見もの・読みもの日記

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橋LOVE全開!/東京の橋100選+100(紅林章央)

2018-10-24 22:59:14 | 読んだもの(書籍)
〇紅林章央『東京の橋100選+100』 都政新報社 2018.10

 東京の橋から100橋を厳選し、これらの歴史や特色を紹介するとともに、さらに鉄道橋や歩道橋など特徴ある橋を+100橋リストアップしたもの。はじめ、職場の昼休みに近所の書店で見つけて、これは絶対「買い」だと判断した。私は、橋とか坂とか暗渠とか…街の風景のパーツが大好きなのである。そのときは時間がなかったので、週末、あらためて大きい書店に探しに行った。地図や街歩きガイドのコーナーで見つからず、検索したら「土木・橋梁」の棚にあると表示されたので笑ってしまった。しかし、実際に手に取ってみたら、出版社は「都政新報社」(初めて聞く)だし、カバー折込みの著者紹介に「東京都建設局橋梁構造専門課長」とあるのに驚いてしまった。

 とはいえ、そんなに硬い内容ではない。東京の橋100選は「隅田川」「都心部」「区部東部」「区部北部・南部」「多摩」「島しょ」に分類されており、「島しょ」は1例のみだが、他はそれぞれ20~30例が掲載されている。1橋1頁から2頁、全てカラーで、豊富な写真と地図とデータ、簡単な紹介文が添えられている。嬉しいのは、たとえば吾妻橋なら、江戸時代の吾妻橋を描いた浮世絵(歌川広重)に始まり、明治9年に架橋された西洋式木橋、明治20年に架橋されたトラス橋などの古写真に加え、関東大震災での被災状況(写真)、昭和6年に現在の橋が開通した直後(絵葉書)、そして現在の姿と、橋の歴史が一目で分かるようになっていることだ。隅田川の橋は、関東大震災後に架け替えられたものが多く、明治時代と現在では、名前は同じでも橋の姿がずいぶん違うことが分かった。

 橋の設計者に関する言及が多いのも本書の特徴で、それも有名な建築家ではなく(いや土木業界では有名なのかもしれないが)東京市の橋梁課長とか復興局の土木部長とかの技術官僚が、顔写真入りで紹介されている。さすが「土木学会出版文化賞」受賞の著者だけのことはある。そして、文中にも土木の専門用語が容赦なく出てくる。トラス橋、ラーメン構造くらいは私も知っていたが、「中路式バランストアーチ橋」とか「ブレストリブ・タイドアーチ橋」「ゲルバー鈑桁橋」「ポニータイプ」「ニューマチックケーソンによる施工」など、なんのこっちゃ、という用語が並ぶ。それでも気にならずに読めてしまうのは、著者の「橋が好きでたまらない」情熱のなせるわざである。

 私はもともと東京東部の生まれで、今も江東区に住んでいるので、永代橋・築地大橋・吾妻橋など隅田川に架かる橋は、どれも懐かしかった。御茶ノ水橋と聖橋は学生時代にお世話になった。現在の職場に近いのは一ツ橋や竹橋である。富岡八幡宮の裏手にある小さな八幡橋(旧・弾正橋)は、明治11年に製作された初の国産の鉄橋で、移設されて保存されている。最近、散歩の際に見つけて感心したものなので、取り上げられていて嬉しかった。

 本書には、歩道橋や鉄道橋なども、合わせて100橋、紹介されている。東大構内連絡橋(工学部と農学部をつなぐ)とか飛鳥山下跨線人道橋とか、中央線東京駅付近高架橋とか、なるほど~そこに注目するか!と笑ったり、感心したりした。多摩地区の橋には、知らないものが多かった。稲城市のくじら橋、見てみたいなあ。奥多摩湖に架かる峰谷橋や坪沢橋も渡ってみたい。ちなみに本書の表紙は、豊かな水をたたえた奥多摩湖に悠然と浮かぶ麦山浮橋で、「東京の橋」というタイトルとのギャップに心を掴まれる。島しょ部の橋として紹介されているのは、新島の十三社神社神橋で、全国的にも珍しい江戸時代の石造アーチ橋だそうだ。

 なじみの有無を別にして、写真だけで自分の好きな橋を考えてみようと思ったが、決められなかった。古い石造、あるいは石造アーチに見せかけたコンクリート製のがっちりした橋も好きだし、レトロなトラス橋も好きだし、現代的でシャープな斜張橋(しゃちょうきょう)も好きなのである。私は以前、平野暉雄氏の『橋を見に行こう』という写真集を手元に置いていたこともある。あれも好きな本だった。本書はかなりテイストが違うが、甲乙つけがたくいい本である。

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