○太陽の地図帖編集部編『諸星大二郎「暗黒神話」と古代史の旅』(別冊太陽 太陽の地図帖_027) 平凡社 2014.9
はじめに正直に断っておく。私はかなり古くからの諸星ファンだが、よく考えてみると「暗黒神話」を読んでいない。なんということ! うかつにも本書の出版を聞いて、はじめてそのことに気づいた。私がリアルタイムに触れた最初の諸星作品は「孔子暗黒伝」(週刊少年ジャンプ、1977-1978年連載)だと思う。「暗黒神話」の少年ジャンプ連載は、これにちょっとだけ先立っている(1976年)。 ちょうどこの間に、私の愛読誌は少女マンガから少年マンガに移行したのだった。
それでも諸星ファンとして本書を買い逃すわけにはいかない。小さな文字で表紙に添えられた地名「チブサン古墳」「富貴寺」「宇佐神宮」「比叡山延暦寺」「益田岩船」「石舞台古墳」等々に引き寄せられ、ページをめくると、あまりビジュアルに素顔をさらすことの少ない諸星先生が、長野県茅野町の神長官守矢資料館(じんちょうかんもりやしりょうかん)で、無数のクマやシカやイノシシの首が並ぶ壁の前に、ぼんやりした表情で立たれている。諸星先生、諏訪のお生まれだったのか。この資料館は、藤森照信氏の設計で、一度行ってみたいと思いながら、車の運転ができない私にはハードルが高くて、なかなかその機会がない。
『暗黒神話』のあらすじに沿って、ゆかりの土地を訪ねる本編も「Chapter1 諏訪・茅野」から始まる。諏訪は「縄文王国」だったんだな。ちょうど夏の北海道旅行で縄文文化への関心が高まったところなので、かなりツボを刺激される。それにしても縄文土器を、悪夢の奥から出現したような「怪物」に変換してしまう、諸星先生のイメージ操作力に息を呑むばかり。
「Chapter2 九州北部」では、数々の装飾古墳を紹介。禍々しくも美麗なカラー写真にうっとりと見入る。装飾古墳は公開されていないものと決めてかかっていたが、見学できるところもあるのだな。「予約制」や「要問い合わせ」のところもあり、「バス30分+徒歩20分」「バス3時間20分」など、かなりハードルが高いが、アクセスデータはありがたい。
「Chapter3 国東半島」も魅力的なのに行きにくいところ。ここは国東半島に限らない「馬頭観音」と「石馬」に関するコラムが興味深かった。浄瑠璃寺(奈良国立博物館寄託)の馬頭観音は、むらむらに剥げ残った赤い顔料が、全身に血を浴びたようで、怖すぎる。なぜか若狭地方にも馬頭観音は多い。「石馬」は、九州の岩戸山古墳と鳥取の石馬谷古墳の二例しか日本にないそうだ。覚えておこう。
「Chapter4 京都・奈良」は穏当な名所揃いなので割愛。「Chapter5 駿河・伊豆」に紹介されている神社や旧跡は、いちばん馴染みがなかった。草薙神社、焼津神社など、ヤマトタケルの東征伝説に由来する神社があるそうだが、創建はいつなんだろうか。
本書のところどころに「暗黒神話」本編の一部と思われるカット(1コマ、時には1ページ)が転載されているのは嬉しい。ただし本文との関連が分かるものもあれば、分からないものもある。中には全く説明のない「謎」のカットもあって、気になる。
本書に署名入り記事を書いている方々は、冒頭の中沢新一氏しか知らなかったが、畑中章宏氏、松木武彦氏など、今後の読書のために覚えておきたい(プロフィールによれば両氏とも私と同世代だ)。こういう本を作るのは楽しかっただろうなあ。いいなあ。
巻末の「『暗黒神話』を楽しむための読書案内」では、上記の畑中章宏氏、松木武彦氏が厳選した14点を紹介。いまどき珍しいほど時代に迎合しない良書揃い。したがって表紙写真はどれも地味(笑)だが、そこがよい。なお、諸星大二郎先生の「オススメの三冊」は、谷川健一『古代史ノオト』、大林太良『日本神話の起源』、益田勝実『秘儀の島』らしい。→※「ヴィレッジヴァンガード下北沢」のツイート。こういう教養主義、古いんだろうけど、私は好き。
なお、当然ながら、本書を入手後、札幌の大きな書店をまわって「暗黒神話」を探したのだが、見つけられなかった。Amazonでは「在庫あり」だが、今月、東京に行ったら、まずリアル書店で探してこよう。それと「画楽.mag」という雑誌が「暗黒神話」完全版(新たに手を入れたもの)を連載するという。嬉しいけど、まずはオリジナル版を読みたい。
もうひとつ追記。『諸星大二郎原画展』(2014年8月27日~9月2日、阪神梅田本店)東京、博多に続く大阪FINAL開催が今日までだったらしい。北海道に来てくれないかなあ(泣)。
はじめに正直に断っておく。私はかなり古くからの諸星ファンだが、よく考えてみると「暗黒神話」を読んでいない。なんということ! うかつにも本書の出版を聞いて、はじめてそのことに気づいた。私がリアルタイムに触れた最初の諸星作品は「孔子暗黒伝」(週刊少年ジャンプ、1977-1978年連載)だと思う。「暗黒神話」の少年ジャンプ連載は、これにちょっとだけ先立っている(1976年)。 ちょうどこの間に、私の愛読誌は少女マンガから少年マンガに移行したのだった。
それでも諸星ファンとして本書を買い逃すわけにはいかない。小さな文字で表紙に添えられた地名「チブサン古墳」「富貴寺」「宇佐神宮」「比叡山延暦寺」「益田岩船」「石舞台古墳」等々に引き寄せられ、ページをめくると、あまりビジュアルに素顔をさらすことの少ない諸星先生が、長野県茅野町の神長官守矢資料館(じんちょうかんもりやしりょうかん)で、無数のクマやシカやイノシシの首が並ぶ壁の前に、ぼんやりした表情で立たれている。諸星先生、諏訪のお生まれだったのか。この資料館は、藤森照信氏の設計で、一度行ってみたいと思いながら、車の運転ができない私にはハードルが高くて、なかなかその機会がない。
『暗黒神話』のあらすじに沿って、ゆかりの土地を訪ねる本編も「Chapter1 諏訪・茅野」から始まる。諏訪は「縄文王国」だったんだな。ちょうど夏の北海道旅行で縄文文化への関心が高まったところなので、かなりツボを刺激される。それにしても縄文土器を、悪夢の奥から出現したような「怪物」に変換してしまう、諸星先生のイメージ操作力に息を呑むばかり。
「Chapter2 九州北部」では、数々の装飾古墳を紹介。禍々しくも美麗なカラー写真にうっとりと見入る。装飾古墳は公開されていないものと決めてかかっていたが、見学できるところもあるのだな。「予約制」や「要問い合わせ」のところもあり、「バス30分+徒歩20分」「バス3時間20分」など、かなりハードルが高いが、アクセスデータはありがたい。
「Chapter3 国東半島」も魅力的なのに行きにくいところ。ここは国東半島に限らない「馬頭観音」と「石馬」に関するコラムが興味深かった。浄瑠璃寺(奈良国立博物館寄託)の馬頭観音は、むらむらに剥げ残った赤い顔料が、全身に血を浴びたようで、怖すぎる。なぜか若狭地方にも馬頭観音は多い。「石馬」は、九州の岩戸山古墳と鳥取の石馬谷古墳の二例しか日本にないそうだ。覚えておこう。
「Chapter4 京都・奈良」は穏当な名所揃いなので割愛。「Chapter5 駿河・伊豆」に紹介されている神社や旧跡は、いちばん馴染みがなかった。草薙神社、焼津神社など、ヤマトタケルの東征伝説に由来する神社があるそうだが、創建はいつなんだろうか。
本書のところどころに「暗黒神話」本編の一部と思われるカット(1コマ、時には1ページ)が転載されているのは嬉しい。ただし本文との関連が分かるものもあれば、分からないものもある。中には全く説明のない「謎」のカットもあって、気になる。
本書に署名入り記事を書いている方々は、冒頭の中沢新一氏しか知らなかったが、畑中章宏氏、松木武彦氏など、今後の読書のために覚えておきたい(プロフィールによれば両氏とも私と同世代だ)。こういう本を作るのは楽しかっただろうなあ。いいなあ。
巻末の「『暗黒神話』を楽しむための読書案内」では、上記の畑中章宏氏、松木武彦氏が厳選した14点を紹介。いまどき珍しいほど時代に迎合しない良書揃い。したがって表紙写真はどれも地味(笑)だが、そこがよい。なお、諸星大二郎先生の「オススメの三冊」は、谷川健一『古代史ノオト』、大林太良『日本神話の起源』、益田勝実『秘儀の島』らしい。→※「ヴィレッジヴァンガード下北沢」のツイート。こういう教養主義、古いんだろうけど、私は好き。
なお、当然ながら、本書を入手後、札幌の大きな書店をまわって「暗黒神話」を探したのだが、見つけられなかった。Amazonでは「在庫あり」だが、今月、東京に行ったら、まずリアル書店で探してこよう。それと「画楽.mag」という雑誌が「暗黒神話」完全版(新たに手を入れたもの)を連載するという。嬉しいけど、まずはオリジナル版を読みたい。
もうひとつ追記。『諸星大二郎原画展』(2014年8月27日~9月2日、阪神梅田本店)東京、博多に続く大阪FINAL開催が今日までだったらしい。北海道に来てくれないかなあ(泣)。