見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

大都会・北京の片隅で/中華ドラマ『歓迎光臨』

2022-06-21 22:08:09 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『歓迎光臨』全37集(東陽正午陽光影視、三次元影業、2022年)

 平凡な人々の、小さな喜怒哀楽を大事に掬い上げたようなドラマ。毎回、大笑いしながら、最後には登場人物全てが愛おしくなっている。さすが安定の正午陽光作品である。

 北京の五つ星ホテルに勤めるドアボーイ(門童)の三人組、張光正、王牛郎、陳精典は、宿舎を出て部屋を借り、共同生活を始めることにした。主人公の張光正は東北出身、就職6年目。人柄の良さだけが取り柄で、特に夢も野望もない。引っ越し先では、サンルームを自分の専有スペースとすることができて大満足。ところが、窓の下の公園では、毎朝、近所のおばさんたちが集まり、大音響で「広場舞」を楽しんでいることが分かり、不運を呪う。しかし、幸運もやってきた。あるとき、ホテルの玄関で、正義感の強い美女と出会って一目惚れし、人生の目標を見つける。しかも、その「女神」は、広場舞のおばさん集団の一員、柳阿姨の娘の鄭有恩で、仕事は航空会社のCAであることが分かる。

 有恩と知り合うため、広場舞のメンバーに入り込んだ張光正は、性格のよさが幸いして、すっかりおばさんたちに気に入られてしまう。彼女たちの援助もあって、少しずつ有恩に近づく張光正。はじめは恐ろしい塩対応だった有恩も次第に張光正に心を開いていく。

 しかし気持ちが通じ合うと同時に、張光正は現実の厳しさに直面する。ドアボーイの収入では、有恩を養い、幸せにすることができない。経済的に自立した有恩に、気にする必要はないと言われれば言われるほど、悩みは深まる。ホテル内の昇格試験を受け、礼賓員(コンシェルジュ)さらには経理(マネージャー)を目指そうとするが、困難の大きさにくじけそうになる。

 張光正が「師父」と呼ぶ先輩の王牛郎は、すでに30代半ば。北京生まれで、幼いときに両親を失くし、親戚に育てられた。四六時中、人の行き交う賑やかな雰囲気が好きで、ホテルのドアボーイになった。焼烤店のウェイトレスである可憐な少女・九斤にずっと心を寄せている。クリスマスの晩、ホテルのダンスパーティに九斤を招待し、幸せなひとときを過ごすが、九斤は、郷里に戻って親の決めた相手と結婚することになったと告げる。九斤と別れたあと、有恩の同僚で離婚したばかりの佟娜娜と意気投合するが、自分に自信のない王牛郎は、佟娜娜の好意を受け止めることができない。

 最年少の陳精典は、大学卒業後、ドアボーイのアルバイトをしながら大学院進学を目指していた。同僚の豆子とは周囲も公認の仲。豆子は精典を受験勉強に専念させようと献身的にサポートするが、うまくいかない。精典は、成績の伸びない学業を放棄し、ネットの株取引で簡単にお金を稼ぐ方法を覚え、仕事もおろそかになる。一方、真面目で向上心のある豆子は、次第に職場で認められ、上海のホテルからヘッドハンティングの誘いも来るようになり、二人の間に隙間風が入り込む。

 「今日の中国」に生きる男子は、仕事も恋愛も大変だなあ、と思った。それでもドアボーイ三人組は、勇気を奮い起こして困難に立ち向かい、それぞれの幸せをつかむ。まとめてしまうとありきたりだが、そこは劇中でホテルマンの極意とされる「細節是魔鬼(The devil is in the details)」で、このドラマも細部が見どころなのだ。

 悩む若者たちを導く、人生の先輩たちは、みんな魅力的である。おしゃれでお茶目な柳阿姨は、有恩の父親と離婚し、夫の死後、娘を引き取ったが、実の娘にどう接してよいか分からず悩んでいる。広場舞のリーダー格・孫大姐は、夫の楊大爺と二人暮らし。楊大爺は少し痴呆も始まっているが、妻を愛する気持ちは失っていない。

 ホテルの総監(ゼネラルマネージャー)孫広庭は、口うるさい上司。精典は「鯰魚精」と仇名をつけて嫌っていた。しかし、部下を見る目は確かで、張光正や豆子がサービス業に適した資質の持ち主であることを見抜く一方、精典は違う職業を目指すべきだと考えて、彼の気持ちをもう一度、学業に向けさせる。孫総監は、若い頃からホテルに寝泊まりし、家庭も持たず、ひたすら仕事に打ち込んできた。ところが、癌が見つかり、せめて人生の最後に自分の家を持ちたいと願う。張光正ら三人組は、自分たちの部屋に孫総監を受け入れて一緒に暮らし、孫総監の容態が悪くなると、ずっと病院に付き添うのだ。こんな人間関係、ありなのか。幸せすぎる。岳旸さん、チョイ役で何度か見たことのある俳優さんだが、いい役を貰ったなあ。

 主役組は、恋する張光正(黄軒)がとにかくかわいい。陳精典(白宇帆)もかわいい。楊大爺役の畢彦君は『琅琊榜之風起長林』の荀白水など、これまで矍鑠とした老人役で見てきたのに、別人かと疑うような呆け演技だった。また、広場舞のシーンで流れる楽曲、孫大姐のお気に入り「瀟灑走一回」(1991年)と柳阿姨のおすすめ「好嗨哟」(2019年)は耳に残る。どちらの歌詞も、ドラマの主題と絶妙にリンクしているように思った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする