〇泉屋博古館 企画展『ライトアップ木島櫻谷II-おうこくの線をさがしに・併設四季連作屏風』(2024年3月16日~5月12日)
昨年に続き「四季連作屏風」を全点公開し、木島櫻谷の絵画表現の特質をライトアップする展覧会シリーズの第2弾。エントランスホールにも展示ケースを並べ、たくさんの写生帖を展示していた。開いたページには人物画が多く、少ない描線で簡潔に対象の特徴を捉えたものが多かった。「クロッキーふうの」という解説に私は妙ななつかしさを感じてしまった。通っていた小学校では、朝の自習時間の課題のひとつにクロッキーがあり、私はこれが好きだったので。
描かれた人物は、いかにも身のまわりにいそうな幼児や農婦もあるけれど、狩衣や水干、本格的な鎧姿の写生もあって(眼鏡をかけた男性が兜をかぶった図も)「〇〇君仮装」などと注記が付いている。なるほど歴史画を描くには、こうした写生によって、衣の皺の寄り方、崩れ方を学ぶのだな。
秋野を駆ける騎馬武者を描いた『かりくら』双福は、堂々とした巨幅。馬上の武者は綾藺笠、射籠手、行縢(むかばき)という鎌倉時代の狩装束。左幅の武者は黒馬の手綱を強く引いて立ち止まり、右幅の武者は白馬の姿勢を低くしてひた走る。白く輝くススキの穂。2015~2016年に住友財団助成により修復されたそうで、そういえば、2019年の住友財団修復助成30年記念の展覧会にも出ていた。
第3展示室は四季連作屏風。順路に従って『柳桜図』→『燕子花図』→『秋草図』→『菊花図』→『雪中梅花』の順に並んでいた。ん?昨年と配置が違う?と思ったら、やっぱり少し変えているみたい(昨年は『雪中梅花』→『柳桜図』だった)。『燕子花図』は、今年も頭の中で光琳の『燕子花図屏風』を思い出しながら眺めた。『秋草図』も琳派によくある画題だし、『雪中梅花』は応挙っぽいかな。『柳桜図』には、大覚寺展で見た襖絵を思い出した(狩野山楽筆かと思ったが『柳桜図』に作者名はついていなかったようだ)。なお、先行する類似作品があるから価値が下がるとは思わない。『菊花図』は、咲き誇る白菊の陰にちょぼちょぼと見え隠れする赤い菊の、金時にんじんみたいな色合いと、ぽってりした質感がとてもいい。『雪中梅花』の粘りつくような雪は、本州(関東以南?)の雪だなあと思った。
第4展示室は特集展示『住友財団助成による文化財修復成果-文化財よ、永遠に2025』で、2件の作品が展示されている。1つめはケルン東洋美術館が所蔵する『十一面観音菩薩像』(南北朝時代)。2022年11月~2024年9月、半田九清堂により修復された。長谷寺式の十一面観音で、右手に錫杖、左手は肘を曲げて肩のあたりに、蓮花を挿した水瓶を捧げ持つ。頭上の十一面の顔立ちがどれもはっきり見えるのが珍しい。板のような光背には金色の十一面観音の梵字が点々と7つ。向かって右下には難陀龍王、左下は女神かと思ったら赤精童子(雨宝童子の別名)。海外在住の珍しい作品を見ることができて、ありがたかった。
2つめは狩野山雪筆『歴聖大儒像』。というか「筑波大学附属図書館所蔵」の文字が先に目に入って、驚いてしまった。全6幅のうち、展示=修復の対象になった作品は「周子像」「程子像」「邵子像」の3幅。2019年5月~2022年3月、株式会社修護によって修復された。筑波大学附属図書館は、なぜか図書館なのに貴重な絵画作品を多数所蔵しており(湯島聖堂→師範学校→筑波大学の流れ)、近年、着々と修復・公開に取り組んでいるのは素晴らしいことだと思う。描かれた3人のおじさんは、いずれも福々しい顔をしていた。画中の賛に「金世濂書」とあるのは誰だろう?と思って調べたら、朝鮮通信使副使で、おお『海槎録』の著者で、林羅山が金世濂に『歴聖大儒像』への題賛を求めたのだという。
※(参考)令和4年度(2022)筑波大学附属図書館特別展『孔子を祀る 歴聖大儒像の世界』←行きたかったけど行けなかった展覧会。