見もの・読みもの日記

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小栗判官絵巻を見逃すな!/絵巻を愉しむ(三の丸尚蔵館)

2015-07-21 23:14:52 | 行ったもの(美術館・見仏)
三の丸尚蔵館 第69回展覧会『絵巻を愉しむ-《をくり》絵巻を中心に』(2015年7月4日~8月30日)

 皇室のお宝を展示する三の丸尚蔵館で、絵巻の展覧会があると知って行って来た。小さな会場なので作品数は少ないが、貴重な名品揃いで眼福だった。まず冒頭は『彦火々出見尊絵巻』(江戸時代、17世紀)。「海幸山幸神話」と言って、いまの若者は分かるのかな? 私は子どもの頃、児童書版で読んだ記憶があるけれど。

 絵巻の原本は、12世紀末に後白河院の命によって制作され、若狭国小浜の新八幡宮に伝わり、いつの頃か明通寺に移された。その後、酒井忠勝が徳川家光に献上した記録の後、行方不明になったという。明通寺にも同時期の模本があり、展示品は「明通寺本を模写し直したもの」ではないかという(図録解説)。色彩は鮮やかで、その分、やや平板な感じがするが、人物や景物の形態に乱れがなく、丁寧な模写だと思う。龍王宮の女官たちの髪形や服装がみんな見事に唐風。尊(みこと)が失くした釣針を探す、龍王宮の下っ端たち(半裸、ざんばら髪で鬼のよう)の動きが生き生きしていて、いかにもこの時期(12世紀末)の絵巻らしい。少し位が上なのか、変な動物(亀?麒麟?)に騎乗している者もいる。

 『酒伝童子絵巻』(江戸時代、17世紀)は、頼光らが出立の準備をしている第1巻と、まさに酒伝童子の首が飛んで、頼光の兜に食らいついている第4巻が開いていた。画面の上下を贅沢に覆った金泥の雲が豪華。酒伝童子惨殺シーンでも黒雲の中に輝く雷光が金粉・金泥で表されていて、暗い会場で見ると、妖しく輝く。『若蘭絵巻』は、本展では唯一、中国・明時代(16世紀、絹本)の絵巻。詞書はなく、冒頭に璇璣図(せんきず)と呼ばれる回文詩が書きつけられている(これは図録解説で知った)。絵画としては巧みで美しいが、日本の絵巻に比べると、動きや感情表現が少ないなあ、と思う。

 『絵師草紙』(鎌倉時代、14世紀)は、今回の展示品では、とびぬけて古いもの。あ、皇室の所蔵品だから、国宝とか重要文化財じゃなかったんだ、とあらためて納得。絵ヅラが地味なので、立ち止まって眺める観客が少なかったが、当時の人々の暮らしが分かって面白い。ボロ家に暮らす絵師だが、調度棚には、赤黒に塗り分けた器や、青磁(?)の水注みたいなものも見える。寝そべった子供たちがお絵かき(模写?)して遊んでいる図も。

 そして真打ちが『をくり(小栗判官絵巻)』全15巻(江戸時代、17世紀)。岩佐又兵衛とその工房で制作されたものと考えられている。展示は第1巻、小栗誕生の場面。第8巻、照手姫の見た不吉な夢。死装束の小栗が馬の背に反対に乗り、北へ向かっていく。前後を取り囲む僧侶の大集団が圧倒的。第11巻、閻魔大王が小栗を現世に送り返す図。藤沢上人への言伝てを小栗に与える場面と、裸の小栗を従え、虚空を杖で一打ちし、咆哮する場面が開いている。巨大な閻魔大王、カッコいい! 第13巻は、餓鬼阿弥と名づけられた亡者同然の小栗が、土車に乗せられ、熊野に向かう。こんか坂(不詳)で置き去りにされるも、通りがかりの山伏たちが背負って湯の峯温泉に連れていく(また山伏たちがカッコいい!) 7日目に目が開き、14日目に耳が、21日目に口が、そして49日目に 小栗は蘇生する。蘇生してもあまり美男子でないところがよい。

 いま調べたら、2009年の東博『皇室の名宝』で公開されたのも、巻1、11、13だった。今回、展示替えしてくれるのかなあ。図録および会場には他の巻の写真も掲げてある。この絵巻、「大小」の感覚が全くリアリズムでないのがすごく面白い。閻魔大王だけでなく、小栗を見初める(そうだったのか!)深泥池の大蛇(龍)や、荒馬・鬼鹿毛の異様なデカさ。「強さ」は視覚的に「大きさ」で表される。少年マンガの約束事みたいだ。それからモブ(集団)シーンの迫力。巻7の小栗を乗せて疾駆する鬼鹿毛と驚く侍たちの場面は、劇画かアニメーションか。ホンモノが見たいい~。

 本絵巻は、明治28年(1895)日清戦争の折に広島大本営において、池田家当主長準が明治天皇に披露し、後に献上したものであるそうだ(展示図録)。後学のため、ここにメモ。本展の図録は、写真も多く(質と量がほどよい)解説も親切で、お買い得だった。『住吉物語絵巻』(室町時代、16世紀)の展示は8/1(土)から展示とあったと思う。来月、もう一回行きたい。

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