じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

谷崎潤一郎「吉野葛」

2018-05-15 17:40:41 | Weblog
☆ 松本清張の「神々の乱心」(文春文庫)を読んでいると、女官が奈良で死んだくだりで谷崎潤一郎の「吉野葛」が出てきた。そこでちょっと寄り道。「青空文庫」で読んでみた。

☆ 吉野を舞台とした小説を書こうとしていた主人公が、かつての学友に誘われて吉野を旅するという話。「葛の葉物語」などを引用しつつ、幼い頃に母を亡くした学友の母を慕う気持ちが綴られていた。

☆ 小説とは言いながら、前半は随想のようでもあり、紀行文のようでもある。民俗・習俗についての記述が詳しいし、古典芸能からの引用も多い。浄瑠璃や歌舞伎などへの造詣が深ければ、もっと楽しめる小説なのだろう。

☆ 最後は、ハッピーエンドでめでたしめでたし。 
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安倍龍太郎「等伯(下)」

2018-05-15 02:36:10 | Weblog
☆ 安倍龍太郎さんの「等伯(下)」(文春文庫)を読み終えた。良かった。

☆ 絵の天才という業を背負い、それゆえ時代に翻弄され、自らの煩悩に苦しんだ人生であった。その苦しみは作品に昇華され、松林図屏風を生んだ。苦しみがあったゆえの、難があったゆえの境地であった。

☆ 「等覚一転名字妙覚やな」 すべては、近衛前久のこのつぶやきに尽きるのかも知れない。

☆ 諸難ありとも、一道に徹した故の成仏であった。「成は開くの義なり」(「御義口伝」)という。本来備わった仏性、あるがままの自分を開会できたのだろう。縁覚の悟りのように思える。

☆ いくつか好きな文がある。「すべてが在りのままで尊い」(上巻347頁)、「人はそれぞれ重荷を背負いながら懸命に生きている。大切なのはその生き様であって、地位や名誉を手にすることではない」(下巻190頁)

☆ どちらも勇気づけられる文だ。安倍龍太郎さんは、長谷川等伯の人生を通してこの生き様を見せてくれた。実に普遍性のある作品だった。感動した。
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