見もの・読みもの日記

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2017年11月@西国大旅行:新・桃山展(九州国立博物館)

2017-11-23 23:17:53 | 行ったもの(美術館・見仏)
 土曜日、関西空港を発って、夜9時ごろ福岡空港着。博多の街はまだ賑やかである。南福岡のビジネスホテルに投宿。この「西国大旅行」を計画したとき、関空→福岡、福岡→羽田の飛行機は、リーズナブルな値段で確保できたのだが、さて福岡のホテルを探そうと思ったら全然ない。実は、K-POPアイドルグループのコンサートとぶつかっていたのである。最初は久留米か唐津に泊まることも考えたが、幸運にも南福岡に1部屋、空きを見つけて予約することができた。

九州国立博物館 特別展『新・桃山展-大航海時代の日本美術』(2017年10月14日~11月26日)

 日曜は朝から大宰府へ。どうしても来たかった展覧会である。本展が焦点を当てるのは、倭寇の船で来日したポルトガル人が鉄砲を伝えた1543年(または1542年)から、徳川幕府がキリスト教を禁じ、貿易統制を布いて「鎖国」を完成させた1639年までの約百年間。「文化交流」という視点からこの激動の時代の美術を改めて見つめなおすものだという。開館直後の博物館に入ると、3階の特別展会場に通じるエスカレーターの前に長い列ができている。人が多いので、人数を区切って、少しずつエスカレーターに乗せている様子。なんと!東京の運慶展、京都の国宝展だけでなく、新・桃山展にもこんなにお客が殺到していたとは。

 会場に入ると、まずは中世の名残り。京都・妙智院の『策彦帰朝図』は、最後の遣明使の正使をつとめた策彦周良が帰国のはなむけに贈られた送別図である。当時、日本が中国の皇帝に献上した品物には、屏風や扇などの美術品があった。そうか、狩野派の屏風は輸出品でもあったのか。遣明使の通訳をつとめた中国人・鄭沢が元信に宛てた書状の写しが伝わっており、社交辞令であるにせよ、「狩野四郎二郎先生」(この名前、中国人から見てどうなんだ?)の画才を称賛している。一方、日本に入ってきたものといえば、鉄砲とキリスト教。あまり見たことのない『洛外名所図屏風』6曲1双が出ていて、清水寺の境内で裃姿の武士が鉄砲を撃つ場面が描かれている。隣りの武士は弓に矢をつがえている。鉄砲と矢の競射なのだろうか? 屏風は太田記念美術館所蔵。
 
 キリスト教関係は、神戸市立美術館の絵画『サビエル像』『都の南蛮寺図扇面』、京都・春光院の『銅鐘 IHS紋章入』など網羅的。天正遣欧使節関係の資料も豊富だった。『イエズス会史』によれば、遣欧使節は「安土城図屏風」をローマ教皇に献上しており、この作者は狩野永徳だという。元信の屏風は明の皇帝へ、永徳の屏風はローマ教皇へか。つくづく狩野派スゴイ~。と思っていたら、永徳の豪壮な『檜図屏風』と長谷川等伯の『松林図屏風』が90度の角度で隣り合って一部屋に! 今年は『松林図屏風』を見るの何度目だろう、と苦笑する。

 「桃山」は天下人の座が、信長、秀吉、家康とリレーされた時代でもある。秀吉は世界帝国を目指し、朝鮮に出兵した。『名護屋城図屏風』6曲1隻は、名護屋城を描いた貴重な資料。淡彩で、ひなびた城下の様子も細やかに描かれている。狩野光信筆の原本を模写したものと考えられているそうだ。家康は朝鮮との国交を回復するとともに「鎖国」による交易を確立した。徳川幕府の初期も、屏風は重要な輸出品で、家康がメキシコ、イギリス、カンボジアの国王に屏風を贈ったことが、金地院崇伝の『異国日記』に記されている。九博所蔵の『朱印船交趾渡航図巻』(17~18世紀)には、ベトナムのホイアンの長官(唐人風の姿)の前に日本の武士が進み出て貢物を並べており、その中に畳んだ屏風が描かれている。

 フィナーレは南蛮美術の名品オンパレード。サントリー美術館の『泰西王侯騎馬図屏風』、久しぶりに見た。これは王侯より、三白眼の馬がカッコいい。イエズス会のセミナリヨで西洋絵画の手ほどきを受けた日本人画家が描いたと考えられているそうだ。大和文華館の『婦女弾琴図』、神戸市立博物館の『四都市・世界図屏風』。なんと永青文庫の『洋人奏楽図屏風』6曲1双も(男女の顔立ちにあまり差がないところが彦根屏風っぽい)! これだけでも感涙ものだが、図録を見ると別の期には、また別の名品が出ていたようだ。えー悔しい。三の丸尚蔵館の『二十八都市・万国絵図屏風』が見たかったなあ。東大総合図書館所蔵の『救世主像』(イエスが塩顔のイケメン)は見ることができたが、京大総合博物館の『マリア十五玄義図』は見られなかった。

 このほか、オランダ船デ・リーフ号の船尾に飾られていたという『エラスムス像』(これはやっぱり人文学者デジデリウス・エラスムスの像なのか?)、秀吉夫人の北政所が用いていたという『聖マリア像刺繍壁掛』、南蛮鉄(東南アジア産の鉄)でつくった刀など、興味深いもの多数あり。

 そして、最後の最後に登場するのが、うわさの『大洪水図屏風』である。これをおろそかに見ては本展に来た意味がない。私は、途中で混雑に疲れてきたので、先にこの最後のセクションを見て、元気を取り戻してから中盤に戻った。現在、メキシコのソウマヤ美術館に所蔵されているが、17世紀末~18世紀前半にマカオで製作されたと推定されている。6曲1双で、日本の屏風に比べて、各扇がややスリムな感じがするが、びっくりするくらい日本の「屏風」そのものである。装飾文様を型押しした、不定形の金雲が四方を取り囲み、ノアの洪水の物語が描かれている。左端には船の建造、中央には船に乗り込む動物たち、右上に荒波に浮かぶ船、そして右下は洪水が引いて船を下りたところかな? 私は屏風の形態以上に、絵巻物などの「異時同図法」が使われていることを興味深く思った。

 箱船に乗り込む動物たちの中には、つがいの鳳凰や青いぶちの獅子がいる。解説ビデオを見るまで気づかなかったけど、船をつくる人々の足場は青竹を組んでいる。裏面は七宝つなぎに雀をあしらったような文様で、展示ケースの隅に小さな鏡を置いて、ちゃんと裏側も見せる工夫がされていた。

 同じ頃、マカオでは、中国式の屏風に油彩画を嵌め込んだものも作られていた。また、ソウマヤ美術館には、現在のエクアドルで製作されたという『ローマ皇帝図屏風』(18世紀末)も所蔵されている。直接の関係はないが、どことなく『泰西王侯騎馬図屏風』を思わせるのが面白い。世界はいつもつながっている、という思いを新たにした。

 このあと、文化交流展示室(常設展)を見て、大宰府天満宮にお参りして、福岡空港から東京に戻った。充実の大旅行はこれにて完了。

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