見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

活字の国、朝鮮/高麗美術館

2006-08-06 20:38:38 | 行ったもの(美術館・見仏)
○高麗美術館 夏季企画展『活字の国、朝鮮-朝鮮活字印刷文化との出逢い-』

http://www.koryomuseum.or.jp/

 話は先週の土曜日に戻る。開館と同時に入った京都国立博物館で、午後2時過ぎまで過ごしてしまった私は、慌てて洛北に向かった。今回の京都旅行の目的は、むしろこっちだったので、十分な時間がなくなっては、元も子もない。

 高麗美術館の展示企画は、ときどきチェックしているが、陶磁器とか工芸を扱うところだと思っていた。そうしたら、今回のテーマは「印刷」だというので(本を扱う私の仕事柄もあって)ぜひ見たいと思った。私はこれまでにも、『静嘉堂文庫の古典籍』とか、慶應義塾図書館の『論語』展とか、東アジアの書籍に関する展示はよく見ている。だから、朝鮮本と言っても、そんなに違いはないだろう、と思っていたのだが、いきなり、びっくりすることになってしまった。

 最初のケースに展示されていたのは、おびただしい活字の山だった。文字のまわりに余白がないので、字形によって、かなり形が不揃いである。小さな活字が多くて、全体が墨にまみれ、磨り減っているので、かなり判読しづらそうだ。今時のゴム印のように裏にその文字が墨書されているわけでもないから、これを拾って植字するのは、相当忍耐のいる作業だろうと思われる。

 日本の「古活字版」が、朝鮮の活字印刷技術を学んで成立したものであることは知っている。しかし、近世の日本では、活版印刷は普及せず、木版が主流となった。活版印刷の発祥である中国も同様で、近代以前の活字本は、非常に珍しい(と思う)。

 なのに、なぜか朝鮮の人々は「活字」にこだわり続けた。会場にはたくさんの朝鮮古籍が飾られていて、どれもこれも「活字本」という説明が付いている。え~ほんとかね。木版じゃないのかしら。活字本の場合は、なんとなく字の並びが均一でないとか、まれにひっくり返っている活字があるとか、枠の四隅が切れているとか、いくつか見分け方があるのだが、素人目にはよく分からない。

 しかも驚いたのは、朝鮮活字の場合、単に「木活字」「金属活字」を判別するだけではなく、「甲寅字」「丙辰字」(製作年の年号による)あるいは「実録字」「春秋網字」(使われた書籍による)など、300種を超える字体が確認されているそうである。なんだろうなあ、この活字に対するこだわりは。

 ちなみに、活字というのは、無から生まれるものではなくて、お手本にしている木版本がある。また、活字本を真似て作った木版本もある。こういう融通無碍なところが東アジアの印刷文化史の面白さではないかと思った。
コメント
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