見もの・読みもの日記

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17世紀のグローバル市場/海を渡った伊万里焼展(戸栗美術館)

2011-12-22 22:17:41 | 行ったもの(美術館・見仏)
戸栗美術館 『海を渡った伊万里焼展~鎖国時代の貿易陶磁~』(2011年10月2日~12月23日)

 このところサボっていた展覧会レポートを思い出せる限り、取り急ぎ。「鎖国政策をとっていた江戸時代にありながら、世界の陶磁市場を席巻する輸出磁器として一時代を築いた伊万里焼」約100点を展示。この説明は、公式サイトから取ってきたものだが、会場の説明プレートには「鎖国」の横に、誤解を避けるためだろう、「制限貿易の時代」みたいな注記が付けてあった。

 何度もおさらいしているが、伊万里焼の輸出が本格化するのは、1656年、清の海禁政策以降。展示品の大半は、17世紀後半の作である。私は「海を渡った伊万里焼」という展覧会のタイトルを聞いたとき、反射的に、18世紀のゴテゴテした金襴手が脳裡に浮かんで、あ~あれなら見なくていいや、と思っていた。

 ところが、展示会場に入ったら、愛らしい柿右衛門様式や、自由なデザインの色絵や染付が並んでいて、びっくりした。『色絵双鶴文輪花皿』かわいいな~。花垣の横に赤い鶴、乳白色の空に藍色に鶴が舞っていて、二羽が微妙にアイコンタクト(いや、嘴コンタクト)を取っている。『色絵牡丹文瓶』は、頸の紅色の唐草文がイスラムっぽい。胴の牡丹と太湖石も、写実を超えた生々しさがある。細長い葉は蘭かな。

 この時期の作品は「初期輸出手」と総称される。16世紀~17世紀前半の「初期伊万里」とは趣きを異にするらしいが、幾何学模様にしても、山水や獅子の絵付にしても、個性的で面白い。茶筅型の瓶は、初期輸出手の典型だそうだ。色味は赤が目立つ。続く柿右衛門の時代に入っても、作例の多様さは変わらない。柿右衛門といえば、乳白色の広い余白に愛らしい花鳥or美人図が典型的なイメージだが(私の場合)、「本来の柿右衛門様式はもっと幅広いもの」という説明が印象的だった。

 1690年代からの金襴手の登場は、一説に、柿右衛門窯の職人が鍋島藩窯に引き抜かれて濁し手生地の生産が困難になったため、また、1684年から中国が貿易を再開し、価格競争に打ち勝つためのコストダウンを迫られたためともいう。国際競争に脅かされるモノづくりって、なんだか身につまされる話である。

 ヨーロッパの古城に残る伊万里焼を写真で紹介したコーナーには、さほど新味を感じなかったが、特別展示室に、東南アジアに残る伊万里(オランダ東インド会社の商館で使われていた)が展示されていたのは、興味深かった。ちなみに中国が貿易を再開すると、すぐさま東南アジアの磁器市場は奪回されてしまったそうだ。すでに世界は狭かったんだなあ、と思った。

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