見もの・読みもの日記

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風にのる仙人/雪村(東京芸大大学美術館)

2017-04-20 22:52:35 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京芸大大学美術館 特別展『雪村-奇想の誕生-』(2017年3月28日~5月21日)

 この春、いちばん楽しみにしていた展覧会。戦国時代の画僧、雪村周継(せっそんしゅうけい)の主要作品約100件と関連作品約30件によって、雪村の「奇想」はどのようにして生まれたのか、その全貌に迫る。特設サイト(音が出ます!)によれば「15年ぶりの大回顧展」とあるが、2002年に千葉市美術館で開催された雪村展(山下裕二先生企画監修)を私は見に行った記憶がある。まだ、水墨画の世界におそるおそる首をつっこんだばかりの頃だったから、雪村(せっそん)の名前と作品も、ほとんどこのとき初対面だったと思う。

 しかし、雪村から室町水墨画に入った私は、とても幸運だった。こんなに自由で楽しい世界があっていいんだ!と思って、すぐに虜になってしまった。雪村は、常陸国部垂(茨城県常陸大宮市)生まれの佐竹氏だが、代表作は関西にあるものが多い気がする。旅行の折に、大和文華館の『呂洞賓図』や京都国立博物館の『琴高仙人・群仙図』を見ることができると、いつも得をした気分になる。

 本展は、やっぱり『呂洞賓図』(前期-4/23)が一押しのようだ。入口にはこの作品のデジタル複製があって、湯気だか煙だかがゆらゆら立ち上る動画が流れている。展示は、まず雪村の生涯を概観し、常陸の修行時代→小田原・鎌倉滞在時代の作品から紹介する。茨城・常陸太田市の正宗寺(うう、行きにくそうな立地)に伝わる『滝見観音図』の模写や、ミネアポリス美術館所蔵の『山水図』など、めずらしい作品を見ることができてうれしかった。京博の『夏冬山水図』二幅は繊細でじわじわ胸に迫る素敵な作品だったが、全く記憶になかった。自分のブログを検索したら、宮島新一先生が日経ビジネスオンライン『日本美術と道づれ』で好きな作品にあげていらっしゃるようだった。

 『琴高仙人・群仙図』は後期だが、『列子御風図』を見ることができて嬉しかった。ひゅるひゅると風を巻き上げて(私の造像)垂直に浮かび上がった列子は、長い触角の生えた昆虫のようだ。『竹林七賢酔舞図』の仙人たちもかわいい。みんな、私の好きな中国武侠ドラマの登場人物たちに見えてくる。いま金庸の『射雕英雄伝』2017年版をYouTubeで視聴中なこともあって、みんな老頑童や洪七公の仲間たちのような気がしてくる。いや、雪村が現代に生きていたら、ああいうドラマが大好きだっただろうなあと思う。大和文華館の『呂洞賓図』の独創性は言うまでもないが、雪村は、龍の頭上で腰を落とした呂洞賓の図(通期・個人蔵)やこの反転図(後期・個人蔵)も描いている。ほかにもバリエーションがあったかもしれないと思わせる。

 雪村が晩年を三春で過ごしたことは、あまり意識していなかった。晩年の作品は山水図が好き。笠間稲荷美術館所蔵の『金山寺図屏風』の緻密さ。一方、現し世とも幻想の世界とも分からないような『山水図屏風』(栃木県立博物館)など。湧いては消える雲と、大地(山)の区別がなくなって、大地もふわふわ漂っているのが雪村の山水世界なのである。

 後世の画家による雪村トリビュート作品がたくさん集められており、特に光琳が雪村を深く敬愛していたことがあらためて分かったのは収穫だった。確かに光琳が繰り返し描いた布袋さんは、雪村の布袋によく似ている。

 図録はどの作品の解説も詳しく、寄稿者も充実していて読み応えあり。この展覧会で、15年前の私のような雪村ファンが大量に生まれてくれたら嬉しい。グッズは「雪村出世飴」が下町らしくて楽しかった。鯉、龍、呂洞賓が各2個ずつだったが、個人的に、雪村といえば「馬」を入れてほしかったと思う。


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