見もの・読みもの日記

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隣人としての移民/ふたつの日本(望月優大)

2019-03-24 23:52:00 | 読んだもの(書籍)

〇望月優大『ふたつの日本:「移民国家」の建前と現実』(講談社現代新書) 講談社 2019.2

 この数年、東京では外国の方を見かける機会が本当に増えた。それも飛行場や観光名所ではなく、普通の街角で。近所のコンビニやファストフード店の店員さんは外国の方ばかりである。昨年末には出入国管理法の改正案が成立し、政府はさらに外国人労働者の受け入れを拡大する方向に舵を切った。しかし、それにはさまざまな困難が付随することが指摘されている。技能実習生への搾取、入管収容施設における人権侵害の疑いなど、いろいろ気になる問題が多いので、初歩から勉強するつもりで本書を読んだ。

 まず、拡大する「移民」(在留外国人)の実態については、特に肌感覚と齟齬はなかった。日本は1990年ごろまでは外国人の割合がとても少ない国だったが、1990年代以降、特にここ数年(2013年以降)急激に在留外国人が増加している。現在は1.25億人の総人口に対して260万人強(約2%)の外国人がいる状態だが、やがてこの比率が5%(アメリカやフランス並み)に近づくことも想定される。

 しかし日本政府は「移民=永住する外国人」を増やさず、「永住しない外国人=出稼ぎ労働者」だけを増やしたいという。だが、人生は予測不可能だし、人間は複雑で曖昧な生き物だ。「いつかは帰る」予定であった人々が日本に定住することはいくらでも起こり得る。そのとき「移民」の存在を否定する日本では、外国人にとって必要なケアが行き届かず、外国人を既存の社会に「統合」するための取組みが弱い。これらの指摘は、いちいち頷ける。

 日本の在留外国人の実態を統計から読み解く章では、1990年頃に来日したブラジル人が2000年頃から永住者資格を取って定着しているとか、在日フィリピン人は女性が圧倒的に多いが、近年新規参入が少なく高齢化しているとか、ふだん見えないものが見えて面白かった。東京はホワイトカラーの外国人労働者が多く、製造業や建設業で働く外国人の姿はなかなか見えないのだ。
 
 さて日本は「いわゆる単純労働者は受け入れない」という建前を取ってきた。これは「フロントドア」から受け入れるのは「専門・技術」「高度人材」に限るという話で、その代わり、日系人とその家族、研修・技能実習生、留学生を「サイドドア」から受け入れることで、低賃金・非熟練の領域で外国人労働者を雇用したいという産業側のニーズに応えてきた。これにはいろいろ理由があるというけれど、やっぱりひとことで言って欺瞞だと思う。

 建前と現実の乖離による矛盾を一手にかぶっているのが技能実習制度だろう。厚労省の調査で7割以上の事業場に労働基準関係法令違反があったという実態はひどすぎる。もっとも日本人労働者のかなり多くも、労働基準関係法違反の状態で働いているからこうなるのかもしれないけど。「真正面から外国人労働者を受け入れてこなかった日本のサイドドア政策自体から帰結した矛盾」は、早期に是正されなければならない。

 最後にサイドドアならぬ「バックドア」と呼ばれる非正規滞在者の外国人について。これも興味深かった。ピークの1993年には30万人弱にのぼった「オーバーステイ」の外国人が、近年では6万人台にまで減少していることは全く知らなかった。ある時期まで彼らは必要な労働力として黙認されていたが、2000年代以降、摘発が強化された。これはバックドアからサイドドアへの置き換えを背景にしている。

 非正規滞在者の減少には、強制送還、出国命令、在留特別許可の3つのパターンがあり、近年問題になっているのは、在留特別許可の低迷と、強制退去を命じられた外国人の収容の長期化である。いちばん怖いと思ったのは、入管は「送還可能のときまで」つまり裁量次第でどんなに長期間でも収容を続けることができるという指摘。確かに刑務所にもそんな裁量権はない。こんなことが通るのは、「領域国家」は自国民の権利は保障しても、同じように外国人の権利は保障しないからだ。それは当然とされてきた。でも本当にそのままでいいのだろうか。

 私は、この土地に暮らすことを選んだ人たち、あるいは祖国に帰れなくなった人たちとは、なるべくうまくやっていける社会であってほしいと思う。日常生活のコミュニティに多様な文化が入り混じる状態は、少し面倒だが刺激が多くて楽しい。でも、90年代以前の、極端に外国人の少なかった日本を懐かしむ人たちは、そうは感じないのだろうなあ。


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