見もの・読みもの日記

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洒落者たちの19世紀/グランヴィル(練馬区立美術館)

2011-04-10 22:05:26 | 行ったもの(美術館・見仏)
練馬区立美術館 鹿島茂コレクション1『グランヴィル-19世紀フランス幻想版画展』(2011年2月23日~4月10日)

 震災の影響と年度末のゴタゴタに取り紛れて、行き逃すところだったが、臨時休館分を補って、会期を1週間延長してくれたおかげで、行くことができた。ありがとう!

 以前にも書いたが、私が西洋の挿絵本の美しさを知ったのは、1980年代の荒俣宏氏の仕事による。同氏の『絵のある本の歴史-Books beautiful』(平凡社, 1987)は、今も私の愛蔵本である。J.J.グランヴィル(1803-1847)の名前も、荒俣さんの著作で覚えた。荒俣さんは、主に幻想画家としての仕事を紹介していてけれど、グランヴィルに風刺画家の一面があることを知ったのは、2008年、伊丹市立美術館の所蔵品展『花開く風刺画-フランス』だったと思う。宮武外骨展を見に行ったら、併設でやっていたんだけどね。『現代版変身譚』の1枚「オレはオレのために生きているんだ」の熊さんを見て、あ!これ知ってる!と記憶がよみがえった。ムーミンに出てくるじゃこうねずみみたいな、拗ね者の顔をしている。

 グランヴィルは、動物の擬人化を得意としたが、その選択がいかにも面妖である。多少なり愛着や共感の湧くイヌ、ネコ、哺乳類に比べて、鳥、魚、昆虫、両生類などの登場率があまりにも高い。このひと、基本的に人間嫌いだったのかなあ、と思う。

 解説に「所蔵者による手彩色」と注記された作品が多かったが、当時の挿絵本は、モノクロの石版や木版で刊行されたあと、購入者が自分で(というか、彩色の請負業者に依頼して)手彩色を施したものらしい。だから、同じ図版でも、さまざまな彩色バージョンがある。これはコレクターになったら、止められないだろうな。ピンクや青、緑など、蛍光色と見まごうくらい鮮やかな版もある。

 最近ようやく西洋各国史が少し分かるようになり、登場人物たちの服装を見て、あ、この間読んだ『レ・ミゼラブル』の同時代だ、と思った。『椿姫』『ラ・ボエーム』の時代でもある。19世紀のフランスというのが、実に多事多端で混乱に満ちた、しかし偉大な世紀だったということが、最近、少し分かるようになってきた。そうした歴史背景を除いては、グランヴィルの風刺画の意味も魅力も半減するのではないか。鹿島茂氏は展示図録の中で、1800年の前後に生まれ、19世紀とともに歳を重ねた「世紀児」たち(こういう表現があるのか)バルザック、ユゴー、デュマたちの世代的特質に触れている。

 今回、へえ、こんな作品もあるのか、と認識を新たにしたのは『ガリヴァー旅行記』(1838年、仏語新訳版)。『レ・ゼトワール(星々)』や『フルール・アニメ(生命を与えられた花々)』の抒情的幻想性とはずいぶん異なる、大胆な構想が新鮮だった。

 練馬区立美術館は、今後も鹿島茂氏の蒐集作品群を「連続的に展覧する」予定だという。おお!嬉しい。えっと…『娼婦の館』シリーズの資料コレクション展も、いつかやってくれるのかな? 期待しておこう。

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