見もの・読みもの日記

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現代によみがえる武侠劇/中華ドラマ『飛狐外伝』(2022年版)

2022-10-09 23:59:47 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『飛狐外伝』全40集(騰訊視頻、2022年)

 この作品、私は原作もドラマも知らなかったので、見るべきか迷っていた。そうしたら、2000年代前半に数々の名作武侠ドラマを生み出した張紀中プロデューサーが関わっているという情報が流れてきたので、見ることに決めた。いやー面白かった!

 清の乾隆年間、山東省(原作では)の小集落・商家堡の飛馬鏢局に身を寄せる中年男と少年がいた。少年の名は胡斐。父の胡一刀は胡家刀法の使い手で、あるとき、流れ者の侠客・苗人鳳に勝負を挑まれた。激闘は数日間に及び、二人は義兄弟の契りを結んだが、最後の日、互いに武器を交換して戦った際、胡一刀は自分の刀に塗ってあった毒に倒れ、夫を救おうとした胡夫人も絶命して、赤子の胡斐が従僕の平四に残された。平四は、胡家刀法の家伝書の一部をやくざ者の閻基に奪われたものの、商家堡に身を潜め、胡斐の成長を待っていた。

 その閻基が商家堡に現れる。平四は家伝書を取り返そうとして、逆に閻基に殺されてしまう。助けようとした胡斐も追いつめられ、意識を失って川を流されていたところを苗人鳳に助けられる。

 商家堡の商老太は、かつて夫を苗人鳳に殺されたことを深く恨んでいた。都の貴公子・福康安(乾隆帝の落胤)が大勢の侍衛を連れて下ってきたのを幸い、彼らに苗人鳳を殺してほしいと頼む。福康安が、飛馬鏢局の一人娘・馬春花に一目惚れし、逢瀬を楽しむ間、侍衛たちは苗人鳳に挑んだが歯が立たない。業を煮やした商老太は、彼らをまとめて鉄板の檻に閉じ込め、焼き殺そうとした。それを救ったのは胡斐少年だった。

 5、6年後、青年となった胡斐は、袁紫衣という武功高手の少女と出会う。二人は意気投合し、仏山鎮を牛耳る鳳天南から、善良な鍾阿四を救おうとするが、罠にはまって九死に一生を得る。袁紫衣は人事不省となった胡斐を韋陀門に運び、治療を受けさせる。次第に袁紫衣に惹かれていく胡斐だが、なぜか袁紫衣は姿を消す。旅を続ける胡斐は、行きずりの太極門の内紛に巻き込まれるが、紅花会の趙半山の知遇を得、苗人鳳宛ての封書を託された太極門の孫剛峯に同行する。

 苗人鳳は、南蘭という女性と夫婦になり、女児の若蘭が生まれたが、胡一刀夫妻の死の真相を求めて家を空ける日々が続いていた。あるとき、苗人鳳の弟分を名乗る田帰農から「苗人鳳は死んだ」と聞かされた南蘭は衝撃を受け、優しい態度を見せる田帰農に惹かれていく。やがて苗人鳳は帰ってきたが、南蘭は田帰農を選ぶ。以後、苗人鳳は幼い若蘭を男手で養っていた。そこに紅花会の封書を持って訪ねてきたのが胡斐たち。しかし封書はすり替えられており、封を切ると毒粉が噴出し、苗人鳳は失明してしまった。

 胡斐は、毒手薬王と呼ばれる名医を探しに行き、その弟子である程霊素という少女を連れ帰る。程霊素の尽力で、苗人鳳の眼の治療には見通しがついたが、苗人鳳こそ両親の仇と信じる胡斐は苦悩する。程霊素から、両親の仇は別にいるはずと聞き、二人は都に向かう。都では掌門人大会が開催されることになっており、武功高手たちが集まっていた。その実、宮廷の役人たちは、賄賂と賭け(八百長)で一儲けすることしか考えておらず、福康安と乾隆帝は、宮廷の脅威である江湖の実力者たちを一網打尽にする計画だった。

 胡斐は鳳天南を見つけ、ついに鍾阿四一家の仇を討つ。だが、めぐりあった袁紫衣は、胡斐を避け続ける。袁紫衣は鳳天南の私生児だった。袁紫衣は、実父の遺体を埋葬したことを福康安にとがめられ、師父に命じられるまま、剃髪する。

 田帰農は、どうしても掌門人大会で優勝したいと考え、胡一刀夫妻の墓所に埋められていた宝刀を盗掘する。さらに若蘭を人質として苗人鳳を拘束することに成功し、これまでの鬱屈と嫉妬をぶちまけ、毒入りの封書にすり替えたのも、胡一刀の刀に毒を塗ったのも自分の指図であることを明かす。盗み聞きで真実を知った南蘭は、田帰農が都へ旅立った後、危険を冒して苗人鳳を助け出す。

 掌門人大会では、華拳門の掌門を名乗る胡斐が連戦連勝。そこに尼僧姿となった袁紫衣が登場する。袁紫衣は勝負のフリをしつつ、会場を囲んだ官軍の鉄砲隊を胡斐に見せ、福康安のたくらみを伝える。遅れて乗り込んできた田帰農は、毒を塗った刀で胡斐を倒し、勝者の玉龍杯を手に入れたかに見えた。しかしそこに登場するのが苗人鳳。田帰農を討ち果たし、胡斐たちを逃がして「侠」を全うする。もう少しドラマは続くのだが、ここまでにしておこう。

 やはり一番心を掴まれたのは、田帰農を討つ苗人鳳のセリフ「所守者道義、所行者忠義、所惜者名節、這才是江湖」である(三句目までの出典は欧陽修)。最後がカメラ目線なのはサービス(笑)かと思ったが、後ろにいる胡斐に聞かせているんだな。このあと、福康安は馬春花が設けた双子の男児を引き取ろうとするが、子供たちは胡斐のもとに残りたいという。福康安は、せめて今後の守り札として皇帝の書付を贈ろうとするが、胡斐は、苗人鳳の言葉を静かに繰り返し、紙切れなど必要ないと断る。このドラマは「侠」の精神が生きる江湖と、そうでない宮廷・官界が徹底して対比的に描かれているように思った。その境界を越えて、江湖の女性を愛してしまった福康安には同情を感じた。

 本作は、原作をかなり現代風に改変しているのではないかと思う。女性キャラは、それぞれ自我があって魅力的で、自然な感情移入ができた。主人公の胡斐(秦俊傑)は鈍感のお人よしだが、正義感はブレないので、イライラしなかった。見る前は知らない俳優さんが多かったのだが、みんな好きになった。胡斐の少年時代を演じた張子豪くん、またどこかで会いたい。含蓄に富むセリフ、言葉でなくわずかな表情で全てを表現するシーンが多いのもよかったし、アクションも現実味があってスリリングだった。あと音楽もよかったな~。

 苗人鳳を演じた林雨申さん、最終回配信後のSNSで、上述のセリフに触れたあと「苗人鳳、為承諾為情誼不顧一切、為正義為侠義在所不惜、流言紛擾止於耳、是非黒白立於心、這才是真正的強者、是我心中真正的侠」とコメントしていたのに感激した。井波律子先生が『中国侠客列伝』で述べていた「侠」の精神とも重なるように思う。


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