○梁石日(ヤン・ソギル)『雷鳴』(幻冬舎文庫) 幻冬舎 2007.12
私にしては本当にめずらしく、小説を読みたい気分が続いている。たまたま書店で同じ作者の『血と骨』を見つけて、あ、ビートたけし主演で映画化されたとき、見たいと思って見逃した作品だ、と思った。手を伸ばそうとしたら、平積み台にあった本書の「名作『血と骨』の原点!」というオビが目にとまった。そうか、それなら、こっちから行こう、と思った次第。
物語は海浜の村に下級両班(ヤンバン)の一人娘として生まれた李春玉(イ・チュノギ)の静かな少女時代から始まる。舞台は済州島。もともと島の暮らしは豊かでなく、本土の韓国人から差別を受けてきたが、日本の支配下に入り、最下層の人々は一層搾取されるようになった。
一方で、何百年も続く封建道徳は、人々に非人間的な生活を強い続ける。18歳になった春玉は裕福な尹家に嫁ぐが、待っていたのは10歳の花婿だった。母親離れができない幼い夫。息子を溺愛する姑は春玉に辛く当たる。その姑も、かつては10歳以上若い夫のもとに嫁いできて一人息子を産んだ。今では夫はあちこちに若い妾を作って本妻のことを省みない。
一人の島の男とのはかない恋を経て、春玉が婚家を捨て、島を捨てて、単身、日本に渡る決意をしたところで物語は終わる。こうして、家郷の抑圧を逃れるため、抑圧の大元である日本に渡るしか途のなかった人々は「在日コリアン」となったのだ。彼らのサーガ――1世紀に渡ってなお継続する長大な物語――は、幕を開けたばかりである。(引き続き、ではないかもしれないが)著者の他の作品を読み進んでみたい。
このところ、韓国の近代史(特に日本との関係)については、私は主に評論や概説を読むことで、少し分かったつもりでいるのだが、文学作品によって、また認識が変わるものかどうか、注視してみたいと思う。
私にしては本当にめずらしく、小説を読みたい気分が続いている。たまたま書店で同じ作者の『血と骨』を見つけて、あ、ビートたけし主演で映画化されたとき、見たいと思って見逃した作品だ、と思った。手を伸ばそうとしたら、平積み台にあった本書の「名作『血と骨』の原点!」というオビが目にとまった。そうか、それなら、こっちから行こう、と思った次第。
物語は海浜の村に下級両班(ヤンバン)の一人娘として生まれた李春玉(イ・チュノギ)の静かな少女時代から始まる。舞台は済州島。もともと島の暮らしは豊かでなく、本土の韓国人から差別を受けてきたが、日本の支配下に入り、最下層の人々は一層搾取されるようになった。
一方で、何百年も続く封建道徳は、人々に非人間的な生活を強い続ける。18歳になった春玉は裕福な尹家に嫁ぐが、待っていたのは10歳の花婿だった。母親離れができない幼い夫。息子を溺愛する姑は春玉に辛く当たる。その姑も、かつては10歳以上若い夫のもとに嫁いできて一人息子を産んだ。今では夫はあちこちに若い妾を作って本妻のことを省みない。
一人の島の男とのはかない恋を経て、春玉が婚家を捨て、島を捨てて、単身、日本に渡る決意をしたところで物語は終わる。こうして、家郷の抑圧を逃れるため、抑圧の大元である日本に渡るしか途のなかった人々は「在日コリアン」となったのだ。彼らのサーガ――1世紀に渡ってなお継続する長大な物語――は、幕を開けたばかりである。(引き続き、ではないかもしれないが)著者の他の作品を読み進んでみたい。
このところ、韓国の近代史(特に日本との関係)については、私は主に評論や概説を読むことで、少し分かったつもりでいるのだが、文学作品によって、また認識が変わるものかどうか、注視してみたいと思う。