じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

高橋和巳「悲の器」

2022-10-29 18:08:03 | Weblog

★ 政府の総合経済対策は一般会計分で29兆円余りとビッグだ。一方で年金や健康保険、更には消費税と国民に負担を強いる政策が見え隠れする。

★ 中福祉・中負担などと言っていたが、低福祉・高負担に動いていくような気がする。中途半端な社会主義になりつつある。いっそのことベーシック・インカムにすればどうかとさえ思える。

★ さて、今日は高橋和巳さんの「悲の器」(河出文庫・高橋和巳コレクション①)を読み終えた。高橋和巳の長編作品は、「憂鬱なる党派」「邪宗門」に次いで三作目だ。

★ とにかく濃い。専門用語が飛び交い、インテリの世界を嫌というほど感じさせてくれる。

★ 主人公は戦前、戦中、戦後を通じ法曹界でその地位を築いてきた。学徒の頃は秀才と言われ、師匠に好かれ、師匠の娘を妻に得る。戦中は検事として窮屈な時代を生き抜き、戦後は名門大学の法学部長として君臨する。その学説は学界でも評価されていた。

★ ところがである。妻を病で亡くし、家政婦と愛人関係になり、家政婦とは別に新たなパートナーに出会って婚約するに至って、家政婦から婚約不履行で訴えられる。主人公は逆に家政婦を名誉棄損で訴えるのだが、そこは痴情のもつれ、泥沼の争いとなり、教職からも去る運命となる。

★ 主人公にしてみれば、その社会的役割を全うしていれば、私事のことなどとやかく言われる筋合いではないということだが、今の時代から見れば、その家父長的、男尊女卑的な見解は極めて自分勝手である。

★ インテリが陥りやすい穴。理屈を重ねるほどに引いていく。結局、彼は自滅への道を辿る。彼もまた時代に取り残された一人なのかも知れない。

☆ 時代は違えども、私も長く大学に通い、いくつかの学会、研究会に籍を置いた。大学という独特な世界の雰囲気を懐かしく読んだ。

☆ それにしても作品の中に出てくる学生たち、全共闘時代の人々のコトバは戦闘的だが何か虚しい。難しいコトバに酔っている感じがする。

★ なにはともあれ、第1回文芸賞(1962年)受賞作。この作品のために締め切り日を延ばしたというくらい(出来レースか)、新人賞のレベルを超えた作品だった。面白かった。

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