戦争というものを映画で描くには、古今東西沢山のスタンスがありました。
戦争ヒーロー、英雄もののような、露骨な賛歌的な映画も沢山ありますし、虚しさと悲しさを前面に出した誰にでもわかるような反戦映画もあります。
パッと見は反戦を謳っていそうで、実は逆とか。その逆とか。
やはり人の生き死にに関わることですし、世界中から戦争が無くなった事は、有史以来一度も無いわけですから、人々の興味が尽きないジャンルであるのは間違いないのです。
数ある映画賞の中でも、やっぱりその権威の大きさが群を抜く、米・アカデミー賞。今年から、各部門のノミネート数が5作品から10作品に増え(これは当然、「アカデミー賞ノミネート作品!」を沢山作るためですね)、あのジェームズ・キャメロン監督の「アバター」と、彼の元奥さんであるキャスリン・ビグロー監督の「ハートロッカー」がそれぞれが9部門にもノミネートされるという、元夫婦の二大対決!みたいな感じでその結果が待たれておりました。
「アバター」に関しては、以前にも書きましたが、もう個人的には大好きな娯楽作品でした。もう作品賞と監督賞は決まりだろうなー、と思っていたところに、なんとまさかの・・・アバター3部門のみの受賞。撮影賞、美術賞、視覚効果賞・・・そりゃあ、これ獲らないわけはないですけど、でもなぁ・・・。
対して「ハートロッカー」は、作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞、編集賞、音響編集賞、音響調整賞の6部門受賞。
特に「作品、監督、脚本、編集」って、主要な賞を総なめですものね。最高の映画です、って特大の花まるハンコをもらったようなものですよ。
・・・そりゃあ観ないわけにはいきませんて。あのアバターを抑えた作品とはどんなものぞや、ってね。アカデミー主要賞をはじめ、世界の主要映画賞104冠を達成した、
「ハートロッカー」
とは。ジャジャン。
で、感想です。以下、あまり露骨なネタバレは含まないように注意しますが、それでもこれからご覧になる予定の方には先入観を与えてしまうかもしれませんので、ご注意下さい。
建国以来、一度も戦争を止めた事が無く、当然のように今現在もやっている国の作る戦争を題材にした映画を、その国民が観るのと、65年前には国としては戦争を止め、以来放棄している国の国民が観るのでは、そりゃあ、感想は違うでしょう。日本なんて「もう戦争しちゃおうぜ」とか「戦争カッコいいじゃん」とか言ったら、もう政治家でなくても、結構大変でしょう。国のみならず、国民のメイン・スタンスがもはや全然違うわけですよ。
・・・にしても、です。
僕にはこの映画は、ただただ、アメリカが戦争を正当化する、戦争に行って戦っている兵士ってかっこいいでしょ、あなたもどうですか?的なプロパガンダ的な映画に思えて仕方ありませんでした。
・・・退屈な日常から抜け出してヒーローになれるよ戦争!性根は優しいあなたも戦争!強くなれてかっこいいよ戦争!緊張感たまらないよ戦争!もう、テレビゲーム感覚でどうぞ、戦争!どーんと死ぬのもカッコいいよ戦争!誰かがやらなきゃなんだよ、戦争!
・・・いや、そこまでではないかもしれませんが、そんな「おいっ」って思う描写があったのは確かです。露骨にそう言っているわけではないでしょうが、なんだか暗(あん)にそう言ってるように見えちゃう、というか、少なくとも、僕にはそう感じられました。
少なくとも、これは反戦映画ではありませんでした。それなりに戦争の痛さや切なさは描いていますし、こんな殺し合いして、不毛なことだ、ほんと・・・とは思います。でも、映画としては、もう有名なところで「プラトーン」や「フルメタル・ジャケット」「プライベート・ライアン」などで上手に描かれたと思いますし、他にも、僕が観た中でイラクを題材にしたものでは、以前にもご紹介しました、「イラク 狼の谷」も良かったです。観た後にと、ずっしりとメッセージとして残るものがありました。出来ることなら、戦争なんてなくなればいいのに、と思わされた映画たち。この「ハートロッカー」は・・・、むしろ、アメリカが戦争をしていることを、どこか・・・誰かせいにしている、というか。
それに、僕はやっぱり映画は脚本だと思っていますが、その脚本も、あまりにも・・・。そして、編集も・・・。一体どうしちゃってるんだろう、と思いました。万全の体制で観にいったのに、久しぶりにお尻が痛くなってしまいました。
この映画の脚本が脚本賞や編集賞を獲ってしまうアカデミー賞って、もう最近はその権威の堕落ぶりも叫ばれてはいましたが・・・これは。まあ、先ほども書きましたが、僕たちの感覚や常識で考えたって仕方ないわけです。保守派の強さを思い知らされました。
イラクからは近く完全撤退するそうですが、それは、当初の目的であった、平和が戻ったからでも、国が立ち直ったからでもなく、もはや・・・お手上げだからに他ならないでしょう。今のところはまだ世界一の経済大国であるアメリカも、・・・お金、無いですからね、今は。
それでも、アメリカは戦争をしなければならない(らしい)。ノーベル平和賞を受賞した大統領が、アフガンにも増派を決めています。
そして、未曾有の不況の中にあるアメリカで貧困層は、もはや兵士になるしか、収入を得る道がないとすら言われています。事実、バブル期には足りなかった兵士が、今は必要十分な数の志願者が殺到しているそうです。なにに必要十分かは、あちらの都合ですが。相変わらず”戦争という商売”に手を染めなくては、生きていけない国であり、人々であるのは事実なようです。
映画で一つのテーマとして描かれている”戦争中毒”。それは、この主人公だけでなく、アメリカそのものでしょう。キャスリン監督が、もしも、実はそのメッセージを伝えたかったのだとしたら、・・・主人公のキャラクター設定が、セリフが、行動が・・・「?」だらけで、残念ながら感情移入が難しかったです。でも、これが脚本賞・・・うーん。僕が変?
平日とはいえ、お客さんは10数名ほど。僕は一度目のアバターは大体同じ規模の映画館で観ましたが、あちらは平日でも、大人から子供までの豊かな客層のお客さんで、ほぼ満員状態でした。
DVDやブルーレイ、ネット配信やホームシアターの普及などで、衰退一途を辿っている映画産業。
そのメインの活躍の場である映画館に、あんなにも沢山のお客さんを呼び戻したアバターの功績は、もっともっと認められていいはずです。
ただ、アバターも、戦争万歳とは言わないまでも、「戦うときは戦うぞ。相手を殺してでも、自分たちの信念を貫くんだ」的な、若干ご都合主義はありましたね。まぁ、アメリカの映画ですから、それはもう、なくならないのでしょうし、そもそもキャメロン監督は、武器とか、軍用マシン、大好きですものね(ターミネーター2、エイリアン2なんかでもお分かりのように、武器とか戦闘シーンを描くのがやたらに上手なんですよね。もちろん、アバターもでした(笑))。
それにしても、なぜこの作品だったのか。やっぱり、言われているように、何らかのパワーが働いたのか、あるいは、本当に戦争大国アメリカの国策に合う映画だったからなのか。僕は久しぶりに首が90度横に曲がったまま、映画館を後にしました。
唯一の見所だったなあ、と思ったのは壊されまくった、ボロボロのイラクの街の風景です。世界でも最も早くに文明の栄えた、美しい街の一つだったはずなのに。今は、瓦礫とゴミの街。今のイラクの街は・・・あれは、人の心を酷く荒ませる光景だと思います。イラクの人にとっても、送られるアメリカ軍の若い兵士にとっても。
ハートロッカー The Hurt Locker・・・兵隊用語で、意味は「行きたくない場所」「苦痛の極限地帯」とか「棺おけ」を意味するのだそうです。
えー、ハートリンパー(The Heart Limper)、などという言葉は、ありません。僕が勝手に(笑)。
limp・・・形容詞として、ぐにゃっとする、弱々しい、など。become limpで、グッタリする。
・・・帰りにはその憂さを晴らすように(笑)、ものすごい勢いで、カツ丼と大盛りうでんのセットを食べて帰ってまいりました。美味しかったー。
復活。
ではー。