がっこーのあと、もう、だいぶ夜の時間帯なのですが、緑ちゃん倶楽部のレッスンがありました。
今日のレッスンは、最近、入会して下さった、香港からの留学生の方。
スペース緑に着きますと、すでにエントランスには、彼が待ってました。
「あれ?どうしたのですか?」
と訊くと、
「ハイ、時間を、間違えて早く来てしまいました(笑)」
と。
はい、僕にとっては、こういうことはまったく他人事ではないので、至極同情……というか、まあ、同類さん、という(笑)。
でも、寒い中、小一時間も待たせてしまったみたいで、申し訳なかったです。
コンビニとか、結構時間があれば喫茶店とか、色々と場所はあるとは思うのですが、そういったところも、やはり、彼にとって、ここは“外国”なんですよね。
ともあれ、スタジオで話を聞きますと。
「ふうー、今日は、色々大変な日です」
というのです。
「どうしたのかな?」
と訊ねますと、
「朝、自転車がぶつかってきました。突然、僕の身体のこっち半分くらいにドーンッ、と当たってきて、僕は、ビックリしました。
でも、その人は、僕をすごく怖い顔で睨んで、すぐにすごい速さで走っていきました。謝ってもくれませんでした。
僕はしばらく、腕が痛かったです。」
ひどいなあ…。怪我しなくて、せめてよかった。
「そのあと、こんどは、電車に乗ろうとして、僕は並んでました。ホームにはすごい沢山の人がいて、電車も満員でした。
人が降りてくるのを待って、僕が乗ろうとしたら、後ろに並んでいた会社員風の男の人(年配の人だったらしい)が、僕の前に割り込んで、僕を押しのけるようにして乗ろうとしたんです。
ですから、僕は、『僕、並んでます』って言ったら、僕を見て、日本語で、なんか……怒鳴って、悪口を言われました。なんていったのかは、僕にはわからないけれど。」
もう……。
代わりに謝っておきました。
「僕、さすがに怒りました。そして、言いました。」
「おお、なんて?」
「shit!」
「そうだね、そのくらい言うよね。いいよいいよ。で?」
「でも、日本語では、こんな時、なんていえばいいのかわからなくて。汚い言葉とか、まだ知らないんです」
「あ、それはいいよ、覚えなくて(笑)」
「そうですか。でも、僕、頭にきたので」
……ごくり。
「僕は、言いました!
『あなた!頭、変ですか?』」
……うーむ。
弱いな(笑)。
彼は、背は175センチくらいありますが、見た目、とても優しそうな、サラサラヘアーの穏やかなルックスなんです。
案の定、
「なんか、また睨まれました…」
……ひとごとながら、ちょっともどかしい(笑)。
「今度からは、英語で文句いうといいよ。」
(香港の人は、英語は話せますからね)
まったく、お恥ずかしい限りです。
もうこれは、彼がどこの国の人であろうと、そうでなかろうと、
なんでこう、普通の状態で、そんなにもピリピリしてるんだろう、と。
戦時下でもあるまいし……、無駄に殺伐としすぎでしょう。
いえね、色々と分かりませんのです。
彼は、来日してまだ半年の外国人です。
道を歩くにしても、電車に乗るにしても、僕たちが無意識にしているのとまったく同じ感覚では、まだ動けないのかもしれません。
「あれ?こういうとき、どうするんだろう」といった、ほんの一瞬のためらいが、あったのかもしれません。
でも、ですよ。
自転車で人にぶつかったり、並んでいるのに割り込むとか、
普通に当たり前のマナー違反。相手が誰であろうと、謝らないとダメですよ。
スムーズにいかなくなります。
負は、正よりも簡単に連鎖しますからね、
もっともっと、殺伐としちゃう。
でも、今日、思い出したことがありました。
昔、大学生の頃ですが、ある日の朝、満員電車に乗ったんです。
実は子供のころから、満員電車がどうしても苦手で(って、得意な人などいませんよね)、
高校の時は、遠回りしてでも電車が混まないルートで通ったりもしてましたし、
大学へ行くにあたっては、免許を取って、バイクで通学をしていたのです。
これはもう、どしゃぶりの雨でも、徹底して、電車は避けていたんです。
でも、そのある日というのは、免許の更新に行く日で、たまたまその年、更新日をうっかりわすれて、期限切れになってしまったんですね。
ですので、どうしても試験場に行って、再交付をしてもらう必要があったので、そこまではバイクで行くわけには行かなかったんですよ。
しかも、時間は朝のラッシュアワー。
……ビックリしました。
初めて乗った、当時の家の最寄駅からの電車が、ちょっと、尋常ではない満員電車だったのです。
なんと、乗るのに、階段やホームで整列して、三本くらい待たないと乗れない(3~5分おきに電車は来ているのに(笑))。
で、乗るときには、
「無理!もむーり!」
でも、押し込まれる。どうにか、入る。息も出来ないくらいの密度(僕の身長であれですからね…女性とか、もう大変でしょうね)。
布団圧縮袋の気持ちがわかる。
……あ、布団圧縮袋の布団の気持ち、か。
さらに事件が。
僕が降りる駅が近づきましたが、僕は中に押し込まれており、身動きが取れないまま。
かれこれ、結構長い事乗っていて、慣れないことに、気分も少し悪くなっておりました。
「降りれるかな……」
不安に思っている中、電車はホームに到着。
ドアが開く。
……あ、まずい!ほとんど、誰も降りない。
「おります、おります!」
僕は声を出して、出口の方に向かおうとします。
でも……、
誰も、降ろしてくれようとしない。ほとんどの人が、非協力的な態度だったのですよ。
むしろ、「ったく、なんだよ。」
といった、空気が。
「知らねえよ。」
的な“殺伐とした”ムードが。
出口付近の方は降りてくれましたが、僕は、逆サイドの方まで流されていたので(川か(笑))、たどり着かない。
そして、もう、僅か数秒後、ホームではベルが鳴り……。
人が、わらわらと乗ってくるのですよ。さっき降りてくれた人に加え、ホームにいた大量の人たちが。
「おります!おろしてください!」
僕も必死です。免許の更新には、講習があるので、この日のこの時間、と時間が決まっているのです。
これを逃すと、免許がなくなっちゃうかも。やばいよ。という気持ちもあり、焦ってもいました。
なのに、降りれない。
恐るべし、満員電車。
結局、僕は、ちょっと声を大きくだして、無理やり、降りました。
正直、かなり、無理やり、強引に、降りました。
僕も辛かったですけど、もしかしたら……痛い思いをさせてしまった方もいたかもしれません(別に、殴り倒して出て行った、とかじゃないですよ(笑))。
でも、あれは、怖いくらいに、降りれなかった。
満員電車では、あんなにも、皆、自分勝手なのか、と、そこが一番、怖かった。
きっと、一人ひとりは、普通の人。会社でも、家庭でも、きっと、いたって普通のおじさん、おばさんたち。
でも、あの日の満員電車は、本当に殺伐とした空間に感じました。
なので、それまでも苦手だったものが、さらに苦手になった、その夜。
はっきり覚えているのですが、僕はこの日、夕食の時に、この話を両親にして、
「…なので、僕は、やっぱりミュージシャンになるからね」
と宣言したのです。
今日のレッスンで、彼にこの話をしましたら、
とっても笑って「わおー(笑)」と言ってました。
そして、こう訊いてきたのです、
「それ、ほんとう?」
「本当です。だから、きみも、やっぱりミュージシャンになるといいよ」
と、
……学校からの帰り道など、結構な満員電車に乗っている川村ケンが言ったのでした。
仕方ないのね(笑)。
ではー。