見もの・読みもの日記

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国宝漢籍と近世名家の自筆本/天理図書館

2006-12-05 05:11:25 | 行ったもの(美術館・見仏)
○天理大学附属天理図書館 特別展示『教祖120年祭記念展』

http://www.tcl.gr.jp/tenran/kinen/120nen/index.htm

 出張で天理図書館に行ってきた。先方の職員に会って、いろいろ話を聞くのが目的だったが、今年、同図書館は、教祖120年祭(教祖・中山みきの没後120年)を記念して、1年間にわたる貴重書の展覧会を行っている。折りしも先週は、国宝3点を含む豪華『漢籍』展が行われていたので、仕事のあと、展覧会場を見せてもらった。

 連れの同僚は「12月のインキュナブラのほうがいいなあ」と言っていたけど、インキュナブラ(15世紀本)なんて明版じゃないの(と、井上進先生のようなことを言ってみる)。今回は12~13世紀初の宋版が2点出ているのだ。

 入口を入ってすぐの単独ケースに飾られていたのは、重要美術品の『永楽大典』。大型で、黄色い絹の表紙が美しい。極上の白い料紙に端正な細字が記されている。原稿用紙ふうの朱の罫線は、よく見ると、実はこれも手書きである。案内してくれた方は、30数年勤めていても、これを見るのは2回目です、とおっしゃっていた。

 それから、国宝の『欧陽文忠公集』『劉夢得文集』が並ぶ。どちらも宋版。前者は、当時の版本には珍しく、挿絵(版画)が添えられていることで有名なものだ。後者は、足利義満の蔵書印(号・天山)を有する。また、国宝『南海寄帰内法伝』は、海路インドに渡った唐の義浄の著。展示品は奈良時代初期の写本(巻子)で、胆の据わった男性的な手跡である。案内の方は「永楽大典の字もいいけど、この字もいいでしょ?」と自慢げだったが、その気持ち、うなづける。

 このほか、『長恨歌伝』に「弘前医官渋江氏蔵書記」の印が押されているのを、私は見逃さなかった(鴎外の史伝小説で有名、渋江抽斎の旧蔵書である)。『白氏文集』には「金澤文庫」印あり。解説によれば、唐の会昌年間(白楽天の同時代!)に留学僧が書写して持ち帰ったものを、鎌倉時代に写した伝本だそうだ。すごい!

 併設の『近世名家の自筆本』がまたすごくて、荻生徂徠、伊藤仁斎、賀茂真淵、本居宣長、近松門左衛門、井原西鶴、等々。とにかく、儒学者、国学者、国語学者、文学者、蘭学者まで、近世名家総ざらいという感じである。とりわけ、子安宣邦さんを感激させたという伊藤仁斎のノートを前にしたときは、身が引き締まる思いだった。

 これだけの資料を集め得たのは、宗教法人関連ということで、一般の大学図書館とは比較にならない予算の潤沢さもあるだろう、と想像されるけれど、かつて、これらの貴重な資料が二束三文に近い値段で売り出されたとき、外国に流出させてはならないという使命感で買い集めた、という経緯をお聞きしたことも付記しておこう。

 案内の方は、我々を”一般人”と思ったらしく、20分くらいで展示室ツアーは終了。連れはともかく、私は、もっとじっくり見たかったのだが、既に公開時間は終了していて、我々のためだけに開けてくれたので、我儘は言えない。未練を残しながら、展示室を後にした。

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