見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

青磁の魅力、赤絵の魅力/中国の陶芸展(五島美術館)

2016-02-22 21:42:35 | 行ったもの(美術館・見仏)
五島美術館『館蔵・中国の陶芸展』(2016年2月20日~3月27日)

 展示室に入って、見渡す限り、陶芸だけなのを確認。参考展示の書画などが一切なく、シンプルですがすがしい風景だった。同じテーマのコレクション展は何度か見ているので、知っている作品ばかりじゃないかな、と思っていた。そうしたら、冒頭の『瓦胎黒漆量(がたいくろうるしりょう)』が記憶にないもので驚いた。「量」は計量のための容器で、思い切り胴の太いビアジョッキみたいなかたちをしており、使い古しの油のように、てらてらとチョコレート色に光っている。何この濡れたような釉薬、と思ったら、素焼きに黒漆を掛けているのだそうだ。同じ製法の「勺(しゃく)」が付随する。紀元前4~3世紀、中国戦国時代の品。「湖南省長沙出土」という説明を見て、ああ、漆の国だと思った。「民藝」の美を彷彿とさせる優品。

 壁面のケースは、ほぼ時代順に展示室をひとまわりする構成になっている。唐代は『白磁弁口水注』がかわいい。白磁と言ってもなクリーム色の釉薬が全体にかかる。丸く張り出した胴ときゅっと締まった首は、金属器を模した形とすぐに分かるが、柄の上部に、ぼんやりした唐子の頭部が付いているのが可愛い(※同じことを2010年にも書いていた)。

 宋代では、鈞窯の『月白釉水盤』がいいなあ。とろりと白濁した月白釉(澱青釉とも)が、晴れやかな天藍釉よりも私好みだ。地味な野草でも生けてみたい。青磁は、青みの強いものから緑の色味の強いものへ並んでいた。明代になると、俄然、様式がバラエティに富んで、にぎやかになる。青花、法花、鉄絵、五彩、赤絵…。文化の画期がここにあるのだなあ、ということを強く感じた。清代の陶芸は2件しか出ていなかった。『鉄絵牡丹壺(絵高麗)』は、磁州窯系とも言われ、華南産とも言われて、よく分からないらしい。牡丹の描写の闊達さは朝鮮陶芸っぽいとも思う。磁州窯の『白釉鉄絵牡丹文長頸瓶』は、ちょっと変わった形態。表と裏で文様が異なるらしく、裏側が気になった。

 入口からもう一回、中央の展示列を見てまわる。単立のケースには、特にピックアップされた名品が展示されていた。重要美術品の『白釉黒花牡丹文梅瓶』も磁州窯。これは文様がシンプルで、白黒の対比がはっきりして、力強いところがいいんだなあ。それから重要文化財の『青磁鳳凰耳花生』。典型的な龍泉窯の磁器に比べると、緑の色味に乏しい。青みがかった白色は「粉青色」というのだそうだ。つるつるで、しかも水気を含んだしっとりした質感は、中華民族が大好きな「玉(ぎょく)」を思わせる。いや、玉(ぎょく)でなくて、土と釉薬がこの質感を出しているということが、信じられない。

 中央列の低い展示ケースには、比較的、小ぶりな陶芸が並んでいた。磁州窯の『緑釉鉄絵牡丹文瓶』は20センチ足らずの小品なのに堂々としていて好き。あとは赤絵。古赤絵、南京赤絵、呉州赤絵などの区別があるが、どれもよい。赤い丸がぐりぐりと描かれた素朴な文様を見ていて、ふと伊万里の赤絵鉢を思い出した。おおらかな民窯の赤絵と、精緻で洗練をきわめた伊万里は、遠く隔たっているようで、似ている。

 展示室2は、同館にはめずらしく「中国の古鏡」を特集。守屋孝蔵氏の旧蔵コレクションである。直径10~15センチの小ぶりなもので、中心の丸いつまみ(後補?)を神獣や仙人の姿が囲み、周辺部には鋸歯紋などの幾何学模様を施すという、似たデザインのものが多かった。蒐集者の好みなのかなあと思った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする