じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

永井龍男「そばやまで」

2022-10-06 15:40:01 | Weblog

★ 向かいの家が解体された。私が小学校入学と同時にこの地に移り住んでから、ずっと建っていた家。もともとは本願寺の僧職が住んでおられたが、ここ20余年は空き家のままで外から見ても痛みが激しかった。遂に売却されたようだ。

★ さて今日は住居にまつわる話。永井龍男さんの「青梅雨」(新潮文庫)から「そばやまで」を読んだ。「住まいのことでは、一時思い屈した」で始まる。

★ 戦後間もなくのことであろうか、文筆業で生計を立てようと志した主人公が妻、子どもを引き連れて、住み家探しに苦労する。貧困も底をつき、知り合いの援助と文を売って何とか食いつないでいる始末。

★ 探せども条件に合う家は見つからず、今住んでいる家主の好意で狭いながら家族が肌を寄せ合って暮らしている。

★ 私小説なので大事件は起こらないが、文章が巧いので十分に楽しめる。最後の方で主人公は蕎麦を食べに出かける。その天ぷら蕎麦が実にうまそうだ。

★ 急に寒くなったので、今宵は温かい蕎麦もいいなぁ。

 

 

コメント

永井路子「覇樹」

2022-10-05 11:30:11 | Weblog

★ 永井路子さんの「炎環」(文春文庫)から「覇樹」を読んだ。まさにNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のダイジェストという感じだった。

★ 公家の時代から武士の時代への転換期。御家人達は権力を争い、北条氏が頂点に立つ。親子兄弟が殺し合う骨肉の戦い。権力とは非情なものだ。

★ 弱弱しい北条義時が、次第に成長していく姿が印象的だ。権力の階段を登り、父親の時政さえも駆逐し、将軍や朝廷さえも屈服させる。ドラマの中で時政が叫んだように「見事じゃ!」という言葉が当てはまる。

★ 源氏三代、梶原、比企、畠山、和田。個性豊かな人材が生きては滅んだ。

★ 大河ドラマでは、牧氏事件まで描かれているが、まだ物語は半ば。クライマックスは、実朝暗殺、そして承久の乱へと進む。三浦義村と北条義時の関係も注目だ。

★ そしてエンディングは義時の死か。62歳。当時としては長寿なのだろう。血に染まった人生だが、晩年は穏やかだったようだ。

コメント

柴田哲孝「狸汁」

2022-10-04 12:27:49 | Weblog

★ 東京港区麻布十番の「味六屋」という小料理屋。流れ板の久田銀次が腰を据え、艶っぽい愛妻の町子と店を営んでいる。「一見様御断り」と仰々しいが、銀次の味にほれ込んだ客が絶えない。

★ 政財界のご贔屓も多く、今宵は代議士から予約が入った。政財界を長年震え上がらせ「人喰い唐玄」とあだ名される右翼の重鎮、吉村唐玄を接待したいという。料理はお任せながらただ一つ「狸汁」が所望された。

★ 引き受けた銀次だが、「狸汁」など味わったことがない。伝手を頼って調べてみるのだが、不味いという人、旨いという人。要領を得ないまま、接待の日を迎えた。

★ 「人喰い唐玄」はなぜ「狸汁」を望んだのか。彼が敗戦時、満州から帰る途中で味わったという「狸汁」を銀次は再現することができたのか。

★ 悲しい物語を挟みながら語られていく。

☆ 戦争などは人々を苦しめるだけで何も良いことはない。しかし、なぜ戦争は絶えないのか。ウクライナ、台湾、そして北朝鮮。世界がきな臭くなってきた。

☆ 蛇足ながら、ニュースでバイデンアメリカ大統領の歩く様子を見た。ご高齢なのはわかるが、どうも歩みがたどたどしい。心配なところだ。

コメント

北森鴻「苦い狐」

2022-10-03 15:29:46 | Weblog

★ 10月になったのに暑い日が続く。しかし、夏の名残も明日までとか。衣替えを急がねばならない。

★ 北森鴻さんの「瑠璃の契り」(文春文庫)から「苦い狐」を読んだ。「旗師。冬狐堂」シリーズ。

★ 店舗を構えず骨董品を売買する旗師。自分の眼と感性だけが勝負だ。そんな旗師・宇佐美陶子の元に一冊の小冊子が届いた。彼女が美大生だった頃、不幸にして亡くなった同級生の追悼画集の復刻版だった。

★ それにしても、卒業して20年。なぜ今こんなものが届いたのか。そして誰が発行したものなのか。

★ 不審に思った陶子は追究を始める。美術品、骨董品の類によくある詐欺なのか。しかし、作品は優れていても、同級生の作品が破格の価値が出るほど著名なものとは思えない。ならば、何のために。

★ 彼女はかつての恩師を訪ねる。

☆ 私には骨董品の価値がわからない。一時期は趣味と研究を兼ねて古書を集めたが、本の中身を知るだけなら、国立国会図書館のデジタルコレクションで用が足りる。では、廃棄すればと思うのだが(興味のない人が見ればただのゴミだ)、それも気が咎める。

☆ 例えば明治時代に発刊された本が、どういう経路を辿って我が家の本棚に行き着いたのか、それを想像するだけでも楽しい。眺めるだけでは本としての本懐は遂げられまいが。

コメント

阿刀田高「マッチ箱の人生」

2022-10-02 18:58:15 | Weblog

★ 今年は町内会のブロック役員を拝命している(嫌でも回ってくる)。今日は時期外れながらサマーフェスティバル(町内会のお祭りのようなもの)の記念品を各戸に配った。この町内会も高齢化が進み、70代、80代が中心になってきた。子どもたちが独立、他所に移って一人暮らしされている方も多い。聞く話題といえば訃報ばかりで寂しい限りだ。

★ さて、日本推理作家協会編「ミステリー傑作選17 とっておきの殺人」(講談社文庫)から阿刀田高さんの「マッチ箱の人生」を読んだ。

★ 都心のバー。今宵は閑古鳥が鳴いている。バーのママが店を閉めようかと思ったところに、常連がやってきた。客がポケットから取り出したマッチ箱。そこに折り曲がった吸い殻がひとつ。それを見たママが2年前のある出来事を語り始める。

★ ママが法事のため田舎に帰る列車の中、たまたま隣り合わせた女性がママの店のマッチをもっていた。それも新しいデザインに変えたばかりのもので、3人の客にしか渡していない。女性は店の客ではない。彼女はどこでそれを手に入れたのか。

★ 折しもその3人の客の一人が変死した、という話。ママは女性の話をずっと胸にしまい込んでいたという。それはある光景を見たからだった。

★ この作品は1990年にドラマ化されているという。

☆ さぁ明日から中学、高校の中間テスト対策だ。

コメント

井沢元彦「明智光秀の密書」

2022-10-01 16:55:57 | Weblog

★ スーパーに並ぶビール類の値上げを見て、物価高を実感する。コロナ対策同様、政府の物価対策も後手気味だ。

★ さて、今日は日本推理作家協会編「ミステリー傑作選17 とっておきの殺人」(講談社文庫)から、井沢元彦さんの「明智光秀の密書」を読んだ。

★ 本能寺の変の黒幕は誰なのか。朝廷なのか、足利将軍なのか、徳川家康なのか、あるいは他にいるのか、今なお歴史ミステリーだ。

★ この作品では、明智光秀は足利義昭を介して毛利と手を組み、信長を倒したことになっている。

★ 今のように電話や電信がなかった時代。本能寺の変を秀吉軍に知られずにどうやって毛利に知らせるか。光秀は健脚で知られる家臣に密書を持たせ西に向かわせた。

★ しかし、その家臣が秀吉軍に捕まり、密書が奪われてしまう。密書は暗号で書かれており、この暗号解読が作品の中核になっている。

★ ところで明智光秀、なかなか決断ができない人として描かれている。信長や秀吉が動物的直観や奇策に秀でていたのに対して、光秀はインテリであるだけに迷いが生まれたのであろう。先が見えてしまうと怖くて二の足を踏みがちだ。

★ こうした光秀にあって、信長を討つという決断は彼の家臣をして驚かせた。

★ 「決断と実行」とは、どこかで聞いたようなスローガン。決断できない人が自らを鼓舞するために掲げたものか。こういう御仁に限って、決断のしどころを誤るものだ。

コメント