見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

基層社会の成り立ち/中国共産党 世界最強の組織(西村晋)

2022-06-01 23:02:27 | 読んだもの(書籍)

〇西村晋『中国共産党 世界最強の組織:1億党員の入党・教育から活動まで』(星海社親書) 星海社 2022.4

 販売戦略として、かなり煽り気味のタイトルとオビが付いているが、内容は堅実である。日本のニュースや評論で中国共産党が話題になるときは、「党中央」と呼ばれる頂点の部分だけが意識されている。共産党の最上層部は、総書記+政治局常務委員(7人)+政治局委員(25人)+中央委員(約200人)。しかし、その背景には、2021年時点で9500万人以上の党員が存在する。党中央は、どうやって彼らの意見やアイディアを汲み上げ、党のビジョンや決定事項を共有し、政策を実行させているのか。本書は、日本の中国理解のエアポケットである「中国共産党の基層組織」について説明したものである。

 まず、基層党組織の原型である農村から見ていこう。中国の農村には村民委員会という自治組織がある。これは、人民公社が解体された後、管理体制の空白や治安の悪化などの問題を解決するため、農民が自発的に組織したのが始まりで(1980年、広西チワン族自治区)、その後に法制化された。村民委員会は基本的に自治組織だが、政府機関の業務を請け負ったり、行政の活動を補完する役割も担っている。さらに現在は、村民委員会のトップと村の党組織のトップを同一人物が兼ねる「一肩挑」が推奨・推進されている。この、草の根自治と上意下達の中央集権制度と政治的な党活動という、西洋由来の政治学では、くっつくはずのないものが、うまくいくならそれでいいじゃないか、ということで、くっついてしまうのが中国社会のおもしろさである。「このような、一見相矛盾する特徴の組合せは中国の社会や組織の至るところに見られます」と著者は述べている。

 農村の基層党組織が、村→郷・鎮であるのに対し、都市部は、社区→街道で組織されている。そして農村の村民委員会にあたるものとして、都市には居民委員会がある。村民委員会が地域の産業育成などにかかわるのに対して、居民委員会の任務は住民サービスが中心で、さほど重くない。しかし新型コロナ対策、特にロックダウンに際しては、居民委員会が最前線の実行部隊となった。

 中国では、地域のほかに大学や企業にも党組織が置かれている。そう聞くと、日本人は警戒心を抱きがちで、日本の政治家が「共産党関連企業と関係がある」ことはスキャンダルとみなされている。しかし「3名以上の党員がいれば党組織をつくる」ことが法で定められているので、それなりの規模の企業には必ず党組織があるし、党組織の責任者を企業のトップが担うことも珍しくない(リーダーとして有能だから)。党員が経営しているから政府系企業というわけではないし、「そもそも、中国共産党員が経営している会社に対しても苦境に陥らせるような新政策や規制強化を決定してくるのが中国の政府です」という説明に笑ってしまった。

 なお、中国に存在する外資系企業では、党員が多数在籍しているのに党組織がつくられない歴史が長かった。しかし、2000年代以降、外資系企業も「しぶしぶ」党組織の設置を受け入れるようになってきた。その中では、韓国系のサムスン電子(蘇州)の党組織が、韓国語の学習をはじめ、本社側の文化と中国側の文化を融合させる活動を行い、経営側からも評価されたことが注目される。

 社会の基層の党組織(党支部)で、党員は絶えず学習を繰り返しているという。党の発表した方針や政策を読み、大学のゼミのように討論や発表を行うのだ。まあ独裁権力の発表する方針を学んで何になるかと言われればそのとおりだが、社会人になっても、高齢になっても「学び続ける」習慣のある人々が大きな集団を形成していることは、中国の伝統であり、強みである。

 そして、基層組織を含めた「中国共産党」というのは、マルクス・エンゲルスの共産主義で解釈すべきものではなく、どうすれば広い国土で暮らす人々の大集団を統治できるか≒どうすれば豊かで安定して活力ある社会を効率的に(なるべく低コストで)実現できるか、長い歴史の中で、さまざまな権力者や官僚が練り上げてきた統治システムのバリエーションなのではないかと思う。著者と同様、私も今の中国の体制が最善だとは思わない。しかし、なかなか優れた面があることも確かだと思う。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 相撲生人形をついに見る/リ... | トップ | 2022年4-5月@東京:展覧会拾遺 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読んだもの(書籍)」カテゴリの最新記事