見もの・読みもの日記

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豪華つめあわせ福袋/新春文楽・ひらかな盛衰記、他

2013-01-14 00:26:13 | 行ったもの2(講演・公演)
国立文楽劇場 新春文楽特別公演『団子売(だんごうり)』『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)』『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』(2013年1月12日)

 文楽の1月公演は大阪、東京は2月。これは、私の知る限り、何十年も変わらない「しきたり」である。なんと大阪人は、松の内から文楽を楽しむことができるのか! いいなー。あんなに大阪でいじめられているのだから、東京に移ってきてしまえばいいのに、と思いながら、はじめて新春公演を見に東京から遠征した。

 まずは初春にふさわしい『団子売』で、にぎやかに幕開け。『ひらがな盛衰記』の「松右衛門内」「逆櫓」は、むかし見た記憶がかすかにあって、面白かったという印象は残っていたのだが、筋は全く忘れていた。なので、次々に明らかになる展開に、驚いたり感心したりしながら楽しんだ。

 基本は、主君の若君を救うために犠牲となる、忠義の「取替え子」の物語。親も子供も意図せざる「取替え子」であるというのが新鮮、というか、『寺子屋』や『近江源氏先陣館』みたいなグロテスクな忠義孝子譚より、こっちのほうが自然で共感しやすい。取り違いで亡き者にされた孫が戻らないのなら、若君の首を切って返すと怒り狂う船頭・権四郎の気持ちは、現代人にもよく分かると思う。その権四郎が、入り婿の松右衛門(実は樋口次郎兼光)の正体を知って、「侍を子に持てば俺も侍」と気強く言い切るところ、この思い切ったようで思い切れない、内心には肉親の情を残しながら、行動は立派に武士の道徳を体現してみせるところがいいのである。「アノ侍の親になって、未練なと人が笑ひはせまいかノ」は泣ける。脚本も上手いし、こういう機微を理解できる観客がたくさんいたことにも感心する。

 「松右衛門内の段」は豊竹咲大夫さん。何か、ものすごく目立つというタイプではないけれど、安定感があって好き。実は舞台上よりも床の咲大夫さんの熱演に、耳も目も釘付けになっていた。「逆櫓の段」の豊竹英大夫さんは、はじめ声量が足りないように感じたが、逆櫓を習う船頭たちは、端役の小悪党なので、あまり重々しい発声はしないのね。最後は荘重に〆めていた。

 以上『ひらがな盛衰記』だけで、もうお腹いっぱい。早く家に(宿に)帰って、今日の感想をゆっくり反芻したいと思ったが、続いて『本朝廿四孝』。福袋じゃあるまいし、欲張りすぎじゃないのか? 「十種香の段」では、吉田蓑助さんの八重垣姫が、相変わらず娘らしくて、愛らしい。ところが「奥庭狐火の段」では、同じ八重垣姫の人形が、桐竹勘十郎さんで登場(出遣い)。え?これって別人ってこと?と、ちょっと混乱した。しかしもう、そんなことはどうでもよい、と言いたくなる大迫力。霊狐と一体化し、舞台を縦横無尽に駆け回り、踊り狂う八重垣姫。付き従う四匹の白狐。唇をきっと結んだ勘十郎さん、男前だわ~。そして、床の呂勢大夫、三味線は鶴澤清治とツレの清志郎。三業のしのぎを削るような芸の張り合い。新春から、素晴らしい舞台を見せてもらって、感無量。

 あと、前回は忘れたが、大阪の公演プログラムには「技芸員にきく」というインタビュー記事(今回は鶴澤寛治さん)や「知識の泉」(演目について解説しながら、文楽独特の用語を学ぶ記事)があって、東京のプログラムより読み応えがあっていいなあ、と思ったことを追記しておく。

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