見もの・読みもの日記

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隅から隅まで/雑誌・芸術新潮「ヒエロニムス・ボスの奇想天国」

2014-09-04 22:14:58 | 読んだもの(書籍)
○雑誌『芸術新潮』2014年9月号「特集・中世の大画家 ヒエロニムス・ボスの奇想天国」 新潮社 2014.9

 わーいわーい、大好きなヒエロニムス・ボス(1450?-1516)だ! 私にこの不思議な画家を深く教えてくれたのは、間違いなく澁澤龍彦だが、いくつかの作品は、もう少し前から知っていたかもしれない。ボスより少し遅れて、同様に幻想的な作品を残したフランドルの画家、ブリューゲル(1525?-1569)と一括して語られることが多いが、私は圧倒的にボスが好き。明るく朗らかな色彩、明晰な形態、それなのに(それゆえに)深まる「謎」と「不安」、大好物である。

 同誌の特集は、展覧会と連動していることが多いので、何か来日するのだろうか!?と色めき立ってしまったが、そうではないらしい。2016年は没後500年にあたるため、オランダでは記念イベントや大規模展覧会が予定されているが、日本までその波及は無いもよう。ヨーロッパの記念イベントが一段落したあとでもいいから、日本に来てくれたら嬉しい。

 ボスの「真筆」とみなされている作品は、世界に20点しかないそうだ。私は、乏しい渡欧経験の中で、マドリッド美術館に行ったことがあり「え、スペインなのにこんなにボスがあるの?」と、死ぬほど驚いた記憶がある。所蔵作品を全部見られたかどうかは定かでないが、『快楽の園』を含め、最多の5点所蔵。真贋論争の判定に、作品の支持体の板に対する年輪年代測定法が用いられていると読み、科学ってすごいと感じた。Wikiによれば、ボスの作品のほとんどが「16世紀の宗教改革運動での偶像破壊のあおりを受けて滅失した」とのこと。悲しい。それでもこれだけの名作が残った幸運に感謝したい思う。

 本書の楽しさは、何といっても細部の拡大図版! むかし、高校生のお小遣いではポケット版(A5サイズ)の画集しか買えなかったので、表紙や特集扉ページの『快楽の園』部分拡大図版は、私にとって「初めて見る風景」である。思わぬところに思わぬポーズで出没する怪物、怪人たち。何なのよ~こいつら! 安易に寓意が読めないところが、嬉しくて、楽しい。

 『最後の審判』では、世界は魔物であふれ、多くの人々が地獄と煉獄で苦しんでいる。天上のイエスの傍らにある集団が、わずか6人。ほかに昇天しつつある小さな人影が3人と、天使に支えられて、煉獄の山道を登りつつある者が1人(よく見つけたなー)。『東方三博士の礼拝』の黒人の博士がまとう純白のローブも、拡大図版で見られて嬉しい。これほど素晴らしい描写とは思っていなかった。ぜひ高精細デジタルで、細部の細部まで味わいつくしたい。

 さらに、ボスの真作とみなされている素描8点も収録されている。フクロウかわいいなあ。利発そうだが、『快楽の園』の解説に、フクロウは「愚者の象徴」とあって、えっと驚いた。また、『茨の冠のキリスト』はじめ、透徹した写実で描かれた人物には、幻想画とまた違ったボスの魅力がつまっている。

 その他の記事では、小特集「スペインはすごい!」の扉絵が愛らしくて、お気に入り(支倉常長とダリの口髭がシンクロしているw)。同じく小特集「ネーデルラント美術紀行」は写真たっぷり。あ、マウリッツハイス美術館もアムステルダム国立美術館も新装したんだ。久しぶりにヨーロッパに行きたくなってきた。行けないだろうけどねえ。

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