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書をもって、鉄道に/沿線風景(原武史)

2010-05-25 23:45:47 | 読んだもの(書籍)
○原武史『沿線風景』 講談社 2010.3

 もとは「週刊現代」連載の「リレー読書日記」。はじめは純然たる書評の体裁を取っていたが、途中から、バスや鉄道に乗ってどこかに出かけつつ、関連本を取り上げるスタイルになった。本に触発されて旅先が決まり、旅先の光景や心象風景に触発されて(時には多少、強引に)本が語られる。そもそも、現代の生活で、書斎でじっくり読書に集中できる人など、いったいどれだけいるか。通勤・通学・移動中の車内で読書をするというのは、私たちにとって、ごく当たり前の習慣になっているのではないか。

 まるで自分のことを言われているようで、嬉しくなった。私は、ブログの自己紹介欄に「本が好き。本を持って電車に乗って出かけることはもっと好き」と掲げているとおり、車中の読書が大好きなのだ。新幹線で東京~京都、あるいは新大阪でも飽きないが、1時間くらいの近郊線がちょうどいい。もうちょっと読み続けたいな、というところで目的地について、気持ちを切り替えて、観光や買いものに向かうのが、リフレッシュにいいのである。

 本書には22の鉄道・バス旅が紹介されているが、関西編の2回、ワルシャワのトラム1回を除いては、全て関東近県の日帰り旅である。週刊現代編集部のTさんのほか、高校の後輩、文筆業仲間など、世代や性別の違う同行者が、入れ替わり現れる。行き先は、政治学者らしく、厚木に残る大川周明の旧居だったり、立川の昭和天皇記念館だったり。あるいは、子どもの頃の家族旅行の記憶をたどって、那須高原や房総半島を訪ねたり。沿線グルメ(?)のそばやうどんにも、ときどき言及している(著者は鰻好きとみた)。

 東京西郊の団地育ちの著者と違って、私は東部下町の育ちだが、世代が近いので、共感する部分が多い。夏の家族旅行は、海水浴といえば立山、避暑なら那須か軽井沢。小中学校の林間学校の定番は日光。1970年代(実際は68年)から新宿駅京王線改札の脇にあったC&Cカレー(あったな~)。などなど。読んでいると、私は私なりの記憶と心象風景がよみがってくるように思う。関西育ちの読者には、たぶんこの楽しみは共有できないだろう。

 それから、私が10年ほど前に住んでいた逗子駅には、京急逗子線からの引き込みがあって、金沢八景の東急車輛で造られた車両が、JRを経由して全国に運ばれていくのだそうだ。知らなかった。確かにいちばん近い踏み切りが妙に広かった(何本も線路が並行していた)っけ。私のマンションは、JRと京急の線路に挟まれていて、毎晩遅くまで、妙にゆっくりと通っていく電車の音が聞こえて、好きだった。懐かしいな。またあのへんに住んでみたい。

 それにしても、センスのいい装丁である。表紙の色は、昔の山手線のイメージかしら。私がかすかに記憶している総武線もこんな色だったと思う。

※本日AGR日和なりっ(個人ブログ):東急車輛と京急逗子線
※マイコミジャーナル:昔の山手線がチョコレート色だった理由は蒸気機関車にあり

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