〇奈良国立博物館 開館130年記念特別展『超国宝-祈りのかがやき-』(2025年4月19日~6月15日)
2泊3日の関西旅行で展覧会もいくつか回ってきたのだが、本展のクオリティと満足度はずば抜けていた。
奈良国立博物館は明治28年(1895)4月29日に開館し、2025年に130周年を迎える。これを記念し、同館は「これまでで最大規模となる国宝展」を開催し、国宝約110件、重要文化財約20件を含む約140件の仏教・神道美術を展示する。「超国宝」というタイトルには、私たちの歴史・文化を代表する国民の宝という意味の「国宝」を超えて、先人たちから伝えられた祈りやこの国の文化を継承する人々の心もまた、かけがえのない宝であるという思いを込めたという。この説明には納得しつつも、今回「国宝」という名前をどこからか(上の方から)押し付けれたのではないか、と疑ってしまった。本質は「仏教・神道美術展」であり、副題の「祈りのかがやき」のほうが、企画の趣旨にマッチしていると思う。
私は4月28日(月)に参観したのだが、直前の土日が激混みだったらしいので、朝8時10分くらいに到着した(開館は9時半)。そうしたら誰もいなくて、特別開館日だと思ったのは間違いだったかと慌てた。私は毎年、正倉院展にも並んでいるが、先頭を取ったのは初めてだと思う。
やがてポツポツと人が来て並び始めた。この記事を読んでくれた人のために書いておくと、当日券を買うために並ぶと、購入後は、チケットありの待ち列の最後尾に再び並ばなければならない。できれば事前にチケットを購入しておくほうが時間の節約になると思う。
この日は、たまに正倉院展で体験するような早め開館は無し。きっちり9時半に開館した。大きな荷物をロッカーに預け(館外ロッカーは無し)、2階の第1会場に入る。入口をくぐった瞬間、深いブルーの壁に三方を囲まれた百済観音と向き合ってしまう。百済観音に近づく参観者を左右で待ち構えているのは、法隆寺の四天王立像(広目天、多聞天)だったり、目の端に、さらに先のエリアの仏像も見えていて心が乱れるのだが、百済観音の威容に吸い付けられて足が動かない。あまりにも異形だが、とても美しい。百済観音は、子供用のプールみたいな、低い囲いのついた区画に展示されていて、思わず、中にお賽銭を投げ込みたくなった。後ろにまわって、光背を支える支柱が竹を模しており、基部には小さな山岳(須弥山)が表現されていることを知る。
法隆寺の広目天、多聞天は、光背の制作者に関する刻銘が、大きな写真パネルで紹介されていた。本展は、仏像を作り、伝えてきた人々の記録を意識的に取り上げている印象を受けた。
右側の順路に進むと、肩幅の広い、堂々とした地蔵菩薩立像。上品なピンクの展示台に、赤で縁取りした白い背板を立て、背後の壁は緑色。春の大和路をイメージしたような配色である。この地蔵菩薩像はどこの?と思って解説を読み、法隆寺大宝蔵院の、つまり大御輪寺旧蔵の地蔵菩薩だと思い出す。全身を覆う翻波式の衣文が力強い。
東大寺の重源上人坐像には、いつもご苦労様です!という雰囲気でご挨拶。大安寺の多聞天や薬師寺の獅子吼菩薩も来ていた。大好きな天燈鬼・龍燈鬼はまわりをぐるぐる回って四方から眺める。明治の古写真に、天燈鬼・龍燈鬼と並んで写っている八雷神面(室町~江戸、元興寺)は初めて見たが、なかなかの珍品。いつも奈良博の仏像館においでの元興寺・薬師如来立像や、奈良博所蔵の薬師如来坐像(平安時代)も、特別展会場で見るとあらたまった感じがする。聖林寺からは十一面観音の光背残欠が木製の固定台とともに来ており、照明の加減か、強めに陰影がついて美しかった。
仏像だけではなく、『信貴山縁起絵巻』の尼公巻(前日、大阪市美で飛倉巻も見た)や『天寿国繍帳』を見ることができたし、文書(アーカイブ)好きの私は、奈良博設置に先立つ奈良博覧会に関する資料が多数(当時の立札まで!)出ていたのも嬉しかった。
西新館に移って最初の部屋は「釈迦を慕う」がテーマで、奈良博の至宝『刺繍釈迦如来説法図』や、東国代表みたいな深大寺の釈迦如来倚像など。室生寺の釈迦如来坐像は、白っぽい木肌が黄色の背景に引き立てられて、温かみを感じた。結跏趺坐した足首から垂れる衣の渦文の意外な華やかさに見とれた。
続く展示室には円成寺の大日如来坐像。身体の薄さが若々しくて素敵。「華麗なる仏の世界」と題しつつ、『辟邪絵』と『病草紙』をがっつり展示してくれているのが嬉しい。岐阜・来振寺の『五大尊像』5幅は、あまり記憶にないもので珍しかった。
西新館の後半の始まりは、神像と神宝関係。薬師寺の『吉祥天像』も期間限定で展示。同じ薬師寺の『板絵神像』(休ヶ岡八幡宮伝来)を見ることができたのも嬉しかった。
混雑を避けて、写経や墨蹟の後に展示されていたのが石上神宮の『七支刀』。記憶に自信がないので調べたら、私は2013年の東博『大神社展』や2020年の『出雲と大和』でも見ているらしかった。意外と関西での展示のほうがないのかもしれない。ちなみに本展のグッズに「七支刀ぬいぐるみ」や「七支刀ペンケース」があると聞いていたのだが、すでに品切れ状態だった(ちょっと~)。
『七支刀』を見たあと、狭い入口をくぐると最後の展示室に行きつく。クリーンルームのような、白一色の部屋の中央には、京都・宝菩提院願徳寺の菩薩半跏像。腰から下の衣は、湧き立つ雲のように華麗な衣文を描く。豊かな頬(やや四角張った顔立ち)、意志的な切れ長の目は、即天武后を思わせる。お寺では如意輪観音像と呼ばれているそうだが、この展示では弥勒菩薩に見立てられている。困難な時代において、理想世界を目指し、平和を祈る気持ちを「弥勒下生」の願いに重ねて展覧会を締める。最後のパネルの文章は、主任研究員の三田覚之さんの作らしい(図録にも収録)が、深く心に残るものだった。