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見もの・読みもの日記

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近代を映す鏡/重要文化財の秘密(東京国立近代美術館)

2023-04-06 23:06:17 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立近代美術館 70周年記念展『重要文化財の秘密』(2023年3月17日~5月14日)

 明治以降の絵画・彫刻・工芸の重要文化財のみによる展覧会。今でこそ「傑作」と称される作品も、発表当初は、新しい表現を打ち立てたゆえに「問題作」と見做されたケースもある。うん、ここ重要。本展は「問題作」がどのような評価の変遷を経て重要文化財に指定されるに至ったのかという美術史の秘密に迫る企画である。この開催趣旨を短くまとめた「『問題作』が『傑作』になるまで」は、かなりいいコピーだと思う。

 展示件数は51件(展示替えあり)。図録冒頭に収録された「重要文化財の『指定』の『秘密』」によれば、明治以降の絵画・彫刻・工芸の重要文化財は68件あるらしい。そして本展の図録には、出品が叶わなかった17件の図版も掲載されている。

 会場の冒頭には、狩野芳崖の『不動明王図』。アニメキャラみたいであまり好きな作品ではないのだが、やっぱり芳崖から始まるんだな、と思って眺めた。あとで年表を見て、明治以降の美術が最初に指定されたのは1955年で、芳崖の『不動明王図』と『悲母観音』、そして橋本雅邦の2点だったことを知る。続いて横山大観の『生々流転』が開いていたが、私は大観があまり好きでないので、チラ見で通り過ぎる。近代美術には、けっこう素直に好き嫌いが出てしまう。

 菱田春草の『王昭君』は好き。今村紫紅の『熱国之巻・朝之巻』は大好きなので食い入るように眺める。平福百穂の『豫譲』も、緊張感と躍動感のみなぎる、私好みの作品だが、発表当時は「登場人物の顔がマンガっぽい」と批判されたそうだ。会場のパネルでは、平易なことばで紹介されていたのだが、あとで図録を読んだら、石井柏亭が「豫譲と襄子及馭者との相貌の上に漫画的な滑稽味の見えるのはどうであらうか」と格調高く述べていた。

 鏑木清方の『築地明石町』『新富町』『浜町河岸』は、1年ぶりの眼福。安田靫彦の『黄瀬川陣』を久しぶりに見て、やっぱり、この頼朝は大泉洋に似ているし、この義経は菅田将暉に似ているなあ、と大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を思い出した。頼朝は背後に赤糸威の鎧を置き、義経は紫裾濃(むらさきすそご)の鎧を付けている。当初は左隻の『義経参着』だけで独立した作品となっており、紀元2600年の時局に即した作品として解釈されたという。図録には、作者が「頼朝の顔は、神護寺蔵の伝頼朝像の顔があまりに優れているので、最初からこれに武装させてみたかった」と語ったことが紹介されており、大変おもしろい。

 『鮭』も『騎龍観音』も大好きなので、東京に住んでいるおかげで、だいたい1年に1回は見ることができているのはありがたい。しかし山本芳翠は『裸婦』なのか。『浦島図』じゃダメなのかな。全体に真面目な絵が多くて「あやしい絵」はあまり評価されてこなかったように思う。あと、大阪画壇の作品があまりないように思った。

 彫刻作品についても、西洋近代の造形思考を学んだ作品が早くから評価されているのに対して(ロダン至上主義ともいう)、江戸の仏師の伝統を受け継ぐ高村光雲の『老猿』が指定されたのは1999年というのに少し驚く。そもそも人間の風格を感じる猿の姿というのが、全く「近代精神」にそぐわないものな。なぜこの作家、作品が入っているのか、なぜあの作家、作品は入っていないのか、いろいろ考えさせられた。21世紀に入って、ようやく我々は「近代」を相対化して見られるようになったのかもしれない。

 常設の『所蔵作品展:MOMATコレクション』(2023年3月17日~5月14日)もあわせて鑑賞。珍しく太田聴雨の『星をみる女性』が出ていて嬉しかった。平福百穂の『荒磯』は、解説によれば、彼の『豫譲』より人気が高いという。なるほど、重文指定の根拠は人気ではないのだな。例年、この時期の同館は「美術館の春まつり」を標榜しているが、今年は特に「春の屏風まつり」と称したセクションが華やかだった。あと、『熱国之巻』の今村紫紅が、東南アジア~インド内陸~中国江南地方を旅したときの軽妙なスケッチが多数展示されていて楽しかった。これ、ポストカードになっていたら、買って帰って身近に飾りたい。

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