〇府中市美術館 春の江戸絵画まつり『司馬江漢と亜欧堂田善:かっこいい油絵』(2025年3月15日~5月11日)
会場入口のパネルの冒頭に「近年、江戸時代の絵画の人気が高いと言われますが、ただ一つ取り残された感があるのが『洋風画』かもしれません」とあって、えっそうなの?と驚き、苦笑してしまった。私は「洋風画」が大好物なので。
府中市美術館では、2001年に『司馬江漢の絵画 西洋との接触、葛藤と確信』展、2006年に『亜欧堂田善の時代』展を開催したが、近年の「春の江戸絵画まつり」ほど多くのお客様で賑わうこともなかったという。2001年は私がこのブログを書き始める前で、司馬江漢展は見ていないかなあ。2006年の『亜欧堂田善の時代』は、私が「春の江戸絵画まつり」のリピーターになった最初のきっかけである。ちゃんとタネは地に落ちて育っているのである。
展示は、はじめに江戸時代のさまざまな絵画と「洋風画」を並べてみることから始まる。漢画、やまと絵、浮世絵、禅画、琳派、円山四条派など。そこに現れる秋田蘭画、小田野直武や佐竹義躬。彼らに洋風画法を教えたのは平賀源内と言われているのだな、ほほう。このほか、大久保一丘の静謐な少年像『伝大久保一岳像』(府中市美術館)や、田代忠国のキッチュな『三聖人図』(帰空庵コレクション)など、洋風画ファンには垂涎の名品が多数。展示替えがあるので、後期も来なくては、と思っている。
そして、司馬江漢(1747-1818)登場。青年時代は鈴木晴信に学び、中国流に転身して宋紫石に学び、さらに平賀源内から西洋の画法を学ぶ。なので、なんだかいろんなタイプの作品が残っているのだ。ガラス製の釣花生けに盛られた色とりどりの花を描いた南頻派ふうの『生花図』もあれば、あっさりした淡彩の和装『美人図』もある。洋風画の典型みたいな『異国戦闘図』(個人蔵)もあり。『捕鯨図』(土浦市立博物館)は楽しいなあ。江漢は長崎県の生月島で捕鯨漁を見学し、詳細を挿絵つきで『江漢西游日記』に書き残していて、飾らない文体から、好奇心と素直な興奮が伝わってくる。
本展の図録で江漢が「文人洋風画家」と呼ばれていたことは、とても腑に落ちた。江漢の絵は「下手」とか「稚拙」と評されることが多いそうだ。しかし江漢は、西洋画の描き方を学んでも、近代の基準でいう「上手」な絵を書こうなんて、たぶん思ってない。文人だから。『駒場路上より富岳を臨む図』は今年の正月に山種美術館の『HAPPYな日本美術』で見たものだけど、まさにHAPPYであれば、童心や好奇心が発動する絵画であれば、上手いも下手も関係ないのではないかと思う。
後半は亜欧堂田善(1748-1822)。私は2006年の府中市美術館の企画展以来、このひとを追っているので、代表作はだいたい知っているつもりだったが、『観瀑図』(帰空庵コレクション)『山水図』(個人蔵、横に細長い小襖)の、滝や岩壁を抽象化した描き方は初めて見たかもしれない。このひとも、描かれた風景や人物に現実味がないのは、絵が「稚拙」だからなんだろうけど、別世界に連れていかれるような浮遊感が好きだ。
ところで、江漢は平賀源内から洋風画を学ぶし、田善は白河藩主の松平定信に見出されるので、まさに今年の大河ドラマの同時代人なのである。でも洋風画家じゃマイナーすぎて、ドラマには登場しないかあと、しみじみ年表を眺めてしまった。