見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

東京五輪の前に読む/ポエムに万歳!(小田嶋隆)

2014-01-03 18:46:03 | 読んだもの(書籍)
○小田嶋隆『ポエムに万歳!』 新潮社 2013.12

 正月休みのだらだら気分に見合った、軽い読みものが欲しくなって、正月二日に買ってきて、すぐ読んでしまった。2008~2013年に著者がメールマガジンや雑誌に掲載したコラムが元になっている。編集は誠実だが、ところどころネタの古さを感じることは否めない。

 実は、著者のツイッター上で本書の発売は知っていたのだが、「ポエム」の意味が分からなくて、買おうかどうしようか、迷っていた。書店でパラパラ立ち読みして、そういうことだったかと納得し、購入を決めた。

 著者は、「ポエム」とは「強いて定義するなら『詩になりそこねた何か』、あるいは『詩の残骸』と呼んでしかるべきもの」だという。「バターとマーガリンの関係に似たもの」という対比が、私はすごく腑に落ちた。そして、詩が無条件に素晴らしくて、ポエムが無価値なものだとは言えない。金子みすずは「詩」で、相田みつをは「ポエム」かもしれないが、詩とポエムの境界領域には「ピンク色のグレーゾーンが広がっている」という説明にも共感できる。相田みつをについては、高橋源一郎さんの『国民のコトバ』も確か、けっこう好意的な言及をしていた。健全な社会のために、一定量の「ポエム」は常に必要なのではないかと思う。

 しかし、そのあとに本書が紹介している東京オリンピック招致委員会のメッセージの初期バージョン(現在は改訂済み)はひどい。これは「ポエム」の域にも達していない。日本の公的機関のコトバがこれほど退廃しているとは思わなかった。この事実を知っただけでも本書を読んだ甲斐はあったと思う。

 そのほか、本書には、さまざまな社会現象やメディアをめぐる、比較的長い文章が収録されている。「『式』と名のつくもの」は、式典やイベントが大嫌いで、ショーだのミュージカルだのにも一貫して冷淡な態度をとってきた著者が、あら不思議、たまたまテレビをつけた2008年の北京オリンピック開会式に、まるまる4時間つきあってしまった感慨に始まる。分かる分かる、私も全く同じだったので。そこで思い出す長野五輪の恥ずかしさ…。「若いアスリートにはトラウマになっている」と著者は書いているけれど、むしろ、私自身を含め、十分に物心ついていた世代の「日本で五輪なんて二度と嫌」というアレルギーの原点は、あの寒すぎた開会式なのかもしれない。

 「電子メールはあと2年で終わる」はいつ頃の文章なんだろう。実際、若者のコミュニケーションツールとして、もう電子メールは終わっていると思う。で、彼等は就職と同時に「電子メールの書き方、送り方」を習得しなければならないのだろうな。かつての我々が、慌てて「手紙の書き方」を学習したように。

 あとは「体罰」「偽装」「高齢者の犯罪」など。総じて、ネットの海に棲息する顔のない「群集」への違和感を表明しているものが多いが、「レッズサポに『群集』の未来を見た」は異色。「な。罵るよりは応援する方が楽しいぞ」って、オジサンの本当に言いたいことは、それに尽きるように思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« まだ夜は明けない/維新の後... | トップ | 生き過ぎたりや廿三/豊国祭... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読んだもの(書籍)」カテゴリの最新記事