★ ふと気づくと10月も半ばを過ぎ、年賀状の用意やインフルエンザ・ワクチンの予約など年の瀬の年中行事を思う。年をとるごとに1年が短くなる気がする。
★ 先日の京都新聞に掲載された宗教家・佐々木閑さんのコラムが印象に残る。大阪万博というから1970年。当時小学生だった閑少年も両親と会場を訪れた。父親が所用のため現地での集合だったが、あまりの人出のため、まさに生き別れ。その時、見ず知らずの男性が肩車をして、父親さがしを手伝ってくれたという。
★ まさに地獄に仏。閑さんはこの「ヒーロー」のことを今でも思い出すという。(その後、父親とは太陽の塔の前で再会できたという。)
★ さて、今日は角田光代さんの「トリップ」(光文社文庫)から、「橋の向こうの墓地」を読んだ。主人公は専業主夫。パートナーとは事実婚。彼女の「従来の価値観、既成の結婚概念」を打ち崩す「新しい関係、新しい生活、新しい価値観」の名演説に一時は高揚した主人公だったが、結局は「ヒモ」の生活ではないのかと、ぼんやりとした憂鬱を感じながら日々の掃除、洗濯、調理に励んでいる。
★ 彼の楽しみは、御贔屓の肉屋さんのコロッケを買って食べること。自分と同じように、肉屋でコロッケを買って帰る常連の母子が気にかかる。あいさつするでもなく、言葉を交わすわけでもない。
★ そこで彼は小学生の頃、神社の裏手の墓地に住んでいたホームレスの男との秘密の交流を思い出す。友達のできなかった彼にとって、それは一つの通過儀礼だったのかも知れない。
★ 現状の生活、出会った母子への好奇心、そして小学生時代の思い出。支離滅裂のようで不思議な融和を感じる。エンディングは何か深い。主人公はなぜ「今日の夜はすき焼にしようと唐突に思いついた」のか。