見もの・読みもの日記

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怒るより祈れ/原発と祈り(内田樹、名越康文)

2012-03-30 23:35:08 | 読んだもの(書籍)
○内田樹、名越康文、橋口いくよ『原発と祈り:価値観再生道場』 メディア・ファクトリー 2011.12

 3.11以来、自分の読む本が少し変わったように思っている。原発の問題を除き、それ以外の日本社会について書いた本に対して、関心が薄くなってしまった。どれも物足りないというか、ウソ臭く感じるようになってしまったのだ。一方で、これまでよく読んでいた著者の、原発や震災に対するスタンスに違和を感じて、途方に暮れているケースもある。これは、著者に裏切られたというより、まだ自分自身の、原発や震災に対する態度が決まらないためでもある。

 というわけで、震災前はよく読んでいた内田樹さんについても、しばらく慎重に距離をおいていた。震災以後、初めて読むのが本書になる。対談相手の名越康文さんのことは知らなかったが、「TV・ラジオ等で活躍中の精神科医」だそうだ。表紙(をくるむオビ)には、オジサン二人が顔を出しているが、もうひとり、聞き手として、作家の橋口いくよさんが登場する。このひとも私は知らなかったが、「原発供養」を言い出して、ネット上で話題になった方だそうだ。

 橋口さんは、40年も不眠不休で働かされ、人々に電気を供給し続けたのに、憎まれ怖がられて死んでゆく原発を鎮めるために、爆発直後から毎日祈っているという。内田さん、名越さんは「分かる」と言って、これに共感する。確かに、百鬼夜行から映画「ゴジラ」まで、鎮魂・弔いの伝統を持つ日本人として、自然な反応だというのは分かる。だが、祈っていると手足が熱くなり…というような感覚は、正直なところ、私にはよく理解できない。くだらないと斬って捨てる批判はしないが、ちょっと協調もできないな、という感じである。

 逆に後半の、内田さんの「(こういう状況で)怒っちゃだめよ」発言には共感する。続けて名越さんが、「心で繋がろう」的な物言いに注意を促し、怒りや嫉妬や排他性で繋がってはいけない、明るいほう、楽しいほうと繋がるには結構工夫がいる、と指摘していることにも。

 ゴジラや怪獣が「荒ぶる神」であり、ウルトラマンは大仏である(巨大ヒーローというのは日本だけ?らしい)というのは、どこかで聞いたことのある解釈だと思ったが、「日本人のショッカー化」という見立ては初めてで、面白かった。今の日本は、政府のやっていることを普通の人々が絶対的な位置で批判し、自分は体制を打ち負かしてニューワールドを作るんだと思っているが、彼らは「仮面ライダー」のショッカーに似ている。

 ショッカーとは「問わない人」「考えたくない人」である。自分たちは恵まれない反体制で、一番正しいし、自分自身で考えていると思っている。もう一度考えてみては?と問いかける人間は体制側だから、コミュニケーションの必要がないと思っている。考えるという知的負担に耐えられないから、突然怒り出す。「ショッカーって社会改革論者ですから要するに」という名越さんのまとめに対し、橋口さんの「(ショッカーに改造されかけて逃げのびた)仮面ライダーって、本当はそんなショッカーを救いたいのかも知れないなあ」という会話に含蓄を感じた。

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