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旅の仲間とその終わり/両京十五日(馬伯庸)

2024-03-24 23:55:51 | 読んだもの(書籍)

〇馬伯庸;齊藤正高、泊功訳『両京十五日』(HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS) 早川書房 2023.2-3

 馬伯庸の名前は、中国ドラマ好きにはすっかりおなじみであるが、彼の長編歴史小説が日本語に翻訳されるのは初めてのことらしい。遅いよ!全く!しかし待たされただけのことはあった。これまでドラマ化されたどの作品と比べても遜色なく、実に面白かった。

 物語は、大明洪煕元年(1425)5月18日に始まる。ほぼ1年前、洪煕帝(仁宗)が即位し、息子の朱瞻基(のちの宣徳帝)が太子に定められた。洪煕帝は国都を南京に戻そうと考えており、その露払いを命じられた朱瞻基の宝船は、まもなく南京に到着しようとしていた。

 太子歓迎の警備を指揮する呉不平は、息子の呉定縁を埠頭の向かいの扇骨台に派遣した。ところが埠頭に現れた巨大な宝船は、呉定縁の目の前で大爆発を起こす。爆発の直前に船上であやしい動きをしていた男を呉定縁は助け上げ、捕縛して錦衣衛に連行した。たまたま出会った于謙という若い小行人(下級の官員)は、呉定縁の捕縛した容疑者が、まさに太子・朱瞻基であることを認めて驚愕する。

 ようやく南京の内城に落ち着いた朱瞻基。しかし彼の命を狙う勢力は、次々に魔の手を伸ばしてきた。さらに母である張皇后から、皇帝不予の急を知らせる密詔が届く。朱瞻基は内城を脱出し、呉定縁と于謙、そして女医の蘇荊渓とともに京城(北京)を目指すことにする。もし何らかの陰謀が絡んでいるとすれば、皇位簒奪者は、天徳の日にあたる6月3日に即位を挙行するだろう。残された日数は15日。

 【ややネタバレ】四人は運河を使って、南京→瓜洲(楊州)→淮安→兗州と進む。途中、白蓮教の一味に呉定縁を略奪された朱瞻基は、「朋友」呉定縁を救出するため、済南に寄り道する。一方、呉定縁は白蓮教の掌教である仏母・唐賽児に会い、自分の真の父親が、靖難の変で建文帝に従った鉄鉉であることを知る。朱瞻基と再会した呉定縁だが、父親の仇が、朱瞻基の祖父・永楽帝であることは黙していた。天寿を全うした唐賽児は掌教の座を呉定縁に託し、以後、護法と呼ばれる白蓮教の重鎮、昨葉何(女性)と梁興甫は呉定縁を助ける。

 連絡のついた張泉(張皇后の弟、朱瞻基の叔父)の助言もあって、呉定縁は北京に先発し、水害の真っただ中、洪煕帝の葬儀が行われようとしている紫禁城に潜入する。葬儀には「皇位継承者」だけに許された役割があり、それを巡って、皇位簒奪を企てる漢王・朱高煦の一派と張皇后の間では睨み合いが続いていた。そこに乱入した呉定縁は、肉弾戦を戦い抜いて、朱瞻基の帰還を迎える。漢王一族は捕えられ、皇位は朱瞻基に帰した。

 【本格的ネタバレ】朱瞻基は、苦労を共にした朋友・呉定縁に報いようとするが、皇家に実の父親を殺された呉定縁はそれを受けることができない。そして旅の仲間のひとりであった蘇荊渓は、真の目的のための行動に出る。彼女の親友だった女性は永楽帝の後宮に入れられ、殉死を命じられたのだった。蘇荊渓は、親友の死にかかわった者全てに復讐するつもりだった。張泉や朱瞻基を招き入れた永楽帝の陵墓に火が放たれ、間一髪、朱瞻基は于謙の機転で救出されたが、呉定縁は自ら望んで、蘇荊渓とともに炎の中に姿を消した。

 だいぶ無理をしてまとめてみたが、主人公たちは次々に絶体絶命のピンチに陥り、そこを智謀や幸運や助け合いで切り抜けて進んでいく(いちばん笑ったのは洪煕帝の葬儀の場で呉定縁が身を守った奇策。蘇荊渓の助言による)。見事な疾走感でぐいぐい読ませる。旅の風景として語られる、運河に関する土木技術史的・社会経済史的な解説も面白かった。宮廷育ちの朱瞻基は、旅の様々な局面で、宮廷の政策が必ずしも民衆の生活に役立っていなかったり、宮廷が恐れる宗教が民衆の生活に欠かせないものであることを学ぶ。朱瞻基、旅の終わりにはずいぶん賢くなっていた。

 権力争いに骨まで魅入られた皇族たちがいるかと思えば、上官への忠誠が全ての武官もいるし、建築や土木にしか興味のない技術官僚も登場する。みんな面白い。私は登場人物に中国ドラマで覚えた俳優さんを当てて楽しんでいたのだが、呉定縁は陳暁、于謙は張昊唯でどうだろう。朱瞻基、蘇荊渓は、物語の最初と最後でだいぶ印象が変わったので再考中。まあ遠からずドラマ化されるのではないかと思って楽しみにしている。


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