見もの・読みもの日記

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御室の宝蔵+地方仏の至福/仁和寺と御室派のみほとけ(東京国立博物館)

2018-01-29 23:28:02 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 特別展『仁和寺と御室派のみほとけ-天平と真言密教の名宝-』(2018年1月16日~3月11日)

 仁和寺の寺宝と、仁和寺を総本山とする御室派寺院が所蔵する名宝の数々を一堂に集めた特別展。葛井寺の秘仏・千手観音菩薩坐像のお出ましは後期(2/14-)だが、その前に前期展示を見るために行ってきた。覚悟していたよりは人が少なくて、ゆっくり見ることができた(昨年の運慶展や国宝展に比べれば)。

 冒頭は、文書資料を中心に仁和寺の初期の歴史を紹介する。重要人物は、開基である宇多天皇(867-931)と、後白河法皇の第二皇子で第六世仁和寺門跡の守覚法親王(1150-1202)。守覚法親王の肖像は初めて見た気がするが、四角い顔、はっきりした眉が意志的で、なんとなく後白河院を思い出させる。親王は、弟・高倉天皇の中宮である平徳子の御産に際し、孔雀経法を修して安産祈願を行った。これに感謝を述べる高倉天皇の書簡と、守覚法親王の返信が伝わっている。高倉天皇の書簡は宸筆としては唯一のもの。図録の解説に「独特の書風」と評されていたが、どこかはかなげな感じがする。歴代天皇の宸筆が並んでいるのも見ものである。

 空海の『三十帖冊子』は入唐中の写経ノートで、全て枡形本っぽい小型の冊子で、細密な文字がびっしり書きつけられていた。当たり前だが空海は、漢文でなく中国語で読み書きしていたのだろうな。一部は別人の筆で、橘逸勢と推定されるものもある。図録に、守覚法親王が東寺から借覧し、仁和寺のものになったとあって苦笑した。いや、返せよ。

 続いて「修法の世界」と題して、仏画・仏具など。大好きな『孔雀明王像』(北宋時代)が来ていて嬉しい! 展示ケースが薄いので、かなり接近して鑑賞することができる。ただ照明が明るすぎて不安だった。照明がガラスに映り込むのもよくない。なお図録に「仁和寺と孔雀」というコラムが設けられていて、大宰府から仁和寺に持ち込まれた生きた孔雀が、鳥羽院、崇徳院、藤原頼長などに回覧された話が出ていて興味深い。

 各時代の素晴らしい仏画がたくさん出ていたが、大阪・金剛寺の『尊勝曼荼羅』は、降三世明王・大日如来・不動明王の三尊が描かれていて、ああ、京博と奈良博においでだったあの三尊だ、とすぐに分かった。金剛寺の『五秘密像』はあやしい図像だなあ。仁和寺の『荼吉尼天像』(室町時代)は正面向きの巨大な白狐(?)が恐ろしい。『別尊雑記』など、美しい白描をたくさん見ることができたのも眼福。そして京博の『十二天像』から、前期は「梵天」「地天」が出ていた。これもケースが薄いので作品に肉薄することができ、見えにくい手先や目もと、あるいは瓔珞や衣の花模様まで、はっきり確認することができた。ちなみに東寺の十二天像は、宇多天皇ゆかりの仁和寺円堂の壁画をもとに描かれたものである。

 「御室の宝蔵」のお蔵出しはさらに続く。数々の医書、『方丈記』の最古写本(京都・大福光寺所蔵)。神秘的な『僧形八幡神影向図』も好きな絵画である。『信西古楽図』(室町時代)は楽しい~。『彦火々出見尊絵』(江戸時代写)もなぜ?と思ったら、後白河院が蓮華王院宝蔵に集めた絵巻物一部は、その後、仁和寺に移管されていたらしい。

 さて後半は、がっつり仏像ワールドである。はじめに仁和寺の江戸復興にかかわった覚深法親王(1588-1648)を紹介したあと、仁和寺観音堂の再現コーナーに入る。写真撮影可。千手観音・降三世明王・不動明王・二十八部衆・風神・雷神像(全て江戸時代)がわちゃわちゃ並んだ充実感に目がとまるが、個人的には、むしろ壁画の再現度がスゴイと思った。須弥壇の背景には僧形・俗人・天部など、さまざまな参拝者が集合している(たぶん)。その裏側は、上段が六観音、下段は六道図が描かれていた。周囲の壁の上段には三十二観音、下段はよく分からないが霊験譚みたいだった。図録には全て図版・解説が収録されていてありがたい。

 次に金剛寺の五智如来。これは正面だけでなく横顔もよいので、回りながら確かめてほしい。仁和寺の阿弥陀如来坐像と両脇侍立像は、ふだん霊宝館にいらっしゃるものかな。たまに訪ねると、うっとり見とれる仏様である。福井・明通寺の降三世明王立像と深沙大将立像はその巨大さを強調するライティングがよかった。なお、降三世明王は絶対、後ろに回り込んで、見上げてみるべき。香川・屋島寺の千手観音菩薩坐像は初めて見た。猪首で腕が太く、力強い。源平の戦いを見てきたのであれば感慨深い。徳島・雲辺寺の千手観音菩薩坐像は、逆に腕が細くたよりなげで、衆生の祈りを聞き届けるというよりは、自ら祈るような表情をしている。胎内に墨書名あり。

 最後を飾るのが、福井・中山寺の馬頭観音菩薩坐像なのだが、露出展示でなく、展示ケースに入っているのが残念。まあその分、ギリギリまで近づくことができるので、三面の左右の面も玉眼で、豊かな表情をしていることや、頭上の白馬が前脚を折っていること、衣や蓮弁に残る彩色などを、よく眺めることができた。ではまた後期に!
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