塵埃日記

つれづれなるままに、日々のよしなしごとなど。

梅原克彦仙台市長出馬断念:資質を選ぶことの困難性

2009年07月08日 | 政治
  
 千葉市長選に続いて静岡県知事選でも民主党推薦候補が勝利し、このところ地方選が来る衆院総選挙の前哨戦や代理戦であるかのように注目されています。そのような中、私の故郷の仙台では、現職の梅原克彦市長が7月12日に告示される次期市長選への出馬断念を表明しました。このような文脈で書くと何やら背後に国政との関連があるように思われるかもしれません。しかし、一度は出馬を表明した梅原市長を断念させたのは、純粋に市長の資質を問う市民の声でした。

 梅原市長は、3期12年務めた前市長藤井黎氏の引退を受け、2005年8月に自民党と公明党の支持を受けて当選しました。この年の翌9月には、小泉元首相のもといわゆる「郵政選挙」が行われ、ご存知のとおり自公が大勝しました。続く10月に浅野県政を批判して当選した村井嘉浩知事と同様、異常なほどの自民党フィーバーが、市長選・知事選双方にとって追い風となったことは間違いないでしょう。

 しかし、仙台市長選でも宮城県知事選でも、それ以上に争点となったのは前任者の施政方針の継承・不継承でした。県知事選において、浅野史郎前知事を批判した村井氏が当選した背景については、以前当ブログで解説しました(浅野氏の都知事選出馬に際しての記事ですが)。これに対して市長選では、藤井市政継承を訴えた梅原氏が当選することとなりました。とりわけ梅原氏当選の決定打となったのは、市営地下鉄東西線建設の是非についてでした。採算性や環境保全を巡って、凍結から計画見直し・建設推進まで各候補者が様々な意見を掲げましたが、藤井市長の意志を継いで建設推進を唱えたのは梅原氏だけだったため、地下鉄建設を支持する票が総じて梅原氏に流れたのです。地下鉄東西線については機会があれば改めて記事にしたいと思いますが、ともあれ仙台市長選においては前市長の路線継承を訴えた梅原氏が当選するという、県知事選とは真逆の選択がなされた訳です。

 このように県知事とは逆の期待を背負った梅原市長ですが、梅原市長の評価は、現在も支持されていると思われる村井知事とはこれまた逆に、早くから右肩に下がっていきました。ただしその理由は、政策上の失敗以前の、公人としての資質が問われたことでした。

 私が覚えている最初の批判は、就任直後から始まった度重なる公費での海外出張でした。その回数は就任から8ヵ月の間に5回、そのうち3回は何故か市長夫人が同行するというものでした。また市長が私宅を転居した際、その引越しに公用車を使い、勤務時間内にも関わらず市職員に手伝わせたことが発覚しました。こうした、軽率かつ公私混同といえる問題に対して梅原市長は、謝罪するどころか何が問題なのか分からないといった体でした。市民は経済産業省出身の梅原市長の官僚体質の現れとして嘆きましたが、たとえば同じく厚生省の官僚出身の浅野前知事について、私はそのような醜聞は耳にしたことがありません。やはり、単純に梅原氏個人の資質の問題なのだと思います。

 もう1つ同種の問題として大きく取り上げられたのが、県立高校一律共学化問題です。宮城県教育委員会では県立高校の男女共学化が検討されていますが、梅原市長は自身の出身校である県立仙台一高の共学化に反対を唱えました。仙台一高や二高は、出身者の母校意識だけでなく、仙台全体においても伝統校としての意識が強いため、梅原市長の反対そのものは十分理解できるものでした(ほとんど私情ですが)。問題は、「仙台市長梅原克彦」の名で県教育委員会に対する請願書を書き、それをまたも公用車と市職員を使って県教育委員長の自宅に届けさせたことでした。この行動に対して、市議会を中心に「県政への介入」「公私混同」として批判が噴出しました。結局市長は、市職員の超過勤務手当と公用車のガソリン代を市に返還しましたが、行為自体に対する謝罪は最後までありませんでした。

 このように、政策云々の前に行動に関して疑問視されてきた梅原市長ですが、今回の出馬断念の最大の理由は、やはり「公私混同」として非難を浴びた「タクシー券問題」でした。この問題がこれまでの「公私混同」以上に議論を呼んだのは、金額が2ケタほど違ったことと、第三者への利益供与にあたることによるものでした。梅原市長が就任してからおよそ3年の間に使われた市長名義のタクシー券1464枚のうち、1364枚について行先が記されていなかったことから事は始まりました。梅原市長は、この1364枚分の運賃約221万円を市に返納しました。しかし、これらの行先不明のタクシー券に関して、公務以外での使用さらには第三者への譲渡が疑われました。梅原市長はこれらの疑惑を否定しましたが、市が監査した結果、記録を照会できたタクシー券のうち公務と認められたのは1割に満たないことが明らかとなりました。中には、家族旅行のために市内の温泉旅館までの往復に使用されたものや、夫婦でショッピングセンターに行くために使われたものまであったのです。また同じ時間帯に異なる場所で使われたものや、梅原市長が公用車に乗っていた時間帯に使われたものもありました。こうしたタクシー券の不適正使用疑惑に対する市議会の質問に、梅原市長はひたすら「記憶にない」を繰り返しました。

 タクシー券問題は仙台市から石巻市へも飛び火し、同じ問題を追及された現職市長が4月の市長選で落選するという事態になりました。梅原市長への逆風も明らかでしたが、本人は6月13日に次期市長選への出馬を表明しました。このとき梅原市長は、「おわび」として頭を丸刈りにして記者会見に現れました。このあたりの発想が、どうにも官僚的といえます。しかし、結局何の「おわび」なのかは全く分からず、周囲の反応は冷ややかでした。市議会は、6月24日にこの問題に関する市長への問責決議案を賛成多数で可決しました。そして今月1日、とうとう梅原市長は出馬断念を表明するに至りました。

 このように梅原市長に対する批判は、政策以前の公人としての資質問題がほとんどでした。むしろ、地元経済界に三顧の礼で迎えられただけあって、政策上の大きな失敗といえるものは見られませんでした。4年前の仙台市民の選択は、資質の面からみれば大間違いでしたが、政策の面からみれば誤ってはいなかったといえます。

 しかし、「マニフェストを示し政策で戦え」と叫ばれる中、候補者本人の資質まで見極めるのは困難と言わざるを得ません。今回のように突然やってきた候補に対してなら尚更です。来る衆議院総選挙に関しては、少なくとも二大政党の党首の人となりについては結構報じられているので、資質という面からも慎重に判断したいものです。