見もの・読みもの日記

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オトナの読みもの/老子の毒、荘子の非常識(大野出)

2009-07-30 23:55:24 | 読んだもの(書籍)
○大野出『老子の毒、荘子の非常識』 風媒社 2009.3

 三井記念美術館の『道教の美術』を見てきた名残りで、読んでしまった。本書は、中日新聞に連載された名著紹介コラムをまとめたものである。「老子」「荘子」から1行程度の断章を挙げ、200字程度の解説や感想を付している。あまりに短すぎて、これで「老子」「荘子」を読んだとはとても言えないが、私は、高校生の頃に全編を読んでいるので、遠い記憶がよみがえるようで、懐かしかった。

 著者は「おわりに」に「いつの時代も、老荘は若者に人気があるらしい」と書いているが、そうなのかなあ。私は、若い頃は儒学のほうが好きで、老荘は、損して得を取ろうというような老獪さが嫌いだった(どうも江戸っ子の性分には合わない)。ところが、今回、断章を読んでいると、しみじみ心に響くものがある。老子の「大直は屈むが如し。大巧は拙きが如し」なんていいなあ。「企(つまだ)つ者は立たず、跨ぐ者は行かず」とかね。そうかと思えば「下士は道を聞けば大いに之を笑う」のあとに「笑わざれば、以って道と為すに足らず」(俗物に笑われるくらいでなければ「道」とは言えない)なんて、きらりと刃のような皮肉が混じっていたりする。あらためて、読み返してみようかな。

 荘子は楽しい。「北冥に魚有り、其の名を鯤(こん)と為す」なんていうのは、構えて聴く必要はない。奇想天外な法螺話の始まりだと思って、わくわくしながら聞けばいい。「鯤の大いさ、其の幾千里なるかを知らず」なんて、ありえないけど面白かったら、腹を抱えて笑えばいいのだ。

 ひとつ意外だったのは「伯楽」の逸話。「千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず」というのは「韓非子」が出典で、「伯楽」は、名馬=優秀な人材を見抜く人のことをいう。しかし「荘子」に登場する伯楽は、「我は善く馬を治む」と自称して、あれこれ馬に無理を強いたあげく、「而して馬の死する者、已に過半なり」という結果をもたらす。これは最悪である。こういう”自称伯楽”、今の世の中にも、いっぱいいるんじゃなかろうか。

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