制約がある。天上の高さであるとか、そもそもの部屋の広さであるとか。横浜美術館はこれまでの展覧会、近代彫刻を取り上げた時など、特に好もしい企画展、を擁していたが、収蔵作品を今回現代作品に織り交ぜて展示しているあたり、すでに持っている近代作品のコレクションにも自信と自負が見て取れた。ブランクーシ「空間の鳥」、エルンスト「少女が見た湖の夢」、マグリット「王様の美術館」などのまさに近代作品のほか、今回出品するために特別に制作されたのではない現代作家の逸品、石田徹也や杉本博司も登場して、もう、どこまでがトリエンナーレか分からないほどだ。が、それがまた、うれしい展示ではある。
東日本大震災前から本展は企画されていたであろうが、今回、展示が横浜美術館というと、いわば、現代美術には狭い空間で展示されたのは象徴的である。というのは、ちょうど10月に開催される神戸ビエンナーレが、電気使用をおさえるためにこれまでのようにわざわざコンテナを運んでの屋外展示を止め、公園でのインスタレーションを除いてすべて屋内に変更したことからも、「節電」を意識したものになっているからだ。実際、屋外でしたのと屋内でしたのとの節電効果の違いはよくわからないが、今回の横トリでは、メイン会場を横浜美術館(と日本郵船海岸通倉庫)としたことによって、少なくとも赤レンガ倉庫であったような巨大な作品はなくなったのは事実だ。だから興味失せる、のではなくて、逆に近年敬遠されていた?ビデオ作品が増えたのがまた、興味深いのだ。
たとえば、ベトナム人(母は日本人)作家ジュン・グエン=ハツシバの作品。「呼吸することは自由:日本、希望と再生」と題した作品は「地球にドローイングを描く」プロジェクトで、東日本大震災の被災地を地元の人らとともにGPSを装着して走り抜けるというもの。全て押し流されて荒地となった背景、がれきの山のバックを走りぬける様は痛ましく、かつ、心地よいだけではない。GPSの軌跡は桜の花などのかたちとなって浮かび上がるのだ。未曽有の震災を目にして多くの作家は「自分に何ができるか」を考えたことだろう。自粛騒ぎもあるが、女子サッカーなでしこではないけれど、結局、自分の本分でしか活動できないとしたら、美術家もやはり芸術でしか震災を自分のものとしてとらえることはできないのではないか。
ジュン・グエン=ハツシバは自分や地元の人が駆け抜ける街を見てほしい、と同時に、前に向かって走る(「べき」とか「ったほうがよい」ではない、決して。)姿を自らの震災の態度として作品にしたのだ。そこには冷笑、ニヒリズム、そして虚無感もない。むしろ、6か月たった被災地以外の日本に住まう人たちへの「忘れないでほしい」というささやかな警鐘なのだろう。
沖縄やパレスチナの作家がなんの外連味もなく、土地をそのまま描くとき、映すとき、彼ら彼女らは、その土地への過剰な支えを、期待しているのではないだろう。むしろ、「忘れる」に長けた現代人に対して「忘れない」の共有を呼びかけているに過ぎない、のだろう。現代美術というのは、すべからく、何らかの政治的メッセージを内包したコンセプチュアルアートの宿命を負っている。今回の横トリのおとなしさと問題提起は、そのあたりも含めて「現代美術」、さもありなんと、少し想定内で上品ではある。
(砂澤ビッキ「神の舌」)
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