見もの・読みもの日記

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近代日本のウラ側/神秘家列伝(水木しげる)

2005-09-10 22:55:55 | 読んだもの(書籍)
○水木しげる『神秘家列伝』(其ノ2)(其ノ3)(角川ソフィア文庫)角川文庫 2004.10/2005.1

 先日、1巻と4巻を読んだ同シリーズの続きである。2巻、3巻の登場人物は、コナン・ドイル(名探偵ホームズの作者)を除いて、他は全て日本人だ。時代は古代から近現代に至る。

 7世紀に生きたといわれる役小角は、ほとんど伝説上の人物だが、耳元で話し声が聞こえそうなくらい、生き生きと描かれている。まるで水木マンガのために創られた人物のようだ。それに比べると、安倍晴明の存在感はいまいち。やっぱり、山野を駆け回った修験道の元祖・役小角のほうが、貴族官僚・晴明より、水木マンガとの親和性が高いのもしれない。

 興味深かったのは、井上円了、出口王仁三郎、宮武外骨など、近代日本を生きた「神秘家」たちである。彼らの生涯を通して見る明治・大正・昭和という時代には、教科書や学術書からは、うかがうことのできない相貌がある。

 たとえば、出口王仁三郎の提唱した大本教と帝国政府の確執。大正初年、空前の不況にあえぐ民衆は、宗教に救済を求め、大本教に熱狂した。危機感を感じた政府は、王仁三郎を不敬罪で検挙。昭和に入り、大本教は右翼の大物・内田良平と結んで、愛国団体として勢力を伸張する。しかし、再び徹底的な弾圧が開始される。それは政府が大本教に抱き続けてきた「すさまじい憎悪」の噴出であった。水木サンの言うとおり、天皇制国家は、国家神道と異なる神話に立つ者の存在を「絶対に容認できなかった」のであろう。敗戦によって、日本国民に信教の自由が認められてのち、昭和23年に王仁三郎は死去。

 明治生まれの変人ジャーナリスト・宮武外骨は、明治憲法の発布に際して、それが「平民も政治に参加できると思わせ」実は特権階級の利益を守るものであることを喝破し、皮肉たっぷりの嘲弄を浴びせた。これによって外骨は不敬罪に問われ、監獄送りとなる。しかし、外骨の寄稿した雑誌は飛ぶように売れたというのだから、当時、多くの庶民が憲法発布の虚構を見抜いていたのかも知れない。

 私は、宮武外骨というと、奇矯・滑稽を偏愛した趣味人のように思っていたが、徹底して反権力を貫いた人物でもあるようだ。東京大学の明治新聞雑誌文庫は、宮武外骨が収集した新聞・雑誌に基礎を置くが、それも単なる趣味のコレクションではなく、明治藩閥政府の実体を伝える資料と外骨は考えていたらしい。外骨さんは意外と長命で、戦後は妻と二人、東大構内の明治新聞雑誌文庫に仮住まいし(!)、昭和30年まで生きたということだ。

 もうひとり、江戸の国学者・平田篤胤も好きだ。国家神道の化け物みたいなイメージがつきまとうが、当人の生涯は至って人間臭い。無類の勉強家であると同時に、愛妻家で、いつも家族や隣人に溢れるような愛情を注いでいる。荒俣宏サンが自分の背後霊と称するのも納得である。
コメント
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