見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

学術研究対象としての修二会/雑誌・南都佛教「二月堂特集」

2011-03-09 22:58:55 | 読んだもの(書籍)
南都佛教研究会編『南都佛教』52号「二月堂特集」 東大寺図書館 1984.6(2001.2再版)

 修二会の聴聞に奈良に行き、奈良博のミュージアムショップに入った。ブックコーナーには、お水取りや東大寺を扱った関連書籍が並ぶ。お松明やのりこぼし椿を表紙にした豪華な写真集にまじって、白黒の地味な表紙の本書が売られていた。「本書」と言ったが、雑誌である。表紙をめくってみると「南都佛教第52号『二月堂特集』再版に際して」というまえがきがあった。

 「いまから十七年前に出版された『南都佛教』第52号『二月堂特集』は、発行してまもなく初版本が在庫切れとなったため、各方面から再版の要望が多く、本年の修二会が千二百五十回目を迎えるにあたり、ようやく再版の運びとなりました。二月堂に関するこれら珠玉の各論文は、今以て謎の多い修二会行法はもちろんの事、その後の二月堂研究の基礎となっており、この再版が二月堂についての色々な角度からの研究が益々深まるきっかけとなり、近い将来二月堂特集の続編が発行されることを願ってやみません」云々。ちなみに、修二会が1250回目を迎えた「本年」とは、2001年。今年、2011年は、1260回目に当たる。前日のお松明の前の放送でも、そのように説明していた。

 手にとって、ぱらぱらめくってみると、写真や図版が多くて、資料として活用できそう。2,000円は「買い」と判断して、購入してしまった。これだから、博物館や美術館のブックコーナーは、町の本屋さんにない出会いがあって、面白い。

※収録論文は以下のとおり。

・永村眞「平安前期東大寺諸法会の勤修と二月堂修二会」
・山岸常人「悔過から修正会へ-平安時代前期悔過会の変容-」
・安達直哉「院政下における東大寺の位置-修二会等の法会と造東大寺長官を通して-」
・川村知行「東大寺二月堂小観音の儀礼と図像」
・佐藤道子「小観音のまつり」
・藤井恵介「東大寺二月堂建築の中世的展開」

 興味のあるところから読んでいこうと思ったら、後ろから読むことになってしまった。藤井論文は、現存建築(Ⅴ期:1669年再建)を起点に、Ⅳ期(1264年以降)→Ⅲ期(1226年以降)→Ⅱ期(1206年以降)→Ⅰ期(創建以降)と、二月堂建築史を遡及的に復原する試みである。そもそも、二月堂の創建は明らかでなく、『東大寺要録』にいう天平勝宝4年(752)実忠が十一面悔過を始行したというのも「二月堂修二会と同一の法会であるとの確証はなく、また二月堂の建物そのものが奈良時代に存在したかどうかの確認もできない」との記述に、軽いショックを受ける。千二百年に及ぶ「不退之行法」というキャッチフレーズを、わりと素朴に信じていたので。やっぱり一般常識と、学術界の常識は違うんだな、と思う。

 佐藤論文は、3月7日の深夜に行われる「小観音のまつり」の現状と変遷を、図をまじえて分かりやすく紹介。一昨年、3月7日に参籠する前にこれを読んでおけばよかった。佐藤氏は、昨年、一般向けに『東大寺お水取り:春を待つ祈りと懺悔の法会』(朝日選書)を出されたので、私の参籠は1年早かったのである。

 川村論文は、二月堂の二つの本尊について。本来の本尊は大観音で、小観音は印蔵(食堂裏の上司にあった四倉のひとつ)にあり、修二会の期間だけ二月堂に迎えられていたものが、大治~久安年間(12世紀)に二月堂に常置されるようになったと推定されている。これ以前は、霊仏とはされていたものの、他見を許されないほどの絶対秘仏ではなく、西南院本覚禅抄の裏書に見られるように、その姿が一度は写されている。ううむ、「何かひとつ願いが叶うなら、二月堂の本尊が見たい」と言っていた友人が聞いたら、何ていうかなー。

 冒頭の永村論文は、修二会の「謎」を包括的に論ずる。今日著名な二月堂修二会が中世以前には寺内の主要法会の位置を占めなかったのはなぜか。主要法会ではないにもかかわらず(他の大会の多くが「退転」する中で)「不退之行法」として勤修され続けたのはなぜか。寺内では異なる階層に属する学侶と堂衆が一列に参籠するという「さながら印度初期仏教集団にも似た稀有な僧侶集団が、法会の中に出現した」のはなぜか。言われてみれば、なるほど、と思う「謎」ばかりだ。

 永村論文は、「法会とは何か」という素朴な問いに対して、「法悦の共有」という回答を示しているが、二月堂修二会は、宗教的、芸術的な「法悦」のみならず、知的探究心にとっても、無類の刺激を与えてくれる存在であることをあらためて感じた。
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