見もの・読みもの日記

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工芸と勧業/ウィーン万国博覧会(たばこと塩の博物館)

2019-01-08 00:21:54 | 行ったもの(美術館・見仏)
たばこと塩の博物館 開館40周年記念特別展『産業の世紀の幕開け ウィーン万国博覧会』(2018年11月3日~2019年1月14日)

 開館40周年にふさわしく、力の入った面白い展覧会だった。明治6(1873)年に開催されたウィーン万国博覧会は、日本が初めて国家として公式参加した博覧会でもある。本展は日本にとってのウィーン万国博覧会をテーマに、博覧会への参加準備段階の資料、日本やオーストリアに所蔵されている当時の出品物、博覧会後の産業界の動きを示す資料等を展示する。

 はじめに開催国であるオーストラリアの公使から日本の外務卿・沢宣嘉に非公式の打診があった記録が残されている。「対話記録」というから口頭なのだろう。罫線紙に記された文字は達筆すぎて読めない。昨日から始まった大河ドラマ『いだてん』でも、日本のオリンピック参加の誘いは話し合いから始まっていた。しかし、こういう記録も外交史料館も残されていることに驚き、感心する。それから正式の要請書が届き、日本は参加を決意した。次は博覧会事務局の設置、続いて各地の物産を調査し、出品物を決める。なんだかすごくオリンピックに似ている。

 明治5年3月に文部省の主催で湯島聖堂で開催された博覧会は、いわば代表決定のための予選会である。目玉は名古屋城の金鯱。多くの浮世絵や古写真が残っており、現存する展示物のいくつかが特定できることは、木下直之先生の研究などで読んできた。

 本番のウィーン万国博覧会(1873年5月-10月)についても、かなり多くの古写真が残っている。会場展示の多くは『明治六年墺国博覧会出品写真』という写真帖(東大経済学部資料室所蔵)と、もうひとつは現地オーストリアの国立図書館や美術館・博物館に残っている古写真から複製したものだった。特に、初めて注目した日本庭園の写真が面白かった。植木などはあまり持ち込めなかったようで、申し訳程度の池の中島に妙に巨大な神社の社殿(流造)が建っている。日本のどこにもなさそうな風景で、どうにも胡散臭いのだが、明治の日本人が世界に見せたかった「日本庭園」とはこんなものなのだろう。隣にはさらに巨大なモスク(トルコのパビリオン)が見えるのも面白い。

 ウィーン万博と関係すると思われる「双頭鷲紋」(ハプスブルグ家の紋章)と「菊紋」の大きな刺繍額が東博に残っているのは初めて知った。それから、当時の展示品である蒔絵の香箱や短冊箱、染付の大皿や大花瓶、九谷・瀬戸・薩摩焼などのコーヒーカップとソーサー、七宝のカフスボタン、金属製の燈籠、麦藁細工の編み見本、押絵羽子板、会津の絵蝋燭等々、さまざまな工芸品・美術品が次々に現れる。こんなにたくさん、当時の品物がどこに?と思ったが、よく見たらほとんど全て「オーストリア応用美術現代美術博物館」とか「ウィーン技術博物館」とか「レオポルトシュタット地区博物館」とか、現地に伝わっているのだった。おそらく日本だけではなく、博覧会に出品された世界各国の物品が今でも保管されているのだろう。だとすれば、万国博覧会って、一過性のお祭りではなく、文化史的な意義のあるイベントだったのではないかと再認識した。

 ウィーン大学東アジア研究所日本学科が所蔵する木製人形(男性3体)は、布製の着物を着せたもの。このように作品によって所蔵者が異なるのは、現地でも流転の歴史があるのだろうか。日本に里帰りしている数少ない作品は、有田ポーセリンパーク所蔵の『染付御所車蒔絵大花瓶』とハウステンボス美術館所蔵の『染付花籠文大皿』。どちらも当時の写真帖にはっきりその姿が写っている。なお、解説に言及だけあった『頼光大江山入図大花瓶』1対の原物は、現在、東博の本館18室(近代の美術)で展示中。ヘンな作品だなあと思ったら、ウィーン万博出品作だったか。

 ウィーン万博から日本へ戻った展示品は、引き続き博覧会事務局で保管され、毎月一と六のつく日に公開され、明治10年(1877)の内国勧業博覧会を経て、博物館の建設につながっていく。このへんも非常に興味のある歴史。東大建築学科が所蔵する『山下門内博物館写真』を見ると、現在の東博と科博(と西洋美術館?)が全部一緒になったような展示室で面白い。

 ウィーン万博の準備に奔走したお雇い外国人ワグネルは、明治16年頃から、白い素地の上に多色の日本画を描く新たな陶器「旭焼」の製作を始める。聞いたことのある名前だが、旭焼の窯跡が江東区森下にあるとは知らなかった。ワグネル先生を偲んで、今度、行ってみよう。このほか、「たばこと塩の博物館」らしく、19世紀の装飾パイプや、内国勧業博覧会でメダルを獲得した煙草のパッケージ、煙草をめぐる商標登録の資料なども展示されている。

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