見もの・読みもの日記

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芦雪新出屏風と明治の工芸/国宝 雪松図と動物アート(三井記念美術館)

2019-01-07 00:03:29 | 行ったもの(美術館・見仏)
三井記念美術館 『国宝 雪松図と動物アート』(2018年12月13日~2019年1月31日)

 新春恒例の『国宝 雪松図屏風』の展示に合わせ、館蔵品のなかから動物をテーマに作品を展示。あまり期待せずに見に行ったら、思いのほか面白かった。冒頭は『古銅龍耳花入』(明時代)、次に香合が4つ並び、うち2つ『交趾金花鳥香合』と『交趾黄鹿香合』が明時代。後者は蓋の上に平たくうずくまるマスタードイエローの鹿がかわいい。『赤楽白蔵主香合』は楽左入作(江戸時代)で、膝を揃え、拱手して座る礼儀正しい姿。白蔵主だからキツネなのだが、あまり顔が長くなく、サルか熊に見える。このへんで、いやこの展覧会、面白いなあと思い始めた。

 『古赤絵龍文水指(壺)』(明代)も好きだ。古赤絵らしい、のどかでゆるい龍の絵。赤と緑(エメラルドグリーン)の色合いもよい。本展には明清の工芸品や絵画がたくさん出ていたが、いずれも三井家旧蔵のお宝である。『十二支文腰霰平丸釜』は、銅に精緻な十二支の図をめぐらせた、楽しい茶釜。大西浄林作とあり、千家十職の釜師・大西家の初代の作である。茶室を模した展示室3でも、国宝・志野茶碗『卯花墻』とともに、床の間に変わったものが掛けてあった。朱色の紐を結び、その下に朱色の紐を編み込んだ円形の輪(玉壁のような形)、さらに下に白い袋が下がっている。訶梨勒(かりろく)と言って、インド・東南アジア原産の薬用・魔除けの木の実を模したもので、やはり千家十職の袋師・土田友湖の作であるという。むかし「千家十職」の展覧会を見たのはここじゃなかったかな?と思って調べたら、ちょっと記憶違いで、日本橋三越本店ギャラリーだった。でも日本橋つながりだし、三井家つながり。

 展示室4は絵画。沈南蘋筆『花鳥動物画』11幅のうち6幅を見ることができた。あまり記憶のないもので、この美術館というか三井家って、こんな作品も持っていたのかと驚いた。ただし、あまり沈南蘋らしい(と私が思っている)ゴテゴテ感はなくて、全体に薄味。解説に「沈南蘋の描く猫は(他の動物も)どこか可愛らしさに欠ける」と下げられていて苦笑した。落款を読んでいたのだが、「写易慶之筆意」の易慶之は易元吉で「擬松雪翁筆意」の松雪は趙孟頫か~。分からなかった。

 応挙の『雪松図屏風』は、この展覧会の見どころだが、私はあまり好きではない。むしろ『蓬莱山・竹鶏図』3幅対みたいな小品のほうが好き。中央の蓬莱山は、小さな画面に思い切った遠近法で広大な風景を切り取り、左右は鶏を1羽ずつ。左の白っぽい鶏は、ちょっと南宋・蘿窓筆『竹鶏図』を思い出させる。驚いたのは蘆雪の『白象黒牛図屏風』(個人蔵)で、なぜこの絵がここに?と思ったが、解説によると本作と同趣向の作品は、すでにプライスコレクション、島根県立博物館の所蔵が知られており、これが3つ目の出現(新出・初公開)なのだという。まあ、お金があったら「自分も1つ」欲しくなるよなあ、この作品。しかし細部にどのくらい違いがあるのか、知りたいところだ。

 後半は、バラエティ豊かな明治工芸の粋が楽しめる。やきものは永楽和全の交趾写・安南写・呉州赤絵写など。高瀬好山の自在置物! 昆虫12点には目が釘付けになった。安藤緑山の『染象牙貝尽置物』もすごい。緑山は木彫しか知らなかったけど、このほうが真に迫っている。それから象彦の『宇治川先陣蒔絵料紙箱・硯箱』。硯箱の蓋には、池月(いけづき)に乗って波を掻き分け、先陣を行く佐々木高綱。ひとまわり大きい料紙箱の蓋には、漆黒の磨墨(するすみ)の手綱を引き留まる梶原景季。無駄のない描写、みなぎる緊張感に見惚れた。あと、明治時代の能装束『刺繍七賢人模様厚板唐織』も面白かったので書き留めておこう。びっしりと刺繍が施され、七賢人より目立つ唐人が多数。龍、虎、白象、なぜかハリネズミが目立つところにいる。

 最後に永楽和全作『陶製象香炉・金襴手宝珠形火屋』について、明治20年に本物の象か、あるいは象型の香炉を見て写したもの(どちらか不明)という解説が付いていた。最近読んだ木下直之先生の『動物園巡礼』の影響もあって、気になって調べていたら「見世物興行年表」という凄いサイトを見つけた。世の中には、奇特な方がいらっしゃるものである。この明治20年の項に「1月1日より、大阪千日前にて、大象の見世物。太夫本吉田卯之助」が興行されたとある。木下先生の著書によれば、明治22年には東京・浅草で興行し、西郷従道邸で明治天皇の前でも芸をした象である。明治20年といえば、晩年の和全は京都東山に住んでいたらしい。あくまで想像だが、大阪まで象の見世物を見に行ったのではないかしら。

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