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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。
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浮世絵見て歩き/上野の森、千葉市美、慶応義塾

2025-07-16 22:30:12 | 行ったもの(美術館・見仏)

上野の森美術館 『五大浮世絵師展-歌麿、写楽、北斎、広重、国芳』(2025年5月27日~7月6日)

 大河ドラマ『べらぼう』の影響か、今年は浮世絵展が大流行りである。私は東京近郊の展覧会は全て見に行こうと決めている。この展覧会は、閉幕1週間前に出かけたら、ものすごい行列だったので、閉幕直前の土曜日に出直した。10時開館だったので、1時間は並ぶつもりで9時近くに到着したら、なんとすぐに開館して中に入れてくれた。館内は、五大浮世絵師のセクションがそれぞれ区切られている。最初の歌麿、写楽はもう観客でいっぱいだったので、先に北斎を見て、写楽に戻り、歌麿はお客さんの頭越しに眺め、2階に上がって、広重、国芳を見た。分量的には、歌麿、写楽は少なめ。絵師ごとにテーマカラーが決められているのが面白かった。歌麿:茶色、写楽:ピンク、北斎:青、広重:緑、国芳:赤、だったかな。

 歌麿は『契情三人酔(笑上戸)』がとてもよかった。腹立上戸、泣上戸と3枚組らしい。同輩に背中から抱きかかえられるようにして笑っている遊女の生き生きとした表情や仕草が愛らしい。ああ、遊女を人間として見ていたんだなあと感じさせる。北斎の風景画(東海道五十三次や富岳三十六景)はやっぱりいい。超有名作品でないものも普通にいい。広重の風景画は黒の使い方が巧みだと思った。一方で、初めて見た(?)広重の美人画にも惹かれた。遊里の風景を近江八景に見立てた『内と外姿八景 桟橋の秋月 九あけの妓はん』は、股火鉢ではないけれど、ぼんやり囲炉裏に向かって暖を取る遊女の姿を描いている。

 国芳はどれもいいのだけれど、この作品、久しぶりに見たな、というものが意外と多くて嬉しかった。地雷也や天竺徳兵衛とともに登場する巨大ガマに興奮する。通俗水滸伝豪傑シリーズの『旱地忽律朱貴』は古装ドラマに出てほしいタイプのイケメンで好き。

千葉市美術館 開館30周年記念『江戸の名プロデューザー蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ』(2025年5月30日~7月21日)

 同じ日にハシゴをしてこちらにも寄る。千葉市美術館の開館30周年を記念する本展では、浮世絵の始祖で房州出身(ここ強調)の菱川師宣に始まり、春信、歌麿、写楽、北斎、英泉、広重に至る浮世絵の歴史をたどりつつ、蔦屋重三郎が生まれた時代から華やかな黄金期の浮世絵への展開、そして “世界のUkiyo-e”へと進化していくさまを紹介する。「五大浮世絵師」よりはやや古い時代、あるいは同時代だけどあまり尖っていない、どちらかというと伝統的な作品が多くて、それでそれで、浮世絵初心者の私には面白かった。鈴木春信は言わずもがな、鳥居清長とか勝川春章とかの美人画は、いいなあと思ってしまう。

 歌麿は、俳書や狂歌本の挿絵に始まり、美人画もたくさんあって、比較的ゆっくり見ることができた。『当世三美人』とか『江戸高名美人』とか、眉のかたち、目のかたちなど、ちゃんと女性の個性を描き分けている。そして大河ドラマの影響で、蔦屋だけでなく西村屋とか鶴屋などの版元がいちいち気になってしまうのが自分でも可笑しい。英泉の版元は「蔦屋吉蔵」が多い。蔦屋重三郎(二代目)から暖簾分けした可能性が考えられるという。

 併催の『日本美術とあゆむー若冲、蕭白から新版画まで』もすごい展覧会だったが、これはまた稿をあらためて。

慶應義塾ミュージアム・コモンズ 『夢みる!歌麿、謎めく?写楽-江戸のセンセーション』(2025年6月3日〜8月6日)

 経済学者・高橋誠一郎(1884-1982)が収集した浮世絵コレクションを紹介する展覧会。私はこの方の名前を全く知らなかったのだが、調べたら、慶応義塾図書館監督(現在の館長)や塾長代理、さらに国立劇場会長、東京国立博物館長も務めていらっしゃるらしい。本展は、4月に小松茂美旧蔵資料展を見にきたとき、1階の警備員のおばさんが、ニコニコしながらチラシを渡してくれて「次は浮世絵展なんですよ!」と嬉しそうにおっしゃっていたので、ぜひ来てみようと思っていたのだ。しかし例によって土曜開館は会期中に3回しかないので、忘れて見逃さないようドキドキしていた。

 展示は前後期で112件、1回で見られるのはその半分だから、大規模な展覧会ではない。しかし歌麿は多様なジャンルの作品20件以上出ており、どれも摺りがよかった。「教訓 親の目鑑」シリーズが楽しくて、これは「ばくれん」(莫連、あばずれ、すれっからし)。グラスで酒をあおっているのはともかく、左手に持っている大きなカニは酒の肴なのだろうか。

 これは「もの好」。庶民が犬猫を溺愛するのは見苦しいと説いているそうだ。まあ親からすれば、対象が何にせよ、物好きが高ずると婚期が遅れるという心配かもしれない。

 写楽は『松本米三郎のけわひ坂の少将実は松下造酒之進妹しのぶ』が面白くて見とれた。この展覧会、ほとんど写真撮影OKなのだが、この作品は個人蔵らしく撮影不可なのが残念だった。

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さまざまな美女/上村松園と麗しき女性たち(山種美術館)

2025-07-15 22:46:03 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 特別展・生誕150周年記念『上村松園と麗しき女性たち』(2025年5月17日~7月27日)

 2025年、上村松園(1875-1949)が誕生して150年を迎えることを記念し、数々の名品を取り揃えてその画業をたどるとともに、松園と同時代の画家から現在活躍中の若手作家にいたるまで、女性の姿を描いた作品を紹介する特別展。

 むかしは日本画の美人画というのは、何がよいのか分からなくて敬遠していたのだが、最近少し親しみを感じるようになってきた。松園には『蛍』『新蛍』『夕べ』など、蚊帳や簾を効果的に用いた美人画があり、美人画の先達である歌麿をしっかり学んでいることを感じさせる。しかし同時に松園は「近松式でもなく歌麿式でもなく」崇高で森厳とした女性美を描きたいと言っている。見ている人に邪念を起こさせない、邪な心も清められるような美人画が理想なのだという。まあ松園には、女の情念を感じる作品もないではないのだが、本展の出品作は、キリッとした美女の図が多かった。普通の町娘やおかみさんなのに、キリッとし過ぎて、尼僧に見えてくるものもあった。あと、浮世絵の美人画に比べると、首が太くて短いと思った。

 名品『蛍』(1913年)で蚊帳を吊るす女性の浴衣には百合が描かれている。松園は「天明頃をねらいました」と語っているそうだが、この百合は、当時最先端のアール・ヌーボー趣味を取り入れたもの。というのは、最近、どこかの展覧会で見て、へええと思ったのだが、どこだか思い出せない。同じ山種美術館だっただろうか。

 そして、さまざまな画家による美人画。松園と同じ和装美人でも、梶田半古、鏑木清方、池田輝方、みんな違うなあと思って眺める。いま太田記念美術館で特別展を開催中の鰭崎英朋なんかも思い浮かべて比較してしまう。珍しいところでは、尾竹竹坡の木版口絵があったり、島成園『花占い』(個人蔵)という作品を初めて眺めたりした。大きな立涌模様の着物が大正モダンふうでオシャレ。伊東深水描く、パーマヘアにつけまつげ(たぶん)のバタくさい美女たちも大好き。

 小倉遊亀『舞う(舞妓・芸者)』『涼』、片岡球子『むすめ』『北斎の娘おゑい』などが並ぶ第1展示室のフィナーレは目まいがしそうなほど豪華絢爛。小倉遊亀氏が『舞う』の金色の背景について、青金泥を20回くらい塗り重ねると嫌な感じになるが、さらに塗り重ねた、と語っているのが興味深かった。金屏風を背景に着物姿の女性を描く趣向は、第2展示室、青山亘幹『舞妓四題』(うち2幅)(個人蔵、1985年)に受け継がれていく。和田英作『黄衣の少女』は、戦後のエスニックブームの反映か思ったら、ずっと古い作品(1931年)。しかし褐色の肌の少女、背後の赤いカーテンなど、エキゾチックな雰囲気が漂う。和田英作は、東京美術学校の校長として苦労された方である。

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自然観察と書画工芸/花と鳥(三井記念美術館)

2025-07-13 23:04:54 | 行ったもの(美術館・見仏)

三井記念美術館 美術の遊びとこころIX『花と鳥』(2025年7月1日~9月7日)

 この「美術と遊びとこころ」というシリーズ、私のメモでは2013年のVI(第6回)まで遡ってしまうのだが、最近も使われていたのかな。気づいていなかった。第9弾の今回のテーマは花と鳥で、絵画・茶道具・工芸品など美術の中の花と鳥が織りなす多彩な表現や奥深い美の世界を紹介する。ときどき、選りすぐりの名品展には出てこないような珍しい作品が混じっていて、面白かった。

 展示室1は「花」から。冒頭の『青磁浮牡丹文不遊環耳付花入』(南宋~元時代)は、時代から見て名品のひとつだろうけれど、仏前が似合いそうながっちりした形式ではなく、丸く膨らんだ胴が優雅。仏器でない日常の調度品として使われたのだろうか。仁清作『色絵蓬菖蒲文茶碗』に菖蒲の花はなく、長く伸びた葉っぱのみ。五月の節句にヨモギと葉菖蒲を束ねて飾ったことに由来するのだろう。この茶碗で飲むお茶は薬になりそう。『唐物肩衝茶入(銘:遅桜)』(南宋時代)は外連味がなくて好き。

 萩と紫陽花をそれぞれモチーフにした蒔絵の茶箱が出ていたが、小さな花がたくさん集まって咲く植物は、蒔絵の技法との相性がよい。『紫陽花蒔絵茶箱』(江戸時代・19世紀)は、大小の茶碗、茶杓、棗など、中に収められた茶道具がぜんぶ銀製。いいなあ、これ欲しいなあと強く惹かれたが、帰りがけにミュージアムショップを覗いたら、銀製(銀彩?)の茶碗が売られていた。

 先に進んで、展示室4は「鳥」。この展覧会、「花」も「鳥」も、現実の花や鳥の写真が添えられているのが面白かった。特に「鳥」は詳しくないので、気がつくと作品よりも写真のほうに気を取られていたりした。いちばん気に入ったのは古径筆『木菟図』。ミミズクは誰が描いてもかわいい。『海辺群鶴図屏風』は誰の作品か分からなくて、訝りながら近づいたら、三井高幅筆(1885年)だった。応挙の作品を写したものだというが、玄人はだしに巧い。渡辺始興筆『鳥類真写図巻』も眼福だった。小鳥の顔を正面から、あるいは頭上から描いて、模様の全体図を理解しようとしているのが面白かった。ホオジロの正面顔は歌舞伎の隈取みたいだった。

 展示室3「如庵」茶室には、国宝『志野茶碗(卯花墻)』が出ていた。奥の床の間に掛かっていた軸物は、解説を見たら『継色紙(くるるかと)』だったが、老眼にはよく見えなかった。残念。

 展示室5では、永楽妙全作『色絵雉香炉』(明治~大正時代)に惹かれた。仁清の『色絵雉香炉』(この間、大阪市美で見た)を念頭に置いて作られたのだろうが、こちらは2羽とも細い脚ですっくり立っている。そして2羽とも色がきれいで、どちらがメスなのかよく分からなかった。オスとオスで1対ということはないだろうけど。三井家が徳川治宝から拝領したという『紫交趾写鴨香合』『青交趾写雀香合』も可愛かった。

 最後の展示室には室町時代の『日月松鶴図屏風』が出ていた。古い作品には真鶴がよく描かれているが、ツルといえばタンチョウになってしまったのは、いつ頃からなのだろう。草花模様をちりばめた豪華な能装束(明治~大正時代)も素晴らしかった。花も鳥も、つい最近まで日本人には本当に身近だったのだなと強く感じた。

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青銅器と青銅鏡の宇宙/死と再生の物語(泉屋博古館東京)

2025-07-10 21:32:52 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館東京 企画展『死と再生の物語(ナラティヴ)-中国古代の神話とデザイン』(2025年6月7日~7月27日)

 京都の泉屋博古館所蔵の青銅鏡の名品を中心として、中国古代の洗練されたデザイン感覚、その背景となった神話や世界観を紹介する企画展。「動物/植物」「天文」「七夕」「神仙への憧れ」という4つの観点から、デザインの背景を読み解き、日本美術に与えた影響についても紹介する。

 京都の泉屋博古館が世界有数の青銅器コレクションを所蔵していることはよく知っている。先月、リニューアル開館した京都の本館を訪ねて、刷新された青銅器館(展示ケースや内装を新調)を見てきたばかりである。いま、京都では『ブロンズギャラリー 中国青銅器の時代』(2025年4月26日~8月17日)を開催中なので、ん?東京でも青銅器展で大丈夫なのかな?と思ったが、こちらは「青銅鏡」が中心。ただし『鴟鴞尊(しきょうそん)』など、鏡以外の青銅器もいくつか来ていた。

 はじめに青銅器に表現された、さまざまな動物を紹介。再生の象徴と考えられたセミ、天地をつなぐ龍、怪物あるいは霊獣である饕餮(とうてつ)など。鴟鴞(フクロウ・ミミズク、鴟梟とも)は、古代中国の文献には、不吉の鳥、悪鳥として登場する。しかし古典文献成立期よりさかのぼる殷代には、その姿をあらわした青銅器が副葬品として用いられた。夜行性の猛禽類という性質から、死後の世界と通じ、死者を守る役割が期待されたのではないかという。展示の『鴟鴞尊』は、細身でシュッとした雰囲気。厚底靴を履いたみたいな足元も好き。それ以上に驚いたのは、早稲田大学会津八一記念館所蔵の小さくて素朴な鴟鴞尊7件が並んでいたこと。説明はなかったが、全部(?)土製だと思う。とぼけた顔もあれば凶悪そうな顔もあり、大きく膨れたお腹の上に小さな顔が載っていて、豆狸みたいだった。

 次いで、本格的に青銅鏡にフォーカスする。まずは樹木文鏡や草文鏡と呼ばれる類。古代中国には東方の巨樹・扶桑の伝説があった。扶桑の樹からは10個の太陽が順番に天に昇っていたが、あるとき10個が一度に昇ってしまったので、弓の名手・羿が9個を射落とした。ああ「羿射九日」の伝説だ!鏡とともに展示されていたのは『武氏祠画像石(前石室第三石)』の拓本で、巨樹に向かって弓を引く人物が描かれている。へえ、泉屋博古館は、こんな拓本も持っていたのか?と思ったら、会津八一記念館の所蔵品だった。武氏祠は山東省にあり、後漢末の地方豪族武氏一族をまつった石祠群だという(行ったこと…ないかなあ)。会津八一記念館からはほかにも複数の画像石拓本が来ていて眼福だった。画像石は馬のシルエットがとてもカッコいい。

 それから、古代天文学好きにはおなじみの『淳祐天文図』拓本(コスモプラネタリウム渋谷所蔵)に続いて、複数の方格規矩鏡が並ぶ。中央に方格(四角形)と規矩文(TLV字文)を持ち、TLV鏡とも呼ばれる。方格は大地を、外縁の円形は天空をあらわし、その間に四神や瑞獣、仙人などを配置して、古代中国の宇宙観を表現している。なるほど、鏡が哲学的なプラネタリウムだったことに納得。

 もう少し人間くさい画像鏡には、紙人や神仙が登場する。たとえば、西王母と東王父(東王公)、あるいは琴の名手・伯牙とその理解者である鍾子期(もうひとり、伯牙の琴の師匠・成連先生というキャラもセットらしい)。日本文化への影響例として、尾竹竹坡の『寿老人図』や丸山応挙の『西王母図』が展示されていたのもよかった。Wikipediaの「西王母」の項目を読むと、いろいろ興味が尽きない。七夕伝説とも関係があるのだな。

 最後は舶載・仿製とりまぜて三角縁神獣鏡が多数並んでいたが、「神話的世界観に基づく文様構成が明確には読み取れない」つまり(今日ふうに言うと)「思想が弱い」と説明されていて、笑ってしまった。まあ日本文化って、伝統的にそういうものかもしれない。

 第4展示室は「泉屋ビエンナーレSelection」と題して現代作家の金工作品を展示。久野彩子氏の『time capsule』がよかった。ホール展示の『魁星像』(明代)は、京都で何度か見たことを思い出して、なつかしく眺めた。

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比べて味わう高野切/極上の仮名(五島美術館)

2025-07-06 23:19:05 | 行ったもの(美術館・見仏)

五島美術館 平安書道研究会900回記念特別展『極上の仮名 王朝貴族の教養と美意識』(2025年6月25日~8月3日)

 あ、次の展覧会は古筆ね、というくらいの軽い気持ちで見に行ったら、とんでもない特別展だった。仮名関係の展示は前後期併せて106件、そのうち70件以上が書芸文化院の所蔵なのである。今日はちょうど平安書道研究会が美術館の講堂で行われる日で、朝からプロ級に熱心な参観者で展示室が埋まっていた。

 混雑していた冒頭を避けて、目についた作品に近寄ってみた。濃い青と薄い青の料紙を継いだ『関戸本和漢朗詠集切』で、高野切第2種と同筆、源兼行説が有力と説明されていた。かなり横長の大きめの断簡で、漢詩が幅の3分の2、和歌が3分の1程度を占める。色付きの料紙なので墨の線がはっきり見えて、連綿の美しさがよくわかるような気がした。すぐそばに『伊予切(和漢朗詠集)』も出ていて、こちらは高野切第3種と同筆とのこと。『関戸本』が漢字と仮名の書分けにメリハリが感じられるのに比べて、こちらは漢字も仮名と同じくらいの細い線で、なめらかな行書体を駆使している。ほかにも「高野切〇種の系統」などの解説を見て、仮名における高野切の存在の大きさをあらためて感じる。

 そこで展示の冒頭へ戻る。『関戸本古今集切』は書芸文化院所蔵分と五島美術館分が競演。『高野切』と並ぶ平安古筆の名品だが、正直、まだ私にはよく良さが分からない。『高野切』はたくさん出ていて(!)特に外形的によく似た第1種から第3種の軸を並べた展示は、比較がしやすくて分かりやすかった。私が魅了されたのは、平台のケースに入っていた第1種の軸。「かりくらしたなばたつめにやどからむ 天の河原にわれは来にけり」という業平の和歌で、わずか2行の細い断簡だった。初句は縦長の字形が連なり、途中で横に膨らみ、また細くなる。そのリズミカルな肥痩(線ではなく文字自体の)がとても美しいと思った。実は、いつも五島美術館所蔵の『高野切古今集(第1種)』を見てもあまり魅力を感じなかったのだが、今回、姿勢を低くして顔を近づけると、ずいぶん印象が変わることを発見した。料紙のキラキラが目立たなくなるかわりに、細い線の連綿が、老眼でも見えるようになるのだ。

 第3種は東博所蔵分(軸物ではなく巻子仕立て)が出ていた。私はむかしから第3種が好きなのだが、平安仮名の初心者に読みやすい、親しみやすい書風だと思う。第1種、第2種の良さが分かってくると、ちょっと物足りなくなるのは、自然の理かもしれない。

 私の好きな『継色紙』は、五島美術館所蔵(めづらしき声ならなくに)と並んで、個人蔵(あすかがは)が出ていた。ネットで検索していたら、おもしろい論文が出てきたので貼っておく。あと五島美術館所蔵の『寸松庵色紙』(あきはぎの花さきにけり)の書風にも惹かれた。 

「継色紙」の空間と時間/荒井一浩(東京学芸大学附属高等学校紀要5)

 このほか『今城切(古今和歌集)』の藤原教長の書風も好き。『烏丸切(後撰和歌集)』もいいと思った。筆者は藤原定頼に仮託されてるほか、諸説あるが定かではないそうだ。この展覧会、すべての作品に翻刻が添えられていて、古今和歌集の和歌を久しぶりにたくさん読んだ。古今は、和歌の原初形みたいで、しみじみいいなあと思った。

 異色の作品では、小野道風筆『絹地切』が出ていた。絹地に『白氏文集』を写したもので、何種類かの断簡が伝わっているらしいが、展示作品には『新楽府』の「紅線毯」(赤い糸で織った敷物)が書かれていた(書芸文化院所蔵)。さらに第1展示室の最後に藤原佐里の『国申文帖』が出ていたのには、微笑んでしまった。いや「仮名」じゃないだろう、とツッコミたいところだが、しみじみ眺めると「之→し」「以→い」「女→め」など、草書がほぼ仮名になっている。

 第2展示室は、書芸文化院が所蔵する中国書跡の書軸や拓本など。『石門頌』という法帖仕立ての拓本は、よく見たら「開通褒斜道刻石」のことらしかった。いま現物は漢中博物館にあるのか。行ってみたいなあ。。。

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常設展の楽しみ/明代文人文化の華やぎ(東博)他

2025-07-03 23:25:13 | 行ったもの(美術館・見仏)

 先週末、上野の森美術館の『五大浮世絵師展』を目指して上野に行ったら、開館前からものすごい行列だったので、予定を変更して東博に足を向けた。

東京国立博物館・東洋館8室(中国の絵画) 橋本コレクション受贈記念『明代文人文化の華やぎ』(2025年6月3日~7月13日)

 橋本コレクションは、橋本末吉氏(1902-1991)の蒐集した中国書画コレクションである。東博は、2023年にも同コレクションから明代絵画の優品15件の寄贈を受け、翌年『明時代の宮廷画家と浙派』(2024年7月17日~8月18日)の展示をおこなっているが、2024年、再び明代絵画38件の寄贈を受けたことを記念し、寄贈作品を中心に、明代の文人文化の魅力を紹介する。

 小品あり大作あり、どれも楽しいのだが、これは見上げるような巨幅。いつものピクチャーレールの上に別誂えのレールを垂らして吊ってあった。さすが東博の中国絵画展示室の展示ケースはデカい。謝時臣『崋山仙掌図軸』という作品で、陝西省の崋山には、黄河の巨大な精霊が山を押しのけた時の跡が残るという伝説を描く。

 李士達『騎驢尋梅図』。ロバに乗っているのは詩人の孟浩然。中国の扇面図は、金箋のほのかな明るさを使うのが巧い。よく見ると淡彩を用いているのだな。

■東洋館8室(中国の書跡) 『市河米庵コレクション』(2025年5月13日~7月6日)。

 併設の書跡は市河米庵コレクション。米庵(1779-1858)は、唐様に優れ、五千余人の門人を擁し、財力を背景に(本業は何なんだ?)長崎経由で舶載された金石書画の収集に努めた。その大半は没後に散逸するも、明治以降に子孫が再収集し、帝室博物館に一部が寄贈されて今日に至るというのは面白いなあ。日本橋生まれで、柴野栗山(今年の大河ドラマに登場予定)に師事したらしい。

 目を引いたのは『楷書紺紙金字妙沙経』で明神宗(万暦帝)が書写したと伝わる。確かに巻末に「当今皇帝 謹厳誠心書写金字」とある。米庵は、本作の書法が森厳として顔真卿・柳公権の法を備えると述べているそうだ。顔真卿の名前が挙がるのは分かる。私の好きな書風。

■本館8室(書画の展開-安土桃山~江戸)(2025年5月27日~7月6日)

 なんだか江戸絵画らしからぬ風変りな画巻があると思ったら、谷文晁の『公余探勝図巻』だった。松平定信の相模・伊豆巡検に随行して描いたものとされる。この二人、単なる雇い主と雇われ画家の関係だったのか、もう少し知りたい。

■本館3室(仏教の美術-平安~室町)(2025年5月27日~7月6日) 

 山形・慈光明院蔵『聖徳太子像』が眼福だったので書き留めておきたい。2021年の聖徳太子1400年御遠忌にあわせた展覧会では『聖徳太子童形像・二童子像』のタイトルで出ていて、あやしく美しく、印象的だった作品である。

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2025年5-6月展覧会拾遺

2025-06-30 23:43:07 | 行ったもの(美術館・見仏)

すみだ北斎美術館 企画展『北斎×プロデューサーズ 蔦屋重三郎から現代まで』(2025年3月18日〜5月25日)

 大河ドラマ『べらぼう』人気を当て込んでか、今年は浮世絵や江戸文化をテーマにした展覧会が多い。私は、もともと浮世絵にあまり関心はないのだが、今年だけはぜんぶ見てやろう!とひそかに決めている。本展は、江戸のメディア王と評され、北斎の才能に早くから目をつけていた蔦屋重三郎をはじめ、浮世絵師と版元の関係を取り上げる。蔦屋重三郎には、初代没後に婿養子になって店を継いだ二代目がいたことを詳しく知る。北斎とのかかわりは二代目のほうが強いそうだ。ドラマでおなじみ、鶴屋、西村屋も詳しく紹介されていた。

東京都立中央図書館 企画展示『情報、江戸を駆ける!蔦屋重三郎が生きた時代の出版文化』(2025年1月24日~5月25日)

 「蔦屋」の店先を小さな模型で再現し、出版関係者の経歴をパネルで紹介するほか、江戸のマスメディア・瓦版、浮世絵や見立番付、江戸のガイドブックやハウツー本も紹介。情報量豊富な見立番付がおもしろかった。『和漢軍書番付』では、東(日本)の大関は「太平記」、西(中国)の大関は「通俗三国志」である。「通俗隋煬帝軍談」とか「明清軍談」とか初めて聞くが気になる書名もあった。鰻屋の番付『江戸前大蒲焼』の行司「大和田」は、江戸前うなぎの代名詞らしい。うちの近所にも一軒ある。

たばこと塩の博物館 特別展『浮世絵でめぐる隅田川の名所』(2025年4月26日~6月22日)

 江戸の人々にとって、とても馴染み深い隅田川。本展では、周辺の寺社、花名所、料亭など、浮世絵に描かれた隅田川の名所を紹介し、約150点の浮世絵を展示する。同館は、渋谷区から墨田区に移転して丸10年となるが、大蔵省煙草専売局の工場が隅田川沿いに建てられるなど、隅田川はたばこ産業にとっても重要な川であるため、移転した2015年以降、隅田川に関わるさまざまな資史料を収集してきたという。これは初めて知ったが、ちょっと嬉しい。でも、いま私が住んでいるのは隅田川の下流だが、本来、隅田川の名所といえば、両国・向島・三囲神社など、東京北部なのだな。明治の浮世絵に、隅田川の水害を描いたものがあることは初めて知った。

町田国際版画美術館 企画展『日本の版画1200年-受けとめ、交わり、生まれ出る』(2025年3月20日~6月15日)

 日本現存最古の印刷物である『無垢浄光大陀羅尼経(法隆寺百万塔陀羅尼)』から、仏教版画、絵手本や画譜、浮世絵、創作版画、新版画、戦後版画、現代版画へと連なる約240点を収蔵品から厳選して紹介する。単に「日本の版画」を展示するのではなく、そのイメージや技術の源泉となった海外作品を並べて、文化交流の視点で日本の版画1200年の歴史を辿る構成なのが意外で面白かった。日本文化の粋みたいに言われがちな版画も、決して世界から孤立した状態で生まれたものではないのだ。

日本民藝館 特別展・所蔵作品一挙公開『棟方志功展I 言葉のちから』(2025年6月14日~7月27日)

 3期にわたって開催される棟方板画大規模公開の特別展。第1章の今期は、詩人たちの詩歌や物語から着想した作品を紹介する。チラシ・ポスターになっているのは、キツネとオオカミ(ヤマネコ?)のような動物のコンビに「夕されば狩場明神あらわれむ 山深うして犬の聲する」という和歌が書きつけてある。これは2階の大展示室で見つけた。「流離抄柵歌 吉井勇」というキャプションの付いた八曲一双の屏風で、1扇に2枚ずつ、和歌と挿絵の版画が貼ってあった。吉井勇か~と納得してしみじみ眺めた。ほかに私の気に入った歌は「あだ名して樊噲と呼ぶ極道も しみじみとして遊ぶ秋の夜」「寂しければ酒ほがいせむ今宵かも 彦山天狗あらはれて来よ」など。谷崎潤一郎の和歌に寄せた屏風もあって、うーん吉井勇ほどおもしろくないなと思ったが、以下の1首はとかった。「願はくは空に人工衛星の翔(あまかけ)る日に生きてあらばや」と書いて、仏と天女の絵を添える。版画の間に、ときどき棟方の水墨画があって、にじみやぼかしを活かした墨の色に惹かれた。

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「推し」は天平写経と元代墨蹟/写経と墨蹟(根津美術館)

2025-06-24 22:23:27 | 行ったもの(美術館・見仏)

根津美術館 企画展『はじめての古美術鑑賞-写経と墨蹟-』(2025年5月31 日~7月6日)

 「はじめての古美術鑑賞」シリーズ。2019年の「絵画のテーマ」以来の開催という認識で合っているだろうか?それにしても「写経と墨蹟」って渋すぎるだろ!と思いながら見に行った。開催趣旨では「確かに、その内容は決して易しくありません」と認めつつ、「一点一点を丁寧にみてゆくと、どこかに『推せる』ポイントが見つかるのではないでしょうか」と述べる。

 展示室の前半は写経。冒頭は、我が国最古の大般若経『和銅経』で「写経は1行17文字が基本です」という基本情報から教えてくれる。『和銅経』が標準的な料紙を使用しているのに対して、次の『神亀経(大般若経)』は、通常の3~4紙に相当する「長麻紙」を用いている。へえ~知らなかった。『聖武天皇勅願経(観世音菩薩受記経)』は、官立の写経所でつくられた最古の写経だそうで「ザ★天平写経」というポップなキャプションに笑ってしまった。『和銅経』に比べて「字形がやや縦形」という説明があり、ケースの前を行ったり来たりして確かめた。

 平安時代に入ると、美麗な装飾写経が多数つくられた。『飯室切』とキャプションのついた「金光明最勝王経注釈」は、「切」なのにほぼ巻子本。やや癖のある、自分のためだけに書写したような墨書は嵯峨天皇の筆と伝わり、胡粉による白い文字の書入れは空海の筆と伝わる。『無量義経・観普賢経』は、細かい金箔を散らし、濃淡の差のある茶色い料紙を交互につなげる。線の細い優雅な文字は、平安貴族の美意識を感じさせる。

 後半は墨蹟。『龍巌徳真墨蹟(偈頌)』の解説だったと思うが、与える相手の道号(名前)を文中に巧みに読み込んでいることが分かった。こういう機智は、和歌や狂歌にも通じるように思う。今回、元時代の墨蹟5件が出ていたが、どれも堂々とした書風で私の好みだった。チラシやポスターに使われていたのは、上述の『龍巌徳真墨蹟』で「至順二年」しか読めなかったのだが、その隣の巨大な二文字が「残更」であることを知った。「独り楼鼓を聴いて残更を数う」の最後の二文字なのだ。草書の名手・一山一寧とか、笹の葉書きの宗峰妙超も悪くないけど、私は元代の墨蹟を推したい。

 墨蹟の全文翻刻シートが入口に用意されていたのはありがたかった。参観者は外国の方が多く、特に中国系の家族連れや若者が目立った。中国系の小柄な女子二人組が熱心に墨蹟を見ていて、日本人のおじさんが持っていた翻刻シートを見せてもらっていたのも微笑ましかった。かつて日本人留学僧に墨蹟を与えた中国の高僧も、それを大事に持ち伝えた日本の僧侶たちも、この光景を見たら嬉しいだろうと思った。

 展示室2は一転して、ほっと気の抜ける素朴な大津絵。「一転して」と書いたけれど、大津絵には仏教関連の題材も多い。1929年「名残の茶会」で根津嘉一郎が床の間に大津絵「鬼の念仏」を掛けたのは「客の度肝を抜く趣向」(高橋箒庵)と評されたという。

 展示室5は「特別仕様の美術品収納箱」。茶碗にはぴったりサイズの収納箱が作られている。書画軸の収納箱は蒔絵仕立てが多い。『矢田地蔵縁起絵巻』の収納箱(江戸~明治時代)は、蓋を真上から見ると、尖った花弁の先がちょこちょこと顔を出しているだけで、何の模様かよく分からないのだが、横から見ると、それが蓮花の一部であることが分かる。凝った趣向でとてもよい。『崔子玉座右銘断簡』の収納箱(明治時代)は、国宝『宝相華迦陵頻伽蒔絵冊子箱』の意匠をもとに作られている。中国・明代の旧収納箱も並んでいて、螺鈿細工が愛らしかった。

 展示室6は「風待月の茶会」。素材を生かしたシンプルな道具、東南アジアや朝鮮半島など、海外由来の道具が多かったように思う。『古染付葡萄絵水指』(景徳鎮)は、何度見ても好き。

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不昧公との縁/花ひらく茶と庭園文化(荏原畠山美術館)

2025-06-14 22:38:08 | 行ったもの(美術館・見仏)

荏原畠山美術館 開館記念展III(急)『花ひらく茶と庭園文化-即翁と、二万坪松平不昧 夢の茶苑』(2025年4月12日~6月15日)

 リニューアル開館記念展の第3部は、畠山即翁をはじめ、近代茶人の憧れの存在だった大名茶人・松平不昧の茶の湯と庭園づくりに着目する。

 第1展示室、この日は曇り空で室内が暗かったので、天井の金の波模様が目立って美しかった。『古瀬戸肩衝茶入(銘:円乗坊)』は、不昧にも評価された大名物。円筒形の無骨な姿だが、本能寺の変で被災したという由緒に心惹かれる。即翁の茶道具コレクションは、全体にシンプルで自然志向で好き。特に模様も色変わりもない『備前八角水差』や無文で筒形の『東陽坊釜』(辻与次郎作)も気に入った。不昧公遺愛の品だという『唐物籐組茶籠』は、女性持ちの巾着袋くらいの小さなバスケットで、ちょっとひしゃげているのが使い込まれた感じだった。小ぶりな茶碗が2つ、茶杓、棗など一式を収める。茶筅は陶器の筒に収めて持ち運ぶのだな。絵画は梁楷の『猪頭蜆子図』が愉快。ブタの頭にかじりつく猪頭和尚と、小さなエビをぶらさげた蜆子和尚の、乞食坊主二人の対幅である。

 新館展示室へ。昭和12年(1937)即翁が大師会の席持ちデビューを果たした護国寺圓成庵席の道具組などを参考に、えりすぐりの名品を展示。茶の湯好きの見どころは『井戸茶碗(銘:細川)』や『唐物肩衝茶入(銘:油屋)』(仕覆など付属品多数)なんだろうけど、私は藤原佐理の『離洛帖』に見入ってしまった。久しぶりい! 去年の大河ドラマ『光る君へ』は途中離脱してしまったが、渡辺大知さんが演じていたのだな。大宰府赴任の途中、出発の際に摂政道隆に挨拶を忘れたことについて、甥の誠信にとりなしを求めた書状である。もちろん全文漢文なんだけど、日本人が書いていると思えないスピード感が心地よい。「避逃」のしんにょう二つが特に好き。

 地下の展示室は、また近代絵画かな?と思ったら、全然違った。はじめに町絵図や茶室間取図の大きなパネルが掲げられていた。説明によれば、松平不昧は、品川大崎の松江藩下屋敷に11の茶室が点在する大茶苑を造営したが、黒船来航の際に品川沖警備の軍用地となり、取り壊されてしまった。ただし、不昧の没後、松平定信が谷文晁に庭園の様子を描かせており、明治の模本が今日に伝わっている。あと、大崎茶苑の茶室を担当した畳師の記録がいろいろ出ていて面白かった(港区立郷土歴史館、あなどれない)。昭和になって、即翁が土地を入手した同美術館の現在地は、不昧の大崎茶苑の近隣に位置しているという。即翁は歴史を知っていてこの地を選んだのかな。

 最後に昭和39年(1964)に撮影された『畠山記念館開く』という無音の記録映像を見ることができ、私は畠山即翁が動いている(挨拶をし、お茶を立てている)映像を初めて見た。政界、財界の有名人らしい顔が何人も映っていたのだが、はっきり分かったのは佐藤栄作くらいだった。解説を付けてほしい。

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2025年5月関西旅行:MIHOミュージアム、細見美術館

2025-06-08 23:11:02 | 行ったもの(美術館・見仏)

MIHOミュージアム 春季特別展『うつくしきかな-平安の美と王朝文化へのあこがれ-』(2025年3月15日~6月8日)

 先週末の関西旅行の記録、ようやく最終日に到達である。日曜は朝イチ、石山駅から路線バスに乗ってMIHOミュージアムに向かった。本展は、古筆をはじめ、工芸品や仏教美術、琳派の源氏物語図屏風、歌仙絵など、貴族文化の誕生から桃山初期に興る王朝文化への憧れがこめられた作品を織り交ぜて展観する。

 冒頭は二月堂焼経、賢愚経断簡(大聖武)などの古経と小さな誕生仏(飛鳥時代)、迦楼羅の伎楽面(奈良時代)など、大陸文化の香り高い「王朝前史」から始まる。そして王朝文化のあゆみが始まるのだが、『宝相華鳳凰文平胡籙』は初めて見たような気がする。ニワトリのような鳳凰が2羽ずつ対面で4羽、螺鈿で描かれている。宝相華には青い石が嵌め込まれていた。美麗このうえなし。あと、透かし模様の入った『球形香炉』は、あ、中国の古装ドラマで見るやつ、と思ったら、これは中国・唐時代のものだった。定朝様の立派な阿弥陀如来坐像を眺めて、次の展示室に進むと、赤い衣の『阿弥陀仏』(原三渓旧蔵、鎌倉時代)が掛かっていた。MIHOミュージアムのコレクションのページに写真があるが、薄暗い展示室で見るほうが、趣きありげだったように思う。

 続いて「名帖『ひぐらし帖』を中心として」と題した古筆切のセクションに入る。実は、全く予習をしてこなかったのだが、本展は、MIHOミュージアム所蔵の『ひぐらし帖』の初公開をうたっている。『ひぐらし帖』は吉田丹左衛門によって手鑑として作られ、安田善次郎を経て、菅原通済(1894-1981)が再編・軸装したものだという。私はパネルの説明を何度か読み直して、「手鑑」としての『ひぐらし帖』は存在しないことを理解した。展示室に掛けめぐらされた古筆切の軸の多くに「『ひぐらし帖』収載」のキャプションがついている。この展示空間そのものが、いわば『ひぐらし帖』なのだ。展示替えがあって、一度に全件を見ることができなかったのは、残念だがやむをえないところ。

 高野切第1種は『ひぐらし帖』収載分ではなく、別の「個人蔵」(としのうちにはるはきにけり) だった。第1種には、私の好みに合うものと合わないものがあるのだが、これは気に入った。石山切は、伊勢集2件、貫之集2件を見ることができたが、料紙のデザインがあまり派手でなく、筆跡の美しさを堪能できてありがたかった(特に貫之集、定信筆)。表具の魅力的なものが多かったので、図録に軸の全体像の写真が掲載されているのには感心した。私が特に好きだったのは『ひぐらし帖』収載の『香紙切』(大きな青い鳥)、個人蔵『紙撚切』の花と市松模様の裂もよかった。

 その後、茶の湯と古筆のセクションで、膳所焼美術館所蔵という茶道具がいくつか展示されていた。膳所焼の名前は知っていたが、美術館があるのは知らなかった。今度行ってみよう。

 ミュージアムショップで、格安のおみやげ、古筆のしおり(1枚90円)を購入。裏面は表具の写真が使われている。左が伊勢集、右が貫之集。なお、展覧会タイトル「うつくしきかな」が「仮名」に掛かっていることには、帰りのバスの中で気づいた。

細見美術館 『広がる屏風、語る絵巻』(2025年5月24日~8月3日)

 もう1か所行けそうだったので、石山→山科乗り換え(地下鉄)→東山経由で同館へ。空間に広げて鑑賞した屛風と、手許で展開して楽しんだ絵巻を紹介する。細見コレクションの『豊公吉野花見図屏風』と『祇園祭礼図屏風』は何度か見た記憶があった。個人蔵の『洛中洛外図屏風』は初見だろうか。近年確認されたものとあり、エンボス加工強めの金雲が目立つ。左隻は将軍参内の図で、直垂の従者たちが仲良く手をつないでいるように見えた。『観馬図屏風』は、右隻に11頭、左隻に10頭、さまざまな毛色の馬を描く。乗馬しているのは直垂姿の武士たち。白衣に黒烏帽子で馬の世話をしているのは、もっと下っ端の従者なのかな。

 がらりと雰囲気を変えて、鈴木其一『水辺家鴨図屏風』は、媚びない写実なのにひたすら可愛い。『撫子図屏風』も美しかった。和歌の歌枕である「常夏(とこなつ)」を思い出した。『源氏物語図屏風・総角』は岩佐又兵衛筆とされる。大勢の男たちを乗せた2艘の舟が宇治の八の宮の屋敷に向かっていく。吹き抜け屋台の手法で、屋敷の中から様子をうかがう女性たちの様子も描かれる。すれ違うのは柴を積んだ小舟。

 絵巻では『狭衣物語絵巻』に「藤」「山吹」という2件の断簡(軸装)が伝わっていることを知る。『硯破草紙絵巻』は室町幕府第11代将軍足利義澄が愛蔵していた作品だというが、荒唐無稽な筋立てで苦笑してしまった。

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