見もの・読みもの日記

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2012大河ドラマ『平清盛』最終回覚書

2012-12-25 01:12:13 | 見たもの(Webサイト・TV)
NHK大河ドラマ『平清盛』最終回/第50回「遊びをせんとや生まれけむ」(2012年12月23日放送)

 ドラマ『平清盛』が完結した。私は2007年『風林火山』以来のパーフェクト完走である。本放送を見逃した回はオンデマンドで補完した。ただ、二つの視聴スタイルはだいぶ異なっていて、『風林』は自分の外側にある好物ドラマという感じで、録画を何度も飽きずに見直すことがあった。『平清盛』は、何というか、一回見ると、ずんと自分の中に入り込んでしまうので、その印象をああでもないこうでもないと一週間かけて反芻するのが常だった。途中から時代考証の本郷先生のtwitterが始まり、続いて公式twitterが立ち上がり、ファンによる嵐のようなつぶやきを読むのも面白かった。

 自分の感想は「第6回まで」と「第21回まで」の二回書いただけだったが、これは後半に入って関心が薄れたわけではなく、むしろ加速度的に面白くなっていくドラマにますます惑溺して、感想をまとめる余裕がなくなってしまったためである。

 私は、もともと「平家物語」ファンなので、この時代の人々には、ある程度の知識と親近感を持っていたつもりだった。しかし、源氏や東国の武士、摂関家、天皇家については、このドラマを通じて、はじめてイメージが鮮明になった人たちがたくさんいる。いや、平家の人々についても、このドラマのイメージが上書きされることは、たぶん当分ないだろう、と思う。

 主人公・清盛を演じた松山ケンイチさんは見事だった。バトンタッチセレモニーで「僕の一番の失敗は大河の主演ということで、ものすごく緊張したこと」と告白していたように、序盤は迷いもあったのだろうと思う。ところが、実年齢をはるかに離れて、老醜の清盛を演じる後半になるほど、演技に凄みが増していった。そして、まわりの俳優さんも、役への収まり方が素晴らしく、視聴者である私も、半分あっちの世界(平安末期)に行きかけていたように思う。

 最終回は、この壮大な物語に憑依されかけた視聴者を、ゆっくり「現実」に返すために必要な仕掛けだったのではないか、と思っている。そういう点では、原典「平家物語」の大原御幸の段の役割に似ているかもしれない。

 親兄弟、叔父、親友、早世した息子など、さまざまな人々の志を受け継ぐ使命を自覚する清盛は、熱病にうなされ、生霊のごときものとなってさまよいながらも、生に執着する。その清盛に、人はみな、無念を残して死んでいくものと諭す西行。そして、死の直前まで、子どものようにひたむきに生きた清盛の人生は「まばゆいばかりの美しさ」であったと語りかけ、死を受け入れることを促す。

 そののち、西行は平家一門の邸を訪ね、清盛の遺言を伝える。画面には亡き清盛自身が現れ、晴れ晴れした穏やかな表情で、ひとりひとりに親身な言葉を与える。これは完全な創作パートだが、一年間このドラマに、平清盛の人生に付き合ってきた視聴者に「物語の終わり」を知らしめるには、最上の大団円だったと思う。盛国、いや鱸丸に対する言葉には、ここであの説話を持ってきたか、と胸の内で喝采した。後世のイメージのよくない時忠をねぎらい、やがて裏切り者の汚名を着る頼盛を励まし、最後に正妻・時子に向けた優しい一言は、意外すぎてほろりとした。

 そして、頼朝に受け継がれる清盛の志、駆け足の壇ノ浦、平家一門それぞれの最期、頼朝・義経兄弟の確執。「武士の世」の途上に打ち続く修羅の日々。しかし、海の上には、無垢な希望に満ちた小兎丸の姿。…ここまでは、だいたい想定範囲の最終回だった。

 いよいよ本当のラストシーン。海の底で宋剣を拾った若き日の高平太は、兎丸の声に迎えられ、波の底の「都」に歩み入る。そこには、陸の上と変わらない、なつかしい屋敷、さらに勢ぞろいした笑顔の一門が待っていた。え、そこまでやるのか(視聴者に受け入れられるか…大丈夫か?)という不安が一瞬よぎったが、この大胆な演出で興ざめするような視聴者は、たぶんとっくにドラマから離れていたと思う。逆に、私を含め、このドラマに最後までついてきた視聴者は、たとえあの場面が描かれなくても、「平家一門は海の都で仲良く暮らしているはずさ」という妄想を逞しくしたに違いない。だから、あのシーンは、視聴者が最後に見たかったものを見せてくれたものと考えて、評価したい(平家びいきの歌川国芳に、海の底の平家一門を描いた図があったなあ。中心は知盛だったけど)。

 ラストシーンでは、清盛目線のハンディカメラが、一座の者の表情をひとりひとり捉えていく。みんな「役」であると同時に、俳優さんの「素」の笑顔が渾然となっているような気がした。実は最終回だけオンデマンド購入して、さっきからラストシーンを何度も見返しているのだけど、見れば見るほど、不思議な幸福感に満たされていく。

 いろいろ物議を醸したドラマだったけれど、私は、治天の君から海賊に至るまで、それぞれ、高い志を抱いて格闘したたくさんの人々がいて、長い歴史を持つこの国が、前よりもっと好きになった気がする。そして、その歴史を一年間かけて楽しむ「大河ドラマ」という番組があることの幸せ。このことは、またあらためて書くかもしれないが、とりあえずの覚え書き。制作にかかわったみなさん、ありがとう。
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