見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

読むに値せず/張家三代の興亡(古野直也)

2007-12-29 23:53:14 | 読んだもの(書籍)
○古野直也『張家三代の興亡:孝文・作霖・学良の”見果てぬ夢”』 芙蓉書房出版 1999.11

 しまった。しょーもない本を読み始めてしまった、と思ったが後の祭りであった。今年11月、浅田次郎の『中原の虹』を読んだあと、張作霖・学良父子について、もっと知りたくなった。すぐに見つかった参考文献は、澁谷由里『馬賊で見る「満州」』(講談社新書メチエ)と本書の2点だけだった。澁谷さんの著書は、やや散漫な印象があるが、学者らしい堅実さは守られている。

 一方、本書は、素人の講釈の域を出ない。著者は著者なりに勉強しているらしく、微に入り細に入って興味深い記述もあるが、情報の出典を明記しないので、検証しようがない。また「中国人とは○○な民族である」という類の、著者の信念の表明が随所に混在していることにも、かなりうんざりする。要するに、まともな学問的著作としては読むに堪えないということだ。

 本書は、タイトルだけ見ると、張作霖・学良に対して、敬意とは言わずとも、好意的な関心を持った著作のように感じられたが、内容は全く逆だった。何もこんな冷笑と誹謗のために本を書かなくてもいいのに、と思った。しかも、一見好意的に見せる本のつくりが「故意」であるとしたら、ずいぶんあざとい出版である。

 それでも、本書出版の時点で、「(戦後)学良と個人的に会談できた日本人は過去に二人しかいない」そうで、そのひとりが著者であるという。どういう情熱なんだろうなあ。もっともその会見の様子は至極簡単に片付けられており、読むべき内容はない。その前段の李登輝氏との会見のほうが著者にとっては感銘深かったらしく、ずっと具体的に記述されている。まあ、そんな本である。

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4 コメント

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今読み始めました。 (突いた)
2010-02-27 13:57:53
こんにちは。初めてお便り申し上げます。
この本、図書館で借りてきて今読み始めたところです。確かに著者はきめ付けが多い文章を書かれていますね。でも読み物としては文体が簡潔で理解しやすく、清末期から戦後にかけての分かりにくい中国史を概略、把握し易いと感じつつ読んでおります。読み物には好き嫌いがありますから、あなたのご感想も分からないでは有りません。しかし中国史を読み解けば解くほど古代を除いて立派な思想を持ち、無私の行動をした人は非常に少なく感じられ、著者の主張ももっともだな、と思ったりしています。学者先生じゃないから、こんな記述、読み物書きがあってもいいんじゃないですか?
逆らってごめんなさいです。
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こんにちは (jchz)
2010-03-01 23:33:36
コメントありがとうございます。共感、反論にかかわらず、読んだ本についてご意見をいただくのは嬉しいです。私の感想はちょっと厳しいでしょうかね。もう少し学問的精密さがないと、イライラする性分なもので。清末~日中戦争は、中国史の中でも私の大好きな時代で、研究者の書いた本にも面白い読み物がたくさんありますから、ぜひ他の本もお試しください。
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お返事ありがと。 (突いた)
2010-03-02 22:38:55
お返事有難うございました。
ちょっと時間が経ってからだったので、「きっと突いたのブログも見て下すったろうし、気持ちの悪いネトカマだから無視、無視って思っていらっしゃるのかなあ?」なんていらぬ邪推もしてしましました。でもお返事下さった。有難うございます。

本は完読しました。感想は…、当時の中国の庶民の辛苦を思い、現在の私たち、不況でずいぶん苦労してるような気持ちでいるけれども、その頃の中国庶民から見れば大幸福の王侯貴族的生活なのだろうなと、反省しきりなのです。
それにしても張学良はなんて能天気のおぼっちゃまなんだと、呆れてしまいました。この本の感想などは今度あたしのブログに書くつもりです。その時は読んでね!あなたみたいに格調高く巧く書けないけれども、一生懸命書くつもりです。
ところでjchzさんはよく旅行にも出かけられるし、美術にも造詣深くていらっしゃるし、リッチなインテリ女性みたい。それに比べたらあたしはプアなネトカマ。まったく釣りあいが取れないけれども、おそばにも寄れない様な存在かもしれないけれど、これを機会によかったらお友達になってください。

今は中公新書の「中国革命を駆け抜けたアウトローたち」福本勝清著を読んでいます。

美術関係で心待ちにしているのは今春の京都国立博物館に来る、長谷川等伯の松林図屏風。
日本に国宝は数々あれど、海外にも出せる5本の指に入る傑作と思います。等伯はあたしの郷里の大先輩なのよ!(単なる偶然) 
                ではでは。
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やっと書けました! (突いた)
2010-03-06 17:33:19
jchzさま
やっと自分のブログに、この本の感想が書けました。といってもお姉さまの様に、巧くも書けないし、あたしなんか色ものの雑文なんだけれども、ご退屈しのぎに読んでやってくんなまし。
ところでお姉さんはお仕事で全国全世界を飛び回ってるし、美術や出版物にも詳しいし、文体も格調高いし、美術関係のご本のエディターじゃないか?と推察しています。大新聞社にも対抗意識をお持ちじゃないかな?美しい物を愛する人はきっと美人に違いないかも。おっと勝手な想像で失礼しました。
あたしも歴史物のご本は好きなんだけれど、学術的な本はあんまりかなって感じ。でも最近は考古学や歴史学でも定量的なデータに基づいた考察、論文が増えてきた。あたしの評価しているのは、縄文時代の人口推移を考察された小山修三先生の研究や、民間の研究者で戦国時代の戦闘方法に新解釈を出された鈴木眞哉先生などのご本です。
いずれも古文書の主観的文章に寄らない、定量的データを駆使された、納得できる内容でした。
                じゃあね!
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