見もの・読みもの日記

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大河ドラマの作り方/謎とき平清盛(本郷和人)

2011-12-13 23:30:37 | 読んだもの(書籍)
○本郷和人『謎とき平清盛』(文春新書) 文藝春秋 2011.11

 テレビを見なくなった、と言いながら、逆に「これ」と思ったドラマは、狙って見るようになった。『坂の上の雲』の話題はもうしばらく封印して、とりあえず来年の大河ドラマ『平清盛』である。私は、記憶に残っている最も古い大河ドラマが1972年の『新・平家物語』で、あまり文学・歴史の話をしなかった理系の父親が、「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり…」を解説してくれたことを覚えている。そのせいもあってか、長じても平家びいきなのだ。

 来年の大河に特徴的なのは、脚本家の肉声が少ないわりに、時代考証担当のお二人、高橋昌明氏と本郷和人氏の露出が多めなこと。本郷先生は、すでに『平清盛』公式サイトにもご登場済みで、その談話が面白かったので、著書を読んでみることにした。

 冒頭で、いきなり曰く、「大河ドラマ『平清盛』の時代考証その2、本郷と申します」。第1章と第2章は、このノリで、大河ドラマにおける時代考証の役割を考える。ドラマの本質はフィクションである。素晴らしいストーリーを立ち上げるには、多少の譲歩や改変はあってよい。しかし、歴史の捉え方の根本的な誤りには「職を賭して」異議を唱えなければならない、ということを、実例を挙げて解説する。こんな考証の下に、こんなシーンを撮っているのか!と放映が楽しみになるような裏話、多々あり。

 第3章以下が、著者の清盛論。ただし、個人としての清盛よりも、「平家とは何者か」「平家は武士か貴族か」「武士とは何か」というのが、本書の主たる関心である。最後の点を考えるには、当然「貴族とは何か」という問いにも答えなければならない。この時代、貴族の序列は、(1)上級貴族、(2)中級実務貴族、(3)院の近臣(受領層)、(4)中級貴族(諸大夫)、(5)下級官人(六位以下の地下人)で、世襲を原則とし、任官コース・出世速度に厳然とした区別があった。ところが、平家は、正盛・忠盛が(3)か(4)の任官コースであったのに対し、保元・平治の乱の後、清盛は破格の栄達を遂げる。それは、平家が公家とは異質なもの=「武家」と考えられたことを意味する、というのが、著者の見解である。

 平家が天下を掌握する直前、信西(藤原/高階通憲)は、公家・武家・寺家が王家(天皇・上皇)の下に集結する「権門体制」の完成を目指した。しかし、平治の乱以降、軍事力(武家)が権力の帰趨を左右するようになると、権門体制の崩壊が始まる。ついに清盛は、武士政権=「福原幕府」を樹立する。これを学んだのが、源頼朝の鎌倉幕府である。

 このように、本書を読んでも、吉川英治が描いた、日吉山王の神輿に矢を射るような、泥臭い清盛のイメージは立ち現れてこない。そのかわり、古代から中世へという長いパースペクティブの中で、清盛がキーパーソンであったことは理解できる。貴族の世から学ぶべきものを学び取った上で、治承3年(1139)のクーデタによって、後白河院政を停止し、武家政権という、全く新しい政治のかたちを生み出す。そのことの画期性に比べたら、源氏と平家の争いなんて、確かに、コップの中の嵐みたいなものかもしれない。

 ただし、著者の見解と「時代考証その1」高橋昌明先生の見解は、異なるところもあるそうだ。高橋先生は、平家=公家を持論とされているというし、平家幕府(武士政権)は「福原幕府」以前の「六波羅幕府」で既に成立していたと考えてもいる。あと、本書のメインテーマではないのだが、「招婿婚」について、高橋先生がこれを承認しているのに対し、著者が「高群(逸枝)氏が主張する史論は、理念が先行しすぎているのでは?」と疑問を呈しているのも面白いと思った。いわゆる女性史学って、もう少し検証が必要かもなあ。

 そして、こんなふうに見解の異なるおふたりが、時代考証その1、その2をつとめて、ドラマは大丈夫なのか?と思ったが、そこは大人だから、なんとかするのだろう。むしろ、複数の視点が組み合わさることで、ドラマに深みが出てくれたら、いうことなしなんだけど。

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1 コメント

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こんな歴史書どうでしょ (あべ)
2012-03-21 17:19:38
マンガで
幕末の仙台藩を描いてます。
勿論実在した人物わんさか登場。
地方の歴史に新たな光を当てる。
http://ampiyampi.web.fc2.com/index.htm
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