見もの・読みもの日記

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西と東/江戸時代の西洋学(天理ギャラリー)

2007-06-16 23:25:45 | 行ったもの(美術館・見仏)
○天理ギャラリー 131回展『江戸時代の西洋学~天理大学附属天理図書館蔵品による~』

http://tokyotenrikyokan.co.jp/gallery/gallery.htm

 昨秋、天理図書館に行って、特別展『漢籍』を見てきた。その直前までやっていたのが、この『江戸時代の西洋学』展だった。図書館の職員の方が「来年、東京の天理ギャラリーに行きますよ」とおっしゃっていたので、気にかけてはいたのだが、危うく見逃すところだった。

 今回の展示は、徳川八代将軍吉宗のころから幕末にいたる約150年間の西洋学術・文化の受容とその周辺について、和洋双方の資料から展示したもの。「和洋双方」というのがポイントである。いや、正確には「和漢洋」かな。冒頭に展示されているのは、南懐仁の『新撰霊台儀象志』(江戸後期写)。一見ペン画のような精密なタッチで「天体儀」が描かれている。

 南懐仁(フェルディナント・フェルビースト、1623-1688)は、イエズス会の宣教師、中国に渡り、清朝の皇帝に仕えた(中国の古装劇=時代劇ドラマにもよく出てくる)。チコ・ブラーエが発明した天体観測儀などを中国にもたらし、さらに書物を通じて日本の天文学者にも影響を与えた。チコ・ブラーエ(1546-1601)って有閑貴族だったのよね...最近、『一六世紀文化革命』で、彼の人となりを知ったばかり。16世紀に起きたヨーロッパの知の変動が、17世紀の中国を経て、18~19世紀に日本に達するわけである。

 この展覧会、展示品は書物ばかりだが、図版入りのものが多くて退屈しなかった。興味深く思ったのは、たとえば林子平の『海国兵談』(天明6年成)の挿絵に、皮のベルトで石投げの練習をする人々が描かれているのだが、これがドイツ人ディリッヒの『戦争教則本』(1689年)の挿絵と一致すること。前者はかなり稚拙な模写だが、後者をお手本にしたことは一目瞭然である。

 また、森島中良の『紅毛雑話』(天明7年序刊)の「霊鷲山(→釈迦が説法をしたところ)絶頂之図」は、明らかにファレンティンの『新旧東インド誌』(1726)の挿絵を写している。比べてみれば百聞は一見に如かず、であるが、自前の資料だけでこんな比較が示せるのは、和洋双方の豊富な蔵書を誇る天理図書館ならでは、と思って唸った。

 見て楽しいのは『鷙鳥(しちょう)之図』が随一。長崎の複数の画家が、唐船や蘭船わたりの鳥類を描いたもの。うっすらピンク色がかった白いオウムが愛らしい。頭部アップの表情がいいなあ。墨筆でスケッチされた様々なポーズも。その隣りはダチョウ。長崎の出島を描いた別の画巻にも、犬、牛、馬に混じって、ダチョウらしきものが描かれていた。船に乗せてくるのが流行っていたのだろうか。

 小関三英の『那波列翁(ナポレオン)傳』(天保8年)も取り上げておきたい。リンデン著『ポナパルテの生涯』(1803年)の翻訳である。一書は写本で「蕃書調所改」という墨印が押してある。これは刊行許可を求めるために提出した自筆原稿だという。とはいえ、いちおう本の体裁を整え、冒頭にはナポレオンの顔のアップが描かれている。ゲラ刷りみたいなものか。のちの刊本を見ると、同様に冒頭にはナポレオンの肖像が刷り出されている。

 展示品はどれも状態がよい。図書館の蔵書にありがちな、みっともない再製本もされず、品のないラベルも施されず、よく古態を保っている。何よりも「天理図書館之印(だったかな?)」という蔵書印が、ホントに小さく控えめで、江戸時代の蔵書家の印と並んでも目立たない(違和感がない)ことに感心した。そうよねえ。貴重な書籍を伝えてきた先人に対して、真に感謝と尊敬の気持ちを持っていたら、札所のご朱印みたいな大きな蔵書印なんて、押さないよなあ。

 ※展示は明日(6/17)まで。

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