見もの・読みもの日記

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ドラマ『悪夢ちゃん』最終回

2012-12-23 10:53:55 | 見たもの(Webサイト・TV)
日本テレビ ドラマ『悪夢ちゃん』(2012年10月13日~12月22日、全11回)

 この秋、めずらしく民放ドラマをずっと見続けていた。私の好きな大森寿美男さんが脚本を書いており、「やっぱり大森さんは面白い」というネットの評判を見たので、Gyao!ストアの有料配信で、見逃した数話を一気に見た。確かに面白い。

 明るく生徒思いの小学校教師を演じる武戸井彩未(むといあやみ、北川景子)は、実は決して他人に本心を明かさない変人だった。ある日、5年2組に古藤結衣子(木村真那月)という生徒が転入してくる。結衣子は、他人の無意識につながり、予知夢を見てしまう「悪夢ちゃん」だった。結衣子の祖父・古藤博士(小日向文世)は大学で夢の研究をしており、人の見た夢の「夢札」を映像化できる「バク」という機械を持っている。博士の助手、志岐貴(GACKT)は、敵か味方か分からない謎の人物…というキテレツな設定。

 はじめの数話は、5年2組の生徒たちの無意識が、ひとりずつ結衣子に悪夢を見せて行く。その悪夢がまた、グロいわ、怖いわ、訳わからないわ、なのだが、軽快で毒の効いた(でも品のある)セリフがポンポン飛び交い、気持ちのいい緊張感がある。なりふり構わず疾走するような展開、神託のような解釈、結末のカタルシスに惚れ惚れし、次の回も見てしまう。しかし、回が進むに連れ、彩未が無意識に押し込めていた記憶が、じわじわと解き放たれ、より大きな謎が浮かび上がってくる。しかも、二転三転する「謎」の真相…。

 私は、何話目だったか忘れたが、志岐貴がつぶやく「子どもの夢はなぜ怖いのか」の「解」が好きだった。彼らは悪夢を見ることで、恐怖や悲しみに満ちた現実の世界に適応する準備ををしなければならない、みたいなことを言っていたと思う。

 そして、最終回は、まさにその言葉どおりだった。現実に絶望して、無意識の中に引きこもり、眠り続ける結衣子の夢に彩未先生は決然と下りていき、「未来は変えられる。だから、どんな悪夢を見ても大丈夫」と語りかける。「未来はその人のもの」であるけれど、同時に夢(無意識)の中では、死んだ母親、会ったことのない父親、あるいは子どもの頃の親友などが、姿を変えて、その人を見守っている、ということも示される。

 単に「頑張れば大丈夫」ではなくて、「あなたは守られているから大丈夫」というメッセージが暖かいなあ、と思った。特に、子どもが現実に不適応を起こす最大要因になりやすい親や教師が、時には間違った方向に暴走することがあっても、心の奥底では、子どもを愛し、守ろうとする存在として描かれていたことも暖かいドラマだった。ちょっとケストナーの『飛ぶ教室』を思い出してしまった。

 ネタバレ(放映済み)だが、古藤博士の娘の菜実子(=結衣子の母親)は、彩未の幼い頃の親友だった。予知夢を見る能力のあった彩未は、将来自分が小学校の先生になり、菜実子の子どもの担任になる、と明かす。ただし、そのとき菜実子はもうこの世にいない、とも。やがて菜実子は自分の役割を理解していたかのように、父親の分からない娘(結衣子)を友人のために残して早世する。この展開に、私は今年の大河ドラマを思い出してしまったことを、こっそり付け加えておこう。親友の子どもに危機を救われるって、清盛と義朝・頼朝のアレと似ている。親(世代)は子ども(世代)が現実に生きていくための手引きをしなくちゃいけないが、同時に親(世代)は自分の危機を、子ども(世代)に救われるのである。いや、私が脚本の大森さんのファンになったのが、以前の大河ドラマ『風林火山』なので、つい。

 ラストシーン。あの露天の夢違観音(法隆寺にあるもの模刻)は、関西のお寺ではなかったかな…と思ったが、画像検索すると世田谷観音というお寺が出てきた(今度行ってみよう)。「夢の中で、ここでお父さんに会った」という結衣子と彩未の背後に近づく男性。振り向き、驚く二人の表情。「父親」の足元からスパンしたカメラが、顔の一部をチラッと捉えたところで暗転、ジ・エンドという粋な演出。ネットには「誰なの?」という声もあったが、ドラマをちゃんと見ていれば、志岐貴の生還以外、ありえないでしょう。ただ、志岐が結衣子の実の父親だったのか、これから彩未先生と幸せな家庭を築いていくことの暗喩なのか、その両方なのか、そこは視聴者の解釈にまかせる、という計らいだと思った。こういうドラマのつくり、好きだな~。

 恩田陸の『夢違』という小説が「原案」だというが、ドラマは、この設定の一部だけ借りて、全く別作品をつくりあげたものらしい。あの震災以来、上っ調子に「絆」々という連呼がうるさい、と思っていたが、本気で人と人の「絆」に向き合ったドラマだと思った。とても素敵なクリスマス・プレゼントをありがとう。

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