見もの・読みもの日記

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連続シンポジウム『情報の海~漕ぎ出す船~』第1回

2008-09-21 22:30:09 | 行ったもの2(講演・公演)
○東大情報学環・読売新聞共催 連続シンポジウム『情報の海~漕ぎ出す船~』
 第1回 情報の海~マストからの眺め 

http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/news/2008/09/post_33.html

 この秋、9月から12月にかけて、3回連続で予定されているシンポジウム。第1回の基調講演は、立花隆氏である。私は同氏の『天皇と東大』(文藝春秋社、2005)が気に入らなくて、このブログでは、たびたび罵っているが、同氏の仕事を全て否定するわけではない。『宇宙からの帰還』(中央公論社、1983)とか『サル学の現在』(平凡社、1991)とか、サイエンス・ジャーナリズム系の著作には、いつも知的興奮を掻き立てられてきた。

 同氏はまず、「情報大爆発」といわれる現象の正体を明かす。確かに、近年、世の中に流通する情報量は爆発的に増えた。しかし、その大部分は「システム消費系」(コンピュータどうしの情報伝送)であって「人間消費系」の情報ではない。また「人間消費系」の中でも、増えているのは複製情報であって、原・発信情報は頭打ちである。また、人間の使える時間は有限であるから、情報消費量も限界に来ている。その結果、情報消費は「巨大なメディアの作るヒット商品」と「熱心な少数者が支えるニッチ商品」に二極化する傾向にある。たとえば、書籍は数万部売れればベストセラーといわれるが、実はテレビの視聴率1%=推定100万人に遠く及ばない。しかし、小数でも必ずお金を払う読者がいるために、活字メディアは意外としぶとく生き残っている。

 ここで、高価な情報商品の一例として、ブルームバーグの情報端末(年間200万円くらい)を実演紹介。これは、世界中の為替や証券取引に関する情報、関連ニュース等を網羅的に収集し、簡単な操作で何通りにも分析できる機能を持つ。クローズドの高速回線で、世界中のディーラーと情報交換し、瞬時に取引できるという。いや、びっくりした。私は経済に無知なので、その真価はよく分からなかったが、「無償」や「良心価格」を基本とする学術的なデータベースとは、全然、思想が違うことが感じられた。「売れる(稼げる)情報サービス」とはこういうものか。全く知らなかった世界が垣間見られて、貴重な体験だった。

 では、こうしたモンスター情報マシンを持たない一般の人々が、情報の海を航海していくには何が必要か。それは「自分は何が知りたいのか」という目的地設定であり、その基礎になるのは「自分に欠落しているものは何か」という認識である。人間は、情報を獲得することによって日々新しい自分になることができる。その場合、万人が認める「ユニバーサルな知」はもちろん必要だが、ロングテール(ニッチ商品)的な、個性ある情報こそ、人間の付加価値として重要なのである。――後半は、時間が押して駆け足になってしまったが、趣旨はよく分かった。投影されていたレジュメ、いいことがたくさん書いてあったので配ってほしかったのになあ~。ライターにとっては商売の種だから駄目なのかしら。

 第2部は、共同討議。しかし、パネリストが多すぎて(個々の報告に時間がかかり過ぎて)、意見の応酬がほとんど聞けなかったのは、企画の不備だと思う。せっかく刺激的な面子が揃っていたのに、かえすがえすも残念。

 個人的に興味深かったのは、まず、ヤフー・シニアプロデューサーの川邊健太郎氏が語った「Yahoo!ニュース」の仕組み。70~80社と契約し、毎日3,000本くらいが更新されているそうだ。この更新自体は機械的に行われているが、カテゴリーに分類する仕事と、トップページに掲載する8本(2~3時間で更新)を決める仕事は、20人くらいのスタッフがヒューマンな判断でおこなっているという。それから、「いかに長くYahoo!に滞在してもらうか」を考えた場合、ネットユーザーの時間を奪い合うライバルは、他社のニュースサイトよりも、まったり系の個人ブログであり、「きわめて非対称な戦いをしている」という話も面白いと思った。

 もうひとつは、読売新聞科学部で仕事をしてきた柴田文隆氏の体験談。2002年4月6日に飛び込んできた「クローン人間妊娠に成功」という眉唾のニュースネタに対して、限られた時間の中で、どのように事実関係を調査し、最終的にどう判断したかを語ってくれた。このとき、読売新聞は「信憑性がない」と判断して、10数センチ四方の小さな扱いにしたのだが、一面扱いにした別の全国紙もあったという。うーん。私は、このところ新聞というメディアを馬鹿にしてきたのだけど、こういう虚偽情報をブロックアウトするために人知れず払われている努力って、もっと評価していいなあ、とあらためて思い直した。何しても「安心・安全」って、タダでは手に入らないものなのね。

 第2回「図書館」、第3回「新聞」にも期待。

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